第6話 ターゲットとの接触

「うるさい……! 俺を殺してみろ、警察が本気で追いかけるぞ! 俺は警察にはコネクションがあるんだ!」

「なるほど、警察か」

「ああ、そうだ。しかも警察の雑魚ではない、幹部だぞ。あいつが指揮をとって本気で逮捕しようとするぞ。それでもいいのか?」

「……」

「取引だ。今引き返すなら、警察は抑えてやる。本気で追いかけ回すことはないように手配するぞ。それでどうだ?」

 イザードはそう口にすると同時に、腕に激痛を感じる。腕を見ると、小さなナイフが突き刺さっていた。


「な……」

「お喋りはそれくらいにしてくれ。耳障りだ。さて、お前にはいくつか聞きたいことがある。答えてもらおうか」

 イザードは明らかに怯え、大量の汗をかいている。ランスはそれを気にせず話を続ける。

「お前が多数の殺人事件に関わっているという話がある。それは本当か?」

「俺は知らないぞ! そんなことはしていない!」

「殺された女がこの家に連れ込まれているところ、そして死体を運び出すところをうちのメンバーが目撃しているが、お前は関係ないということだな?」

「……」

「今のは確認ではなく、聞いてみただけだ。気にするな。さて次の質問だ。被害者の物をコレクションしているな? それはどこにある?」

「そうか、あいつらの復讐か……。どこにコレクションしているか、だと? ぐっ……」

 ランスはもう片方の腕にナイフを投げつける。


「お前の時間稼ぎに付き合うつもりはない。どこにあるんだ?」

「地下室だ! この家の地下にある! 確認してくれ!」

「そうか、わかった。確認しよう。ところで最後の質問だ。なぜ殺人など犯そうと思った?」

「最初は、ふとしたはずみで女を殺してしまったんだ。ただ、そこから殺しに興奮する様になってしまってな…… こんなことになるとは思わなかったよ……」

「そうか。まず、地下室を案内してくれるか? もちろん妙な真似をしたら殺すからな?」

「あ、ああ……」

ランスはイザードの背にナイフを突き立てながら2階から1階に降りる。イザードは緊張した足取りながらなんとか歩いている状態だ。屋敷の中は静かで音は2人の足音だけ。


「ここだ。中を確認してくれ」

 イザードは玄関先の足元のレバーを引き、隠し扉が開くとそこには地下に繋がる階段があった。中は薄暗く、部屋の中までは見ることができない。

「降りていけ」

 ランスの指示でイザードが階段を下っていく。ランスは後ろをついていくと、そこには小さな部屋があった。中には女性物のネックレスや指輪、服などが綺麗に飾られている。

「これがお前のコレクションだな?」

「ああ、そうだ…… これで満足か? これが警察にバレれば俺は逮捕されて人生は終わりだろうな。もうそうなる諦めはついているよ」

「なんの話だ? お前はここで死ぬんだ。人生はここで終わりだよ」

「待て、早まるな。金ならやる。だから見逃してく、」

 ランスは無言で剣をイザードの頭に突き刺した。飛び散る血と崩れ落ちるイザード。ランスは地下室を後にし、2階に戻っていく。イザードの部屋の前には女がいた。イザードの妻か恋人か、目には悲壮感がある。

「お前はイザードの妻か?」

「いいえ、恋人です。といってもまだ付き合い始めて1ヶ月なのですが。話は聞きました。殺人犯だと知っていれば付き合うことはなかったのですが」


「まあ、人の本性を見抜くのは難しいものだ。運が悪かったと思うしかないな」

「そうですね…… 私は殺されるのでしょうか?」

「いや、お前には警察に全てを証言するという重要な役割がある。部屋に戻っておけ。逃げようとしたら殺すが、そうでなければ何もしない」

「…… なるほど、わかりました。必ず彼の悪行について証言させていただきます」

「ああ、それでいい」


 ランスはイザードの部屋に戻り、火薬をセットする。導火線に火をつけると、全力で部屋を出て、ハンググライダーのあるベランダに向かう。

 次の瞬間、凄まじい轟音が鳴り響く。



「作戦は成功ということね。そろそろ戦いを終わらせましょうか」

 唯一の生き残りである隊長との戦いを続けていたリサは轟音を聞いて、戦闘を加速させる。盾を巧みに扱いながら攻撃をブロックする隊長に持っているナイフを全力で投げつける。

「なっ……」

 次の瞬間、全力で加速したリサはジャンプして隊長の後ろに飛び移り、頭に蹴りを一閃。隊長は崩れ落ちる。


「死んでない、よね? よし、撤退ね!」

 リサはエフレンに合図を送ると、即座に夜の闇に消えていく。逃走経路は事前にエフレンと打ち合わせていた通り、警察所とは反対側だ。拠点にすぐ戻ることはせず、しばらくは移動し続け、敵がついてきていないかを確認することに集中する。



 ランスはベランダからハンググライダーで飛び降りる。相変わらず風が気持ちいい夜だ。正門前に転がる死体を眺めながら、邸宅を後にした。ハンググライダーを追いかける者はいない。振り返るとイザードの恋人がこちらを見ていた。せめて彼女は悪の道に進まないように、そうランスは祈りながら飛び立っていく。

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