卯族と辰族の交代儀式 [ファンタジー]

最後の日。そう、今日は最後の日だ。


我々、卯族が世を支配してから三百と六十五日、ついに辰どもにこの世界を受け渡す時がやってきた。


伝統に則り統領の宇佐十郎が巨大な杵と臼を担いでやってきた。


「野郎ども!始めるぞ!」


統領の掛け声で卯族の民は歓声をあげ、次々と炊き立ての餅米を運んできた。


それらを一気に臼の中へと放り込む。餅つき大会の始まりだ。


「そぉおおぉれぇぇ!!」


ぺったん。


「よいしょぉぉおぉぉ!!」


ぺったん。


統領の力強いぺったんにより、餅米はたちまちツヤツヤの餅へと姿を変えた。


餅が完成すると、小さき卯の子たちが、餅を千切っては丸め千切っては丸めて幾千もの丸餅をこしらえた。


粉をふられてスベスベになった丸餅たちは次々と大きな袋へ入れられていった。


それは、神代より受け継がれる頭陀袋。

かの大黒天より賜ったと言われる聖なる袋である。


餅をすっかり詰め終わると、卯族の者たちは袋を担ぎ上げ、ムーロウへ向かった。


そこは龍の住まう穴蔵がある。


ムーロウの龍穴へ到着すると、卯族の民は一斉に祝詞を唱えた。


「かしこみかしこみ。天を統べる我らが龍神よ。その御心にて我が魂を食らえたもう〜」


卯族の声は美しい和音となって龍の住む洞窟に響き渡った。


その声に呼び覚まされて、四千と十六日の眠りから目覚めた辰族の長がぬっと顔を出した。


辰の顔を見ると卯族の者たちは「きゃーっ」と声をあげて、袋から取り出した餅を次々と辰の方へと放り投げた。


餅はぴゅーん、ぴゅーんと弧を描き辰の方へと飛んでいった。


辰はあーんと口を開けて飛んできた餅を食べた。


そして地を震わす声でこう言った。


「卯族の神々よ。月を眺る団子、しかと受けっとた!この世は我らに任せたまえ!」


それを聞くと、卯族の民は飛び上がり、一目散に自分たちの寝ぐらへと飛び帰って行った。


辰族の長はそれを少し寂しそうに見送った。

彼は常日ごろ思っていることがあった。


…あのモフモフに触れたい。柔らかいお腹に顔を埋めて思い切り匂いをかぎたい…。


龍と兎ではそれも叶わぬ夢…。


いつか長を引退する時が来たら、小さな身体を手に入れて、この命尽きるまであのモフモフを愛でるのだ…。


これが龍神たる辰族の長の最も叶えたい願いなのであった。

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