穴の中の君に贈る [ホラー]

気が付くと俺は見知らぬ部屋にいた。

天上から裸電球が吊るされている。


部屋には窓も出口もなかった。

俺にはが全く記憶なかった。自分が誰なのかもわからなかった。


どれくらいの時間が経っただろうか。


左側の壁の方から何やらぼそぼそと話声が聞こえてきた。

俺は壁を調べた。


壁には小さな穴があった。

覗くと、隣にも部屋があった。声はそこから聞こえてきた。


「おい、誰かいるのか?」


俺が声をかけると、囁き声が一瞬止まり「誰?」とはっきりした声がした。


子供の声のようだった。


「隣の部屋にいる。お前は誰だ?」


「わからない。自分が誰なのかわからない」


「俺も同じだ。どれくらいここにいる?」


「わからない」


それから俺たちは会話を続けてお互いを励まし合った。

最初に力尽きたのは子供だった。


俺は子供を呼び続けた。

子供は小さな声で返事をしていたがやがてそれも聞こえなくなった。


俺は静寂の中に取り残された。


気が付くと俺はブツブツと独り言を繰り返していた。


どれくらいの時間が経ったのだろう。唐突に右側の壁から声が聞こえた。

その声はこう言った。


「ねえ、誰かいるの?」

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