20.☆颯真の手紙
サナのメッセージに返事をして、やっと取りかかるころには、すっかり日も落ちてしまっていた。
『ハツヨさんへ
お元気ですか。雨がしとしと降る季節になりましたね。
天に向かって真っすぐ伸びている菖蒲の花を見ると、いつも背筋を伸ばして凛としているあなたを思い出します。
雨の夜は冷えますが、風邪など召されていませんか。
さいきん体調がすぐれないと伺っておりました。お孫さんが心配そうにあなたの手を握っていましたよ。あなたは周りの家族にとても愛されているようですね。
神様はいじわるではありませんから、辛抱強くまっていればきっと良くなると信じています。
不安になったときは、あなたを愛する家族の名前を呼んでみてください。きっとすぐに駆け付けてくれますよ。
私はあなたの傍にいることはできませんが、いつもハツヨさんの心の中にいて見守っています。
フミより』
これは、立派なラブレターだと思う。私たちも手助けしたけど、これはおばあちゃんを大事に想う、れっきとした颯真からの手紙だ。
颯真がおばあちゃんに似合うといって選んだ、うぐいす色の封筒にそっと入れた。
うまくいきますように、と祈って、なくさないように今度こそ大事にかばんに入れた。
「静葉、ありがとう! さっそく週末行ってくる」
手紙を渡すと、颯真は今にも泣きだしそうな笑みを浮かべた。笑うと目じりがくしゃっとなる。私はなんとなく、その目元に彼のおばあちゃんの面影を感じた。
きっと凛としていて、颯真みたいにからっとした人なのかもしれない。
「きっと大丈夫、みんなで気持ちをこめたから。喜んでくれるといいね」
二人で手紙を見ながら微笑んでいたら、ふと颯真が真面目な顔つきになった。
「俺も、書いてみようかな、手紙」
「誰に?」
「秘密」
颯真はいたずらっぽくウインクした。これがかなり似合っていた。さすがイケメン。
最初はみんな颯真に対して「恐れ多くて近寄れない~」みたいな感じだったけど、最後の方なんか遠慮なしにあれこれ言いあっていたし、今は団結力みたいなもので結ばれていた。
「でも、こうやってみんなで手紙のこと考えてて、すげー楽しかった。手紙っていいな。気持ちを丁寧に伝えられる気がして」
「私もそう思う。ほんとに楽しかった」
帰り際、颯真は思い出したように私を振り返った。
「そういや、静葉って空手部の町屋と付き合ってるの?」
「え、なぜ」
私は一本の棒みたいに硬直した。ここでもか。
颯真の表情からは面白がっているような気持ちは感じられない。あくまで真面目に聞いているのだ。
「いや、同じ部活のやつが安藤結華と仲良くてさ。最近狙ってるって聞いたから」
「でっ! うそでしょなんで」
思わず変な声が出た。あの安藤結華が? どんなつながりで?
「安藤が大学生の彼氏に振られて泣いてたら、なぐさめてくれたんだって。でもサナに言ったら、『静葉がいるしそれはない』って断言してたから、俺てっきりそうなんだと」
「いや、ないない。幼なじみだよ」
私は内心あちゃ~と頭を抱えた。やつの『泣いてる子には優しい』スキルがこんなところで発揮されてしまうとは。
しかも隼人って下心なしであんなことするから、いつも言い寄られること前提の安藤結華にとっては新鮮だったのかもしれない。
最悪だ。
最悪? うん。サナは嫌がりそう。
「ふーん」
颯真はというといまいち納得していない顔だ。
「なにさ」
「まあ、頑張れ。今度四人で飯いこう」
「あ、いいね。言っとく」
頑張れ、という言葉はいまいちピンとこなかったけど、颯真に手を振り返して別れた。
ちなみにフミさんの正体はすぐに明らかになった。老人ホームのレクリエーションに来た男性歌謡グループのうちの一人だったのだ。
私たちはそれを聞いて、なーんだ! と胸をなでおろして、肉を焼きまくった。笑いながら食べる焼肉はとても美味しかった。
颯真のおばあちゃんは、最近は推し活でいきいきとしているそうだ。
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