第二十九話 想いを重ねて
ルーカスはまだ見ぬ未来に、最悪の結末を想像して、不安を胸に
(もしも、彼らを止められなかったら……)
止めたとしても、打開策を見出せなかったとしたら——と、思考が底なしの沼へ、
そんな時だ。
「——ス、ルーカス!」
自分の名前を呼ぶ声と、両頬に「パチンッ」と弾けるような衝撃を感じて、思考が引き戻された。
長い
「……すまない。こう言う時こそ、気持ちを強く持たないといけないのにな」
「謝らないで。ルーカスが謝る事なんて、一つもないんだから。
……大体、ルーカスは自分に
感情に流されず、己を
それはルーカスが心掛けている事だ。
しかし、自分ではまだまだ至らないと思うばかり。
「厳しすぎる」という彼女の指摘に、首を
「そんな事はないと思うが……」
「そんな事ある。何日か前は怪我の治療を後回しにしてるし、過去の事は一人で痛みに耐えようとするし、今もちょっと弱音を吐いただけの事を謝るし。
……私だってルーカスの支えになりたいのに。一人で
イリアの切なる想いを乗せた、真っ直ぐな瞳が見つめて来る。
怪我の治療を受けた時も「何かあれば言ってね」と言われ、似たようなやりとりをしたと言うのに、中々に変え難い自分の性分を、ルーカスは
——そもそもの不安は、彼女の考えを聞いていない事にある。
今ならば、邪魔が入る事もない。
不安の種がハッキリとしているのなら問題を先送りせず、早急に取り払うべきだろう。
ルーカスはイリアの瞳を見つめ返し、彼女の考えを問う事にした。
「なら、聞きたい事があるんだ。
頬にあったイリアの手が離れ、間近にあった顔の距離が
「そうね。ちゃんと話せていなかったものね。選択肢はそう多くないし、誰もが思いつく方法とも言えるけど——」
そうして、イリアは打開策について話してくれた。
「まずは
——これは最終的に
「根本の原因、
——クリフォトを支配する神。
女神と同等の、あるいはそれ以上かもしれない超常の存在であり、その力は未知数だ。
イリアも「あちらへ渡る手段もないし、今すぐには難しい方法ね」と続けて見せた。
——そこから、もういくつかの案が語られたが、どれも一長一短。
実現性に欠ける物も多かった。
ノエルが「時間がないんだよ」と
やはり状況は絶望的なのだろうか、とまたも不安が
「……また難しい顔してる。話は最後まで聞いて」
イリアが頬を
その仕草が場違いにも可愛いと思えてしまう分、まだ心に余裕はあるようだ。
「わかってるよ、話してくれ」
「うん。最後のこれが本命とも言える方法。
——
「
イリアが首を大きく
「ただ……復元にはノエルの協力が必要なんだけどね」
女神がその身を
術式の
事態は一気に好転する。
「教皇はこの方法を?」
知っているのか、という意味を込めて問う。
イリアが今度は首を横に振った。
「今日の様子を見たでしょう?
話そうにも
「彼に従う使徒達も、か?」
「うん。
使徒の本能が起因しているのだろうが、誰も
だが、個々の胸中を
「ルーカス、これを持っていて」
彼女の瞳と同じ、
ルーカスは手渡されたそれと、イリアの顔を交互に見つめる。
「これは?」
「お守り。あの子は、敵と
私にはこれがあるから」
イリアは左腕を胸の位置へ持ち上げた。
腕には
ルーカスが彼女へ
自分の瞳と同じ色の装飾品を、お守りと思って身に着けてくれている事がルーカスは嬉しかった。
「ありがとう。肌身離さず、身に着けるよ」
「うん。難しいってわかってるけど、ノエルを説得して——仮に、出来なかったとしても、生きて帰ろう。それで皆が笑って歩ける道を、一緒に探すの」
イリアは一瞬、悲し気な表情を見せたが、すぐに微笑んで見せた。
先日も見た、
てっきり、イリアは
ならば——と、ルーカスは彼女の〝願い〟と、これまで立てた〝
伝えられた想いを、
「——その願い、必ず叶えよう。共に未来を
彼の力が必要だから——じゃなくて、辛い経験をした分、生きて幸せになって欲しい」
対話での説得は叶わず、イリアも
だから、悲観する必要はまだ、ない。
自分と彼女の不安を振り払い、気持ちを
すると、イリアの目尻から
「うん……うん。帰る時はノエルも一緒に、だね。ありがとう、ルーカス」
「俺の方こそ、話せて良かった。ありがとな」
ルーカスはイリアと、どちらからともなく空いた手を伸ばし、
「ノエルを止めよう」
「共に生きる、未来のために」
自然と顔の距離が縮まり、吐息のかかる位置で止まる。
ルーカスは
お互いの鼓動を感じながら、想いを重ね、確かめ合うように——。
明日、決戦の地となる
【法王】の
神聖騎士団を束ねる頂点、使徒と
そして女神の
お互いの信念を
それでも、戦わなければならない。
信念と——命を
守りたい人がいる。
共に歩みたい未来がある。
可能性が
(願いを叶え。
未来を、切り開く——!)
ルーカスは想いを
第一部 第四章
「隠された世界の真実」
終幕。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次章
第一部 第五章
「女神のゆりかご」
何を救うため、何を犠牲にするのか。
彼らは選択を迫られる。
ルーカスは新たな道を、未来を切り開く事が出来るのか——?
剣と魔法、愛と歌で紡ぐ物語は大きな転換点を
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
読了ありがとうございます。
これにて第四章終幕です!
この後はいくつか番外編が続きます。
本編に関係ないお話もありますが、もし宜しければ目を通して頂けると嬉しいです。
次の第五章は第一部の締めくくり。
ルーカスvsノエル
それぞれの信念を
戦いの行方。
その後に世界はどう進んでいくのか。
続きも是非、その目でお確かめ下さい。
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