第三十四話 心の傷≪トラウマ≫
アディシェス帝国第二王子。
アレイシス・ドゥエズ・アディシェス。
あの日、ヤツは混乱に乗じ大軍を
最前線で王国兵を
楽しそうに歪んだ顔には返り血による
背丈は一般の平均よりも低い印象を受け、逆立った短い白髪に、アディシェス皇族の特徴である
年齢は今のルーカスと変わらないくらいだ。
人を
そして——。
『んん?
男の不快な声が頭の中で再生された。
「ヤツは、俺達の目の色を見て、王家の血筋だと気付いて」
帝国兵に囲まれ、ルーカス達は応戦したが、圧倒的な力の前に
周囲にいた味方は皆殺しにされ——ルーカスとカレンは捕らわれた。
そして囚われの身となったルーカスは、アレイシスの前で地に押し付けられ、カレンは——。
——ヤツに
ルーカスと、大勢の兵士が見ている前で。
ルーカスは必死に足掻いた。
彼女は自分が守るべき大切な、愛しい
もがいて手を伸ばして、喉が
けれど
そんなルーカスを
「目の前で、カレンを……俺は、何も出来なかった……っ! 無力で……カレンが、ヤツは——!」
カレンを散々いたぶって、おもちゃのように扱った。
ヤツは人を人と思わぬ所業を繰り返して——それでもカレンは、気高く美しくあった。
決して屈する事無く、
最期まで。
アレイシスは鳴かぬ鳥に興味を失ったのか、
嫌な予感がしてルーカスが叫ぶと嬉々として、ゆっくりカレンの胸に剣を突き立てた。
皮膚を
——思い出したくもない、
胸が締め付けられ焼けるように痛む。
息が上手く出来ずに
肩で呼吸を繰り返して
「俺は、守れなかった……!」
無力な自分を呪った。絶望した。
言い知れぬ激しい怒りと、底のない悲しみ。
「最期まで
もはや、どの感情によって心が痛み、悲鳴を上げているのかわからず、ただ激しく荒れ狂う波のような激情に体が震えた。
「ルーカス」
そんな自分の名を呼ぶ声がして、ふわりと風が動きを見せ、体を暖かな感触が包んだ。
「落ち着いて。ここは、あの戦場じゃない」
優しく
そして——。
『
耳元であの
『マナのゆりかごに
絶望の沼に沈んだ俺を
『闇を
背中をぽんぽんと叩かれ、心地よい
『
ルーカスが
抱きしめるように肩と背にイリアの手が回りっており、
『
背に回ったイリアの手がルーカスの目尻に伸びて、
(あの時も、そうだった。
イリアはこうして俺に寄り添い、俺を救った)
彼女の優しさに触れて、激情にさざ波立つ心が
次第に呼吸が楽になり、息苦しさも消えて行く。
しばらくして、イリアはこちらの様子を見て歌を
彼女の瞳が真っ直ぐ射抜いてくる。
重なる視線をルーカスは
「落ち着いた?」
「……ああ」
イリアの問いに、
逃げないと決めたものの、いざ思い出して語ろうとしたらあの時の気持ちが蘇って取り乱してしまった。
イリアの歌に引き戻されたが——未だに乗り越えられない自分自身に、
ちらりと話を聞かせていた三人を見れば、
その原因が己であるという事は、言わずともわかった。
「……悪いな、驚いただろ」
「そう、ですね……。カレンお姉様はただ、戦場で
細部は上手く話せなかったが、ルーカスの様子から察したのだろう。
シェリルは言葉に詰まりながら話し、ぐっと拳を握って悲しみを
シャノンも似たようなもので、リシアはぽろぽろと涙をこぼしていた。
カレンの死を
それを語らなくてはならない。
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