第16話 最恐のバディ、姫昌と呂尚

 周国姫昌が密須遠征した紀元前11世紀中頃から約10年の月日が経とうしている。

 姫昌は、60歳代後半になっていたと思われます。

 周国姫昌は、中原への影響力を拡大するために耆国きこくへの侵攻を企んでいる。⒈

 そこで周国姫昌が中原への布石として選んだのが、洛邑らくゆうでした。⒉

 洛邑は現在の河南省洛陽市。洛陽市には華山西南部を源流として洛河らくがが流れています。⒊

 洛河は東方に流れ、豫洲黄河南岸邑群に流れ込み黄河南岸で合流します。

 洛河下流域高台にある斟群しんぐんは、豫洲黄河南岸邑群で水害が起きた時に避難民の拠点となっていた。⒋

 周国姫昌は、白龍観と黄龍観共同で洛河流域治水治山事業を開始する。


 同じ頃、殷の紂王の傍若無人の振る舞いと暴政に見切りをつけた者が居ました。

 名を呂尚りょ しょう。後に周国の軍師となり姫昌の息子の姫発きはつ と共に殷王朝を滅亡させ周王朝を建てた。⒈

 呂尚は、姫発から中華圏東方の領地を賜り斉国せいこくを建国した。⒈⒌


 呂尚は、50歳を越えて殷墟から出奔したのはいいものの…仕官先が見つからず…流人となっておりました。


「はぁ…」呂尚の大きなため息…

 どん詰まりの呂尚が、頼ったのが中岳嵩山黄龍観の寿黄導師でした。


 ここは中岳嵩山黄龍観の寿黄導師の自室。

 寿黄の身の回りを世話する修行者が寿黄の自室に入って来た。

 「導師様、呂尚という人が尋ねて来ました」

 「呂尚?それは誰だ?信者か?」

 「いいえ、昔々祖先が導師様に会った事があると言っておりますが…」

 「え~知らないないなぁ~」

 寿黄は、無下に扱えないので呂尚に面会することにした。

 すると、呂尚の祖先が夏王朝の始祖禹(まん)の治水事業に参加したらしい。

 そして呂尚は、先祖が寿黄の仲間だったと節々説きます。

 寿黄は、多弁な流人の呂尚に対して、だんだん腹が立ってきた。

 そして寿黄は呂尚に対して

 「あなたの事は知りません…」

 「出家しますか…」

 と寿黄に言われ呂尚は老いても

 「まだ世間に未練がある!志は高い!」

 と言い放ち…黄龍観を後にした。


 そして呂尚が山門まで下りて来ると…

  「おじいさん!」

 キリン君が呂尚を呼び止めた。

  「西方の渭河で釣をするといいことがあるよ!」

  キリン君がそう言うと笑顔になりました。

 呂尚は、子どもに山門の屋根からそう言われても少しも不思議に思わない。

 呂尚は、肩を落として中岳嵩山を後にする。

 流れ…流れて渭河北岸で毎日釣りをしている老人呂尚…

「はぁ…」呂尚の大きなため息…


 さてここは渭河北岸の雍州周原、姫昌の館の自室。

 発(はつ後の武王)とたんが狩りの準備をしています。⒍

 姫昌の子どもたちが、部屋を走り回っています。

 「おや!悪たれども!」


 「私は子どもらを悪たれどもと呼ばれる様な育て方はしておりません」

妃の太姒たいじが姫昌を叱りました。⒎

 「ごめんなさい…」

 いつの時代も妻は強いようです。


 姫昌の従者しんが入室。

 「御主人様、今日は狩りの日でございます」

 「そうだった狩りだ!狩り」

 姫昌は、狩りの装束を従者に整えてもらいながら、従者沁に何か面白い話はないか尋ねた。従者沁は沈黙の後に話しだした。

「渭河の周原船着場で釣りをしている老人がいます。その老人はひと月前からずっとそこにいます」と従者沁が言いました。


「船着場の係員や船頭が見かねて、夜は老人を船着場の待合小屋で寝泊まりさせて いるそうです」

 従者沁が好奇心で「釣れますか?」と尋ねると「雑魚ばかりだ」と答えたと言う。


 姫昌は、船着場の釣りをしている老人に興味を持った「発、丹、狩りに参るぞ!」

 すると子どもたちが、私たちもお供しますと父にせがみました。

「おみあげを待っているのだぞ!」

「父上、兄上お気を付けて行ってらっしゃい!」

「よしいい子たちである!では行って来る」


 姫昌と発、丹は、渭河に出かけると船着場で確かに老人が釣りをしている。

 姫昌は、老人に近づこうとすると発が止めた。しかし姫昌は、その老人に

 近づきと、額が出っ張っている老人がいる。

 姫昌は老人にこう尋ねました


「釣れますか?」

 すると老人は姫昌の顔を見て「大漁です」老人は呂尚です。

「あなた西伯姫昌殿ですよね?私は呂尚と言います」


 紂王に姫昌が謀反を起こすと言ったのは、豊邑の領主崇侯虎すうこうこだと呂尚は暴露した。

「なんだと…」姫昌は絶句した。⒈

 姫昌が幽閉された時、諸侯に貢物を贈って姫昌を解放してもらうように紂王に願い出たのは呂尚だと言った。 

「そうか…ありがとう」と姫昌は礼を言いました。

「父上の屈辱と兄上の無念を晴らしましょう!」

 発と丹が震える様に父親に言います。

「二人とも待て!」

「呂尚殿、我が館へ案内しましょう。ゆっくりとお話を聞きましょう」

 姫昌と呂尚は館で語り合います。

 姫昌の父太公はいつか周に聖人が現れて、周国に隆盛をもたらすと待ち望んでいました。呂尚殿はまさにその大公望だと伝えました。⒈


 こうして呂尚は周国で士官先が見つかりました。そして呂尚は周国にとって最恐の軍師となるのです。


 呂尚は姫昌に説きます。殷王朝の紂王は、政治を疎かにするので耆国の国王と太子の対立を無視した。

 耆国は太子派と国王派に分裂し、家臣同士が紛争し耆国の治安が悪化した。


 北岳恒山黒龍観と中岳嵩山黄龍観は、殷王朝と耆国と漳河流域治山治水事業共同で行っていました。黒龍耆国分観は漳河しょうが流域治山治水事業の拠点です。

 しかし殷の紂王が政治を怠り、耆国の政治情勢が不安定になり漳河流域治山治水事業が中断されたままになっている。


 しかし姫昌は、冀州黄河北岸邑群と豫洲黄河南岸邑群中原の領主諸侯の心を掴み従える方法を考えていた。

 姫昌と呂尚は「中原侵攻作戦」を立案し、発と丹を特命官に任命し官吏を召集した。

 発と丹は冀州と豫洲の領主諸侯に官吏を派遣して外交交渉を開始した。

 また、五龍観交渉担当は信者の官吏を派遣して、西岳崋山白龍観、中岳嵩山黄龍観、北岳恒山黒龍観との交渉を開始した。 

 こうして姫昌と呂尚は「中原侵攻作戦」第1段階として洛邑軍事拠点化を開始した。


 ここは豫洲、洛河下流域高台にある斟群しんぐんの治山治水現場。鄭氏吾の兄の讃黄と思黄は、黄龍斟群分観の常駐修行者として赴任しています。

 黄龍斟群分観は、豫洲黄河南岸邑群で水害が起きた時に避難民の拠点となっていす。讃黄と思黄の担当は、避難施設の充実と避難民の食糧備蓄などを行っている。


 周国姫昌が白龍観と黄龍観共同で洛河流域治水治山事業を開始以来、上流の洛邑は商業都市として発展し始めていた。

 長距離交易商中原梁氏は、洛河流域に船着場、市場、倉庫、宿泊施設、渭河街道に繋がる商業路などの事業を推進していた。


 しかし、讃黄と思黄は不安を抱いていた。讃黄と思黄は、買い出しに洛邑を訪ねる度に商業施設の充実と共に、周軍が洛邑の治安維持のためと称し兵士が駐留する様になっていた。

 それは月を追うごとに、周軍の兵がどんどん増えていった。


「兄上、中岳嵩山黄龍観に報告しましょう」

五黄ごおうにも教えないと大変な事になる」


 鄭氏吾、20代青年になり太い眉毛と福耳は相変わらずです。

吾は名前を出家名を五黄と改名した。

 五黄と葵は、故郷の黄龍鄭邑分観の駐在修行者となり赴任しています。

 2人は黄色い黄龍観の道服を着用している。

 黄龍鄭邑分観は、黄河鄭邑船着場から参道と高台を造成し移築増築された。

 五黄と葵は、黄龍観の信者の地主たちと共に、黄河下流域とその支流の堤防、遊水池、畑作灌漑用水路を施工造成しています。

 そして五黄と葵は、水害時に避難民の黄龍斟群分観への誘導担当を担っています。


 2人は分観主地黄ちおうより洛邑に周軍が集結しているので、黄龍観は中立の立場を保つ様に言い渡されていた。

 また周軍との交渉は、洛邑分観と斟群分観が行う事を中岳嵩山黄龍観主土黄から通達があった。

 2人は、河川や灌漑用水路を地図に落とし込んで遊水池(ゆうすいち)の位置を考える事務作業をしています。7


「ねぇ葵、周軍の事どう思う?」

「私たちは中立を保つのでしょ?」

「僕たちの故郷を侵略することは許ない!」

「ア~君は青いねぇ…」

「えっ…そうかなぁ~」

「それより遊水池の位置が大事ア~君」

 葵は立派な治山治水職工頭に成長した。

 五黄は、葵の治山治水に対する的確な判断力を称えています。

 葵は、五黄の中原に対する故郷愛を称えています。五黄と葵は良きバディとなっています。

 そして五黄と葵は、遊水池位置を考える方がいまのところ大事な様です。


 ここは黄河北岸冀州船着場、黄河南岸の孟津もうしんで異変が起きていた。⒏

 周軍が船着場を造成し軍船を建造している様子が北岸から見えるのです。

 冀州黄河北岸邑群の人々は、周軍が黄河を渡河し侵攻して来るのではないかと恐れている。

 船着場での人々の騒ぎを駆け付けた魯邑軍の兵士と上官が現れた。

 兵士は人々に向かって「英様である!」と言いました。

 魯氏英、20代の青年期になった。馬上ヨロイ姿の英はりりしい。

「皆さん安心してください。西伯姫昌殿は殷の紂王の悪政に苦しんでいる耆国の

 民を救いに行かれるのです!」

 これが周国姫昌の大義です。


 耆国の苦境を呂尚より聞いた姫昌。殷王朝の紂王の悪政に苦しむ耆国の民を周国姫昌は救おうとしている。

 周国姫昌と呂尚の「中原侵攻作戦」第2段階が開始された。周国姫昌の本意は黄河下流域より軍船で軍を上陸させ耆国を制圧しようと目論んでいる。


 英は不安を抱いていた。弟智は、黒龍魯邑分観から黒龍耆国分観に転任し常駐修行者として赴任している。

「智、箪氏満、月みんな無事でいてくれ」

 と英は兄弟の絆を象徴する木彫りを握り締めた。


 第17話 周国姫昌と呂尚の中原侵攻  つづく


 本文の『』は引用

 文末の数字は解説と引用

 第16話解説と引用を参照

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