第15話 白龍と共に永遠の時を生きる

 周国姫昌の遊牧民ミツスの平原遠征の影響は中華圏西方の隴西、雍州を非常事態にした。

 中華圏西方が厳戒態勢の渭河の街道での五龍観による抗議行進は、周軍兵の士気を下げさせた。

 周軍の兵たちは悟るのです。中華圏西方を守護する白龍と白虎は、周軍を見放したことに気が付きます。

 そして周国姫昌は、遊牧民ミツスの平原への遠征一時中止を葛軍に伝えて来た。

 白虎、沢と江氏汰、湧は、棟梁江氏と職人や工夫が黄河上流西岸の作業小屋で待機している事を知り救出に向かうのでした。


 数日後、周軍の伝令が葛邑に新たな命令を伝えに来た。葛氏に対する周国姫昌の新たな命令は渭河の支流「涇河けいが」の上流に陣を張れと命じる。⒈


 次の日の朝、葛氏領主と兄の実は葛軍を率いて渭河の支流、涇河の上流に向け進軍して行く。山桃と真は、父と実そして葛軍を見送り、無事の帰還を祈るのです。


 葛氏軍と将氏軍が涇河の上流の高台に陣を置き駐留し数日後、周軍本軍が進軍して来た。葛氏と将氏は、本陣へ呼び出された。

 まず葛氏が周国姫昌の御前へ召されて出た。


 周軍本陣,軍議が行われている。周軍の連隊長と師団長が2列向かい合い座っています。そして周国姫昌は、正面上座に座っていて傍らに崋山白龍観の担当官吏が不安そうに立っています。


 姫昌は、摘みたての無花果(ムカカいちじく)を食べています。⒉

 葛氏は、乾燥無花果しか見たことが無い。葛氏は、姫昌が何処から手に入れたのだろう?と思います。


  「無花果は旨いな~そなたが葛氏か?」

  「御拝謁ごはいえつが叶い恐縮の極みです」

  「余の館の庭で育てた無花果である、種は梁宗家当主から譲って貰った」

  「そうですか…」

 葛氏は、梁が上手く姫昌に取り入ったと思った。

  「そなたは薬草・生薬の工匠であるか?無花果は知っておるか?」

  「ハイ、遥か西方のオリエントという国々から乾燥無花果を仕入れています」

  「そうだ!オリエントの国々では、梁宗家当主が申すには玉(ヒスイ)が

   山程採れるらしいぞ!」

  「それは…豪華な…」

 葛氏は大げさだなと思った。

  「余は、オリエントの国々と直接交易を行うつもりでいる薬草、

   生薬取引も行う、そなたも交易に加われ!」

  「ハイ!ありがとうございます!」

  「それでな葛氏よ…」

 葛氏は、姫昌の目つきが変わったことに気が付きます。


  「余はあの平原を血で汚す、そなたは涇河の上流の陣から一歩も動くな!」

  「ハイ仰せの通りに」

  「余が一人で、遊牧民殲滅せんめつ誹りそしりを受けよう」

  「恐れ入ります」

  「そなたは崋山白龍観の信者らしいな」

  「ハイ」

  「この戦いが終われば、そなたに隴南の地を与える白龍葛邑分観を増築せよ、

   良いな!」

  「ありがたき幸せ」

  「余も白龍密須分観を増築する、そうすれば善を重ねて徳を積む事になる

   のだな」

  「仰せの通りです」

 崋山白龍観の担当官吏は、安堵の表情になります。


 葛氏と将氏は、姫昌より姬氏(き)の姓を賜ります。⒊

 彼らは、周国姫昌が中華圏西方の王者に相応しいと思います。


 次の日の朝、周軍本軍は涇河の上流を下って行き黄河上流域を目指し進軍して行きます。姫昌の予告通りミツスの平原は、遊牧民殲滅のため緑から赤に染まります。

 そして周国姫昌は、黄河上流域沿いの広大な畑作地と鉱山そして遊牧地を手中にした。

 しかし、周国姫昌の野心は止まりません。

 姫昌は、中原への影響力拡大と冀州耆国きこく侵攻です。

それは先のお話。⒋


 その頃、白虎、白龍観自警団白守、沢と江氏汰、湧は黄河上流西岸の作業小屋で棟梁江氏と再会した。

 「父さん!」

 「お前たちどうした?」

 「父さんが心配で白虎様に守ってもらい迎えに来たよ!」

 「二人ともたくましくなったなぁ…」

 江氏は、息子たちの成長を喜んだ。


 作業小屋の外では、白虎と白守そして沢が異変に気が付きます。

 蚩尤81兄弟魔人、饕餮衆西方精鋭軍が現れて襲い掛かって来た。

 「沢!私が小屋の者を守ろう!」

 「お願いします白守様!」

 饕餮衆は、弓矢を持っている。

 沢は、それを見て怒りが込み上げて来た。

 「お前らの様な奴らが弓矢を持つな!ウザイ!」

 沢は、弓矢を持った饕餮衆の腕をへし折った。

 白虎が逃げて行く饕餮衆を威嚇します。

 饕餮衆は、弓矢を投げ捨て逃げて行く。

 

 一匹の魔人が、沢を狙って弓を放ち逃げて行く。沢は一瞬、気が付くのが遅くその矢は沢を目がけ飛んで来た。

「しまった!…お嬢様すみません…」

 しかし矢は沢を貫きません。

 それどころか矢は静止しています。

「あれ?」

 すると…白龍は人の姿で降臨。

「我が見守っていると言っただろ、大丈夫沢、そなたに不老不死の身体を与える

 我と共に永遠の時を生きよ!」

 「え?はぁ?…」

 この時、沢は不老不死の身体を獲得し白龍の使者となった。


 作業小屋では、白守が饕餮衆を無双の武術の技によって叩きのめす。

 饕餮衆は、作業小屋から逃げるためドアに殺到する。饕餮衆が、ドアを蹴ると白虎が咆哮して彼等はビックリします。

 饕餮衆の一匹が、弓矢を乱射しその弓矢が江氏汰、湧に目がけ飛んで来た。

 しかし矢は江氏汰、湧を貫きません。やはり矢は静止しています。

 「あれ?」

 すると…白龍が

 「大丈夫だ、そなたたちに不老不死の身体を与える我と共に

  永遠の時を生きよ!」

 「え??…」

 この時、江氏汰、湧は不老不死の身体を獲得し2人とも白龍の使者になった。

 饕餮衆が、作業小屋から転がる様に出て来た。

 すると人の白龍と沢が立っています。


 白龍が人から龍に姿になり降臨。

 白龍は、饕餮衆に向かって恐ろしい形相で咆哮する。

「白龍!怖い!怖い!」

 饕餮衆は逃げて行く。

 沢、江氏汰、湧そして白守は棟梁江氏、職人、工夫たちを無事に救出する。

 白龍の降臨。作業小屋の全員が平伏する。

 巨大な白く輝く龍、その姿は神々しい。


 白龍と白虎は、作業小屋の全員を光球に乗せ白龍密須分観へ向かうのでした。

 「お嬢様、俺たち無事でしたよ…」

 沢は心の中で思うとすると…

 「無事で良かった沢、江氏汰、湧!」

 山桃の声が聞こえきた。

 「お嬢様???なんで???」

 「沢それは念話(テレパシー)だ」

 と白虎が言いました。

 白龍が4人にテレパシーで話しかけた。

 「4人で協力して中華圏西方の発展に尽力するのだ」

 「ハイ!白龍様」4人は答えた。


 周国軍本軍と姫昌は、雍州周原の本拠に凱旋する。

 中華圏西方真夏の悪夢が終わり。そして雍州渭河流域の街道と貨客船運行を再開する。また私設豊邑交易所も取引を再開する。


 こうして密須は、密国となり周国の配下になる。葛氏は、周国姫昌の命により中華圏北西地域の入口とされる隴南の地を賜ります。

  また将氏は、周国姫昌王の命により密国の鉱山を賜る。

 華山白龍観にとっては、渭河流域の治安が良くなる。そして華山白龍観は、白龍密須分観を密国分観と改名し、周国と共同で黄河上流域寧夏平原の治山治水事業を再開し、白龍のお告げの使命を実行します。


 ひと夏、葛邑で過ごした葛氏山桃、沢、江氏汰、湧は黄龍観の学問所に戻る事にしました。

 次男の葛氏真は、山桃一行を渭河中流域の隴西船着場に見送りに来ています。

「姉上、沢、江氏汰、湧、気を付けて」

「真も体に気を付けて」

 山桃一行が旅立の挨拶をしている

 すると白虎が降臨。

 中岳嵩山黄龍観まで山桃一行を送ってくれるそうです。

 山桃一行は、白虎に葛氏と江氏が隴南の見分しているはずだから会って旅立ちの挨拶をしたいと言います。

「いいとも」

 白虎は、光球を発生させ山桃一行を包み込み浮上し渭河南岸を目指し飛翔した。

「みなさん行ってらっしゃい」

 真は、山桃一行を見送ります。

 光球が渭河南岸を飛翔すると、すぐに葛氏と江氏は見つかります。

「行ってきます!」

「体に気を付けるのだぞ!」

 葛氏と江氏は、手を振っています。光球は別れを惜しむ様に旋回します。

 やがて光球は、東の方向を飛び去って行きます。


 中岳嵩山黄龍観の山門では、キリン君によって秋の花々で一杯です。

 鄭氏吾、葵、魯氏智、箪氏、満、月そして学問所同期入所の子どもたちが山桃一行を迎えに来てくれています。


 鄭氏吾が

「お帰りなさい!」

 葵が

「みんなの帰りを待っていましたよ!」

 魯氏智が

「帰って来ると信じていたよ!」

 恥ずかしそうな表情で山桃一行が全員で

「ただいま!」

 同期の子どもたち全員で

「お帰りなさい!」


 山桃、沢、江氏汰、湧が学問所に自分たちの意思で帰って来た。

 鄭氏吾、葵、魯氏智、箪氏、満、月そして学問所同期入所の子ども達は山桃、沢、江氏汰、湧にとって掛け替えのない良き仲間となるでしょう。


 第16話  最恐のバディ、姫昌と呂尚 つづく   

 

 本文の『』は引用

 文末の数字は解説と引用

 第15話解説と引用を参照

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