第9話 最後の春節
中華圏において旧正月春節は、元旦、新年、新春と表現されます。
旧暦12月24日春節元旦を向かえる準備が始まります。⒈
春節元旦を迎える準備として、各家々また土地神の社や、先祖代々の霊廟で掃除を行い赤い提灯、象形文字の福の文字を飾り付けます。⒈
中原冀州、黄河北岸魯邑でも春節元旦を迎える準備が始まります。
町中では人々が忙しく掃除や赤い提灯、象形文字の福の文字を飾り付けています。
その頃、黒龍魯邑分観と魯氏霊廟では、畢氏満と月が掃除し、智が飾り付けを行っていた。
智が黒龍の木像に話し掛けます。
「ねえ黒龍様」
「なんだ」
「僕は学問所で交易品学を勉強してみたい」
「勉強すればよい」
「僕の家は絹や漆器とか無縁だし…」
「叔父の文様を学べばよい」
「でも…」
智は、将来兄が魯邑を継いだ時、黄河や分河の氾濫の問題が必ず直面する。
そのため智は、兄を手助けできるように、またお世話になった叔父、伯母それに魯邑の人々のために治山治水学も勉強もしたいと言う。
智の心の中には、父親が居ない事に黒龍は心配しています。があえて黒龍は、親子の問題に入り込まない様にしょうと思っている。
「両方勉強すれば良い」
「それだと両方中途半端になりそうで…」
黒龍が智に言います。黄河北岸邑群の黒龍分観で、掃除を日課にしている者は智だけだと言いました。
「そうなの?」
智には、物事をやり通す意思があり出来なければ、誰かに助けを求め成し遂げる事ができると黒龍は言いました。
「智には英知がある自信を持て」
「そうなのかなぁ…」
黒龍は智に諭します。智の周りには常に人が集まっている、そして智を助けてくれる人がいると言います。
それは智の感性が豊であり、智が持つ徳だと黒龍は言います。
その徳が智に人を引き付けている、それは五つの徳目に通じると黒龍は言いました。
「僕の本当の気持ちは、黒龍様の背中から見た世界を描いてみたい!」
「そうであるのか?智の豊な感性で見た世界を描き、
交易品に落とし込めば良いではないか!」
「そうだね、勉強する目的が見えたよ」
「智が選んだ道は厳しいぞ、だが我が見守っているから大丈夫だ!」
「黒龍様!ありがとう!」
智は、黒龍木像の頭をなでてやりました。
「照れるではないか…智」
ここは西方の雍州西岳華山白龍観。
黄龍観と黒龍観から、饕餮衆が金銀銅山を襲撃の知らせが届いた。
白龍観主太白は、白龍観自警団に対して雍州青銅器、鉄器鋳物工房火炎の金銀銅山に対して警備を指示した。
中華圏西方、隴西地域の葛邑。葛氏霊廟と白龍葛邑分観でも、葛氏山桃と沢が掃除と飾りつけを行っている。それが終わると2人は、牛の荷車で石炭を買い取りに行きます。
山桃が、葛氏霊廟と白龍葛邑分観に飾り付けをしていた時、白龍の木像から声が聞こえてきました。
「山桃よ、饕餮衆が雍州の金、銀、銅山を襲撃する気を付ける様に」⒉
「饕餮衆って何ですか?白龍様」
「
「物騒ですね、沢に守ってもらいます」
「それと山桃、春節の新月の夜にここへ来るがよい」
「何かあるのですか?」
「良いものを見せてあけよう」
「…分かりました沢と一緒に来ます」
それから山桃と沢は、牛の荷車で石炭を買い取りに出かけ、渭河沿いの道を東に向かって行った。 隴西地域は、丘陵で雍州向かう東方向が低い。また雍州向かう渭河流域沿いには、山々が逼っている。
山桃と沢が、工匠将氏の館に到着すると昨日まで居なかった白龍観自警団員が警備を行っている。
そして、2人が石炭を買い付けて帰り道。
突然、饕餮衆が数匹現れ、山桃と沢の牛の荷車を襲い掛かって来た。
牛が怖がって動きません。
饕餮衆は口々に、これは金か?銀か?それとも銅か?彼らは石炭と金銀銅の区別が付かない様です。
饕餮衆蚩尤81人兄弟魔神は、蚩尤を復活するために巨大な黄金の饕餮を鋳造しょうと鉱山を襲撃している。
「これは石炭だ!」
沢が怒って、大鉈を振り回して追い払います。
「お嬢様!!」
山桃は、怖くて大声で悲鳴を上げた。山桃は、白龍より不老不死の身体を獲得している。山桃の悲鳴は、まるで龍の
すると饕餮衆は、口々に龍だ!白龍だ!こいつら白龍の使者だ、逃げろ!逃げろ!と言って逃げて行きました。
「…何?あれ??」
「あいつ等が饕餮衆ですよ」
「悲鳴を上げると何で逃げるの?」
「あいつらは、龍が怖いのです」
山桃の悲鳴は、龍の鳴き声に似ている。
だから蚩尤81人の兄弟魔人は、逃げるのだと沢は山桃に説明しました。
「変なの?」
「そうです変です」
山から北風が吹き下ろして来た。
「沢、寒いね」
「帰りましょう、お嬢様」
山桃と沢は、牛の荷車を押して家路につくのでした。
紀元前11世紀中頃、殷王朝時代末期、慌ただしく冬支度と春節の準備も済ませた中華圏の人々に春節旧暦のお正月を迎えた。
ここ中原豫州、黄河南岸邑群では新年、春節元旦を迎えました。
鄭邑領主鄭氏開の館では、現当主、長男唯、次男弐が揃った。領主鄭氏が一族に対して春節の挨拶を行った。
「春節おめでとう」
吾、詩、鹿もそろって父母やきょうだいに、春節の挨拶を行った。
吾は、父である当主に呼ばれた隣に長男の唯もいた。
父は分厚い赤い袋に
「父上、こんなにいただきけせん」
「吾よ、魔除けに取っておけ!」
吾は、隣にいた長男の唯と弐からも分厚い赤い袋を貰った。
『中華圏に限らずアジアでは正月に子どもに金銭を渡す習慣は浸透しています。
中華圏では子どもに赤い袋(お年玉袋)にはいった圧歳銭(あつさいせんお年玉)を渡す習慣化されたのは漢王朝時代からのようです。』⒉
春節の食卓に去年豊作だった、みかん、干し柿、栗などが沢山置かれている。
おのおの好きな果物を手に取り甘味を楽しむ。
また春巻き、餃子、
詩と母は、春節らしく赤く染められた着物を着飾っている。
吾は、年糕をたくさん食べて甘味を楽しんでいる。
そこへ葵が春節の挨拶に尋ねて来た。
葵は、桃の花の刺繍の着物を着て華やかに着飾っている。
吾は、年糕を食べるのを止めた。
「春節おめでとう!ア~君」
葵が吾に、春節の挨拶をする。
「おめでとう…葵…」
葵に心を魅かれる吾。吾と葵は同姓ですが血の繋がりは有りません。この時、吾は葵を初めて意識する様になります。
吾の恋心が葵に伝わるのでしょうか?
中原の冀州黄河北岸魯邑、春節元旦を迎えた。魯邑の領主魯氏基と弟の創が、館で春節の挨拶を一族に対して行った。
「春節おめでとう」
叔父夫婦、英と智もそろって春節の挨拶を行った。
今年智は、領主の父の挨拶を複雑な気持ちで見つめ聴いていた。
「英、智、圧歳銭だ」
叔父創と父基からの圧歳銭の赤い袋は、分厚く4封あった。
「いただけて幸いです」
と英が言いました。智は赤い袋の圧歳銭を2封受け取り、智の父に対する思いが複雑になる。
「兄上様、智、春節おめでとうございます」
箪氏満と月は、魯氏の館に尋ねて来て春節の挨拶をした。
「今夜、黒龍魯邑分観で何があるのか楽しみ」
箪氏満と月は、楽しそうな表情で言います。
「もう少し待っていてね」
やっと笑顔になる智。
春節元旦の新月の夜
ここは黄龍鄭邑分館に鄭氏吾、葵、詩、鹿が集まっています。
「揃っているようだな」
「えっ!?」
黄龍の木像のそばに、黄色い道服を着た背の高い人が立っているのを吾は見た。
「黄龍様?」
「そうだ、本当の姿だと以前おもちゃにされたから
この姿で降臨…が…この姿もダメな様だ…」
葵と詩が、黄龍の神々しい姿に目を奪われていました。
黄龍の人の容姿は、金髪で髪が長く腰のあたりまである。切れ長の目で全てを見通すかの様な瞳です。またその鼻は高くそして口は大きく『アルカイク・スマイル』を浮かべている。⒋
「皆、寒いだろうここへ来るがよい」
黄龍は子ども達を集めると光球を発生させ子どもたちを包み込みました。
「ここ温かいね~」
子ども達を包み込んだ光球は、ゆっくりと浮遊し空高く飛翔して行きます。
吾は、黄龍がどこへ連れて行くのか、少し不安になる。
そして、光球が上空で静止し、無数の星が輝く満天の星空が広がっていた。
「綺麗~満天の星空だぁ~!」
子どもたちは歓声を上げた。
吾の不安は消えた。
「兄様、姉様、玉(ヒスイ)がいっぱい!」
「鹿、そうだね」
「鹿、あの大きい星が天の北極よ」⒌
詩が鹿に北極星の位置を教えた。
すると北の方角から光球が飛翔して来た。
黒龍が光球に子ども達を包み込みやって来た。
黒龍の光球が黄龍の光球と合流した。
「黒龍来たか、我が見つけた小さい導師だ!」
「黄龍、我が見つけた英知ある子どもだ!」
魯氏英、智、箪氏満、月は、南の星空を観る事ができて、芸術的センスが刺激を受けご機嫌です。
子どもたちは、初めて会うことになる。
第10話 旅立 つづく
本文の『』は引用
文末の数字は解説と引用
第9話解説と引用を参照
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