第8話 春節新月の夜に
各地の五龍観では、春の祭典を1月から3月下旬この期間開催されます。⒈
まず『春節正月』の祭典は、赤い提灯と象形文字の福の文字が華やかに飾られます。また五龍観の信者たちが詣でて餅や桃、梨、みかん、柿、栗などを春節のお供えします。
紀元前11世紀初頭、殷王朝時代末期。
中原の豫州、黄河南岸邑群鄭邑では、秋の農耕祭が終わると冬支度を始まります。
吾は、冬越し支度で忙しく飛び回っています。吾は、ここ最近黄河南岸の治水現場に行けていません。ですから葵に会えていません。
吾は夏、秋に収穫された果物を、冬越しの保存食として大きな陶器の鉢や瓶につめ蓋をして地中に埋めます。
そうすると、果物の甘味が増します。でも冬越し保存食用の瓶に入り切れない果物がありました。
母や詩が柿を干している、そのそばで末っ子の
がしかし吾は
「干し柿を見るのも最後かぁ…」
そう思うと吾は切なくなる。『立春の祭典』が終わると、黄龍観の学問所に出家しなければなりません。⒉
「そうだ!葵に果物を持って行ってやろう」
「母上、葵の所へ行って来ます」
「気をつけてね」
「兄上様お気を付けて」
「は~い」
吾は、
途中黄龍観分観に立ち寄り、黄龍に挨拶した。
「黄龍様冬越しのみかんを供えるね」
「ご苦労である」
「葵の所に行って来るね」
「気を付けるのだぞ」
「ありがとう黄龍様」
吾は、黄河南岸治水現場の現場作業小屋に着いた。葵は、兄と打ち合わせをしていた。葵の兄は、黄河南岸治水現場長で吾とは話した事がない。
「吾君、よく来たね」
「こんにちは…」
葵の兄現場長が、初めて吾に声を掛けてくれ歓迎してくれた。葵の兄がいつもと違うので違和感を覚える吾です。
「ア~君待ってね」
吾は、重い背負子を背負って立っているので、葵が来てくれた。
「お待たせ」
「これ冬越しの果物食べて」
「ありがとう、春節にいただくからね」
「葵ちょっと話が…」
「何?」
吾は、現場長がいつもと違う接し方をしたので戸惑ったと言った。
葵ときょうだいにとって、家業が治水治山の職人の家だから、学問所に出家し勉強するのが当然の家なのです。
出家し学問を勉強する事は、覚悟と忍耐そして根気が必要です。それだけ葵の兄は、吾の事を期待していると言った。
「ア~君と一緒だからアタシは大丈夫!」
「 そうなの、僕もそうだよ」
葵は、一人で出家すると不安や心配になるけれど、吾と一緒だから不安ではないと言った。
吾は、葵の言葉に救われた。吾と葵は、春節元旦に黄龍観分観で会う約束した。
吾には、冬越しの穀物や薪、炭、石炭などを商人梁に注文する仕事がまだあった。
「よし!」
そして吾は家路についた。
吾は学問所で何を勉強するだろうか。
そして、吾の無邪気な子ども時代が終わろうとしている。
中原の冀州黄河北岸魯邑では、農耕祭が終わると冀州の冬は寒い、ですから早々に冬支度が始まる。
今年は柿と蜜柑が豊作です、魯氏智は叔母と一緒に柿を干している。
智は今年、自分の家の分と叔父の家の分の柿を干さなければいけないので大変です。
智は、母や兄と一緒に柿を干していた頃をふと思い出します。
智は、兄から貰った木彫り握りしめます。智にとって干し柿は、こども時代の原風景でした。
しかし、そこにやはり父の姿は無ありません。その父が、饕餮衆北方本軍の長に取り込まれた事は、智、兄英そして叔父創もまだ知りません。
そこへ叔父の創がやって来た。
「英から連絡があった、来月帰るそうだ」
「そうですか、梁さんが来ているの?」
「智、冬期の燃料や穀物を注文したよ」
「叔父上、ありがとうございます代金は…」
叔父の創は、智から代金を受け取りません。
戸惑う智。
「ああ智、来年学問所に交易品学科が創設するらしい」
長距離交易商会梁州梁宗家と中原梁氏が、黄龍観の学問所増設と同時に開設した交易品学科。交易品の技術継承、後進の育成、試作品の作成を学ぶ交易品職人育成学科。梁宗家当主と原梁氏は、五龍観と信者に対して影響力拡大を図っています。
「月が喜びそうな学科ですね叔父上」
「智、月に教えてやりなさい」
智は満と月の家に行く途中、黒龍魯邑分観に立ち寄りました。
「ねぇ黒龍様、お願いがあるんだ」
「なんだ?」
「もう一度背中に乗せてくれないかな?今度は兄上、満、月も一緒に」
「おや?…良いぞ…」
「春節元旦の新月の夜で良いか?」
「ありがとう黒龍様」
智が畢氏満と月の家に着くと、月は冬越しの毛糸を手紡ぎ行っていました。
智は学問所に交易品学科が創設されたことを月に知らせた。
すると月は喜び、そして月は、織物の染色や刺繍を学び絹織物に応用してみたいと言った。
「ねぇ、2人とも春節元旦の新月の夜に黒龍魯邑分観来て!」
智が満と月に言いました。
「何があるの?」
「いいものを見せてあけるよ」
「なんだろう??」
満と月は、智の笑顔を見て春節の新月の夜を待ちこがれるのです。
学問所で畢氏満は治山治水学を、月は織物の染料技術や刺繍を、それぞれ違う道で勉強しそれぞれの道を歩み出そうとしていました。智は学問所で何を勉強するだろうか。
その頃、北方恒山黒龍観では、黒龍廟に観主辰星が黒龍に呼び出された。
「冀州魯邑に饕餮衆が入り込んでいる」
「いかがいたしましょ」
「玄武が対応する、玄武!北方の索敵を怠るな!」
「仰せのままに致します!」
中華圏西方、隴西地域の冬は厳しく足早に冬支度が始まります。隴西は各種キノコ、梨の産地で冬越しの保存食する。
隴西葛邑では、春夏秋に生成した生薬を長距離交易商会梁州に販売する。
その代金で葛邑は、冬越し保存食の穀物また果物それに冬越し用の燃料の薪、炭、石炭などを長距離交易商会梁州から買い取る。
中原豫州と冀州には青銅器の文化が発達し鉱山、石炭鉱が多くある。⒊
この物語の雍州青銅器、鉄器鋳物工房工匠将氏は、鉱山を運営している。
将氏は、たまたま石炭脈を発見して、自家の工房で使う量を採掘している。
秋冬になると将氏は燃料として隴西、雍州の地元住民に安く販売している。
冬越しの作業で忙しい隴西生薬工房煎の葛氏山桃と沢、冬季は雍州青銅器、鉄器鋳物工房火炎より石炭を買い取る。
牛の荷馬車で何度も往復しなければ冬は越せません。
「お嬢様、質問があります」
「何?沢」
「中岳嵩山は、寒いのでしょうか?」
「山だからとても寒いでしょうね」
「え~俺、寒いは苦手です…」
沢は寒いのは苦手だと言う。沢は、流行り病で寝込んだので、気に掛けてやろうと思う優しい山桃です。
生薬工房煎の玄関で葛氏が、二人を待っていました。
「だんな様、石炭まだまだ足りません」
「後二往復だな」
それより沢いい知らせがある。来年、黄龍観に自警団養成道場が創設されて、自衛のために武術を鍛錬して、五龍観のための自警団員を養成し各五龍観に配属するそうだ。
「沢、良かったね」
「俺にピッタリです!」
長距離交易商会梁州梁宗家と中原梁氏が、黄龍観の学問所増設と同時に開設した、自警団養成道場。
五龍観には、修行者の鍛錬と自衛のための武術道場があります。
黄龍観の自警団養成道場は、修行者や信者が武術を鍛錬し五龍観のために、自警団員を養成し各五龍観に配属するが目的です。
梁宗家当主は、黄龍観に自警団員養成道場創設し、そして黄龍観を自警団本拠とし各五龍観や信者のために自警団員を配属する構想を考えている。
そして梁州梁宗家は、五龍観の自警団員を交易隊商の警備員として使うつもりでいる。
梁州梁宗家と中原梁氏は、五龍観と信者に対して影響力を着々と拡大を図っている。
そして旧暦12月24日が来ました。
中原の豫州、黄河南岸邑群では、新年春節を迎える準備で町中では人々が忙しく掃除や赤い提灯、象形文字の福の文字を飾り付けや掃除を行っています。
鄭邑でも、新年春節を迎える準備で、皆慌ただしく動いています。
吾と詩と末っ子の鹿が、黄龍鄭邑分観や鄭氏先祖代々の霊廟でも掃除と飾りつけを行っています。
掃除は詩と末っ子の鹿が行い、吾は、鄭邑分観や鄭氏先祖代々の霊廟の飾りつけを行っています。
吾は少しもじもじしながら…
「ねえ、黄龍様」
「何か?」
「僕は学問所で何を勉強すればいいの?」
「それを我に聞くのか?」
「黄龍様、教えてよ~」
吾が黄龍にあまえる
「しょうがない吾だ」
黄龍が吾に言います。
黄河南岸邑群の黄龍分観で、掃除を日課にしている者は吾だけだといいました。
「そうなんだ」
吾には徳があり、また吾の背中には小さい光背が輝いていると、黄龍が言った。
「どこ?どこ?」
吾は、背中を見ようとしますが、光背は黄龍にしか見えません。
それに吾が、黄河下流域南岸堤防工事に工夫として参加していた事にも黄龍は、感心していました。
「吾には才気がある自信を持て」
「そんな事言われたって…」
黄龍は吾に諭します。
吾には物事をやり通す意思があり、出来なければ誰かに助けを求め成し遂げる事ができる。
吾が持つ才知であり、五つの徳目に通じると言いました。
「でも僕には…」
兄たちの様に、高い志が無いと言う。
「吾、その時兄たちに何と言った?」
吾は、黄河とその支流の氾濫から中原の人々、黄河南岸邑群の人々、鄭邑の人々、父母、幼いきょうだいを守るために、吾はできる範囲で力になろうと思ったのです。
吾は、兄たちとの約束を守るため、黄河南岸の治水現場で働いていたことに気が付きます。
「黄龍様ありがとう!目標が見えたよ!」
「吾よ、我が見守っているから大丈夫だ」吾は黄龍の木像を抱きしめます。
「春節元旦の新月の夜にここへ来なさい良いものを見せてやろう」
「葵と詩、鹿も一緒でもいい?」
「いいとも」
ここは冀州魯邑領主魯氏自室付近の廊下、そこに悪鬼が、現れ領主魯氏自室に入ろうとした。
悪鬼の背後の壁から玄武が現れ、悪鬼をなぎ倒してしっぽの蛇で悪鬼を縛り付け、消えました。
そして北方恒山黒龍観の黒龍廟に玄武と縛り付けた悪鬼が現れました。
黒龍が悪鬼に、冀州魯邑で何をしていたかを問いただします。
「饕餮衆の頭に金山の場所を聞いて来いと言われた」
「そうであるかご苦労である」
黒龍は悪鬼に電撃を与えた。すると悪鬼は塵となって消えた。
黒龍廟に観主辰星が黒龍に呼び出されました。
「いかがいたしましょ」
「各五龍観に饕餮衆が金、銀、銅山を襲撃する、警戒を怠るなと伝えよ!」
「仰せの通り各五龍観に申し伝えておきます」
第9話 最後の春節 つづく
本文の『』は引用
文末の数字は解説と引用
第8話解説と引用を参照
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