第7話 五龍の中華圏③ 白龍と周国

 西岳華山白龍観でも雍州黄河上流域と渭河流域の領主達と、梁州の豪商たちが秋の農耕祭に来ていました。

 白龍観献納信者たち。彼らには、西岳華山白龍観直上で響く白龍のお告げは聞こえません。彼らは、白龍観本堂に集められました。

 そこに白龍観主太白たいはくと、白龍治水治山職工集団、棟梁こう氏がやって来ました。

 観主太白は白龍観の紋章「一つ巴」を背負った白い道服を身にまとっています。


 「白龍様のお告げです」

 と観主太白が語り始めました。

「白龍様は、我々白龍観と信者の皆様に使命を授けました」

「雍州においては黄河上流域その支流渭河いが流域の治水と西岳華山付近の植 生を失った山々に治山を実行すること」⒈⒉

「梁州おいては長江上流域の支流である閬水(ろうすい現在の嘉陵江かりょうこう漢江かんこうの上中流域と付近の植生を失った山々に治山を実行すること」⒊⒋⒌


「我々と信者の皆様が知恵と労力を提供する事。つまりここの全員の力を結集し雍州と梁州の治水治山を実行し使命を果たすことです。また白龍様から期限や治山治水の方法ついてのお告げは有りません」

「現在、周国と渭河流域、黄河上流域の治山治水について話し合っています」


「周国の具体的な事業内容を教えてほしい」

 ある信者が質問した。

 信者たちが、周国との治山治水事業の具体的な方法を求めている。

「そのことは白龍治水治山職工集団棟梁江氏から話があります」⒎


 棟梁江氏が話し始めた。

「まず渭河は周国の本拠地周原を拠点に上、中、下流域の北、南岸の治山治水事業の技術指導を行なう予定です」1

「また黄河上流域の治山治水事業の拠点は白龍密須分観で周国と共同で事業を興し技術指導を行う予定です」⒏


 黄河の上流域寧夏平原ねいかは、中華圏西方の河西地域、隴西地域と雍州を結ぶ交通の要衝です。寧夏平原には鉱物鉱山があります。そして黄河上流域沿いに畑作農業と遊牧が盛んです。⒐


 周国は、黄河上流域沿いの広大な畑作地と遊牧地、そして鉱山を領有する野望を抱いています。


「皆さんに個別にお願いしている治水治山で使用する護岸や土留め、そして農業灌漑用水路の岩や煉瓦を献納してもらいたい」

「そうする事は善を重ねて徳を積むことになります。そして白龍様のお告げの使命を実行したことになります」


 白龍観主太白が付け加え。

「白龍様のお告げ使命を実行するために人手が必要です。黄龍観の学問所に出家し治山治水学を学ぶ技術指導を志す若者を受け入れます」

 そして最後に白龍観主の太白はこう言いました。

「葛邑、葛氏山桃とその従者沢は、来年の春分の祭典が終わったら、黄龍観の学問所に出家させよと白龍様がお望みです」


「承知しました」

 山桃の実父また沢の雇主の葛邑の葛氏が返事をしました。


 さて、長距離交易商人中原梁家の現当主が、強欲を表に出すまいと、必死でこらえて。

「父上!我らは黄河、長江、淮河の物流を掌握しました!」

 梁がそう叫んだ彼の父親は、白龍観の献納信者です。父親は、長距離交易商会梁州を運営する元締で梁氏族宋家当主です。

 梁宋家当主の装いは、絹の道服にヒスイのネックレスとヒスイのブレスレットを両手首に付けている。彼は中華圏の成功者と言える。


 梁氏宋家当主は黄河、長江、淮河の物流を掌握するため、交易品の生産地である中原豫州、冀州に息子を派遣し商売の基本を学ばせている。

 長距離交易商会梁州 梁宋家当主は、白龍のお告げを聞いていた。

 なぜなら

 梁氏宋家当主は白龍から「中華圏西方の発展のために尽力せよ」との使命を与えられ、不老不死の身体を持つ白龍の忠実な使者なのです。


 まず梁氏宋家当主と仲間の豪商たちは、雍州豊邑を交易隊商の出発点とし、商業道路、市場、宿泊施設、倉庫などの整備事業を興した。⒑


 次に梁氏宋家当主と仲間の豪商たちは、梁州南鄭なんていおいて、交易品原料生糸などの産物と、梁州南部の穀倉地帯から農産品や穀物などの集積倉庫整備、市場、商業道路整備事業を興した。⒒⒓

 そしてそれに伴い梁氏宋家当主と仲間の豪商たちは、梁州の耕作地拡大と保全のために、長江上流域の支流である閬水上、中流域と漢江上、中流域の治山治水事業を興した。


 梁宋家当主は、白龍観献納信者である仲間の豪商たちに対して、微笑みこう言った。

「白龍様のお告げは、我々にとって商機です。五龍観信者が生産する交易品の原料調達、企画、製造、販売、物流一貫体制を構築し黄河、長江、淮河の物流を掌握する。そして中華圏の交易の主導権を我らが執る!」

 と梁氏宋家当主は、白龍観献納信者である仲間の豪商たちに宣言した。


 五龍観が、組織的に治山治水の技術指導を行う事によって、五龍観の信者の生産力向上が見込まれます。

 白龍観献納信者である仲間の豪商たちは、強欲が沸き上がって来るのです。


 隴西葛邑では葛氏山桃と従者沢が白龍隴西分観で白龍のお告げを聞いていた。

 沢は甘酒を飲んで酔っています。兄の実は白龍のお告げを聞いて急いで崋山白龍観に向かいました。

「我らのお告げを聞いて、饕餮衆がざわついているようだ」

「饕餮衆って何ですか?白龍様」

「沢、連中を知っているだろう」

「ああ…知っているよ…あいつらは、ウザイ連中さぁ…」

「酔っているのか沢?」

「だめ沢、すみません」

「いずれ解るはずだ」

「山桃、この中華圏の西方は広いそして多くの民族が生活を送っている、必ずそなたの仁愛が役立つ時が来る」

「来年の春分の祭典が終わったら、山桃と沢は黄龍観の学問所に出家するのだ」

「はい、白龍様」


 そして、まだ人口の少ない東方の東岳泰山青龍観と南岳衡山赤龍観でも秋の農耕祭が開催されていました。

 青龍と赤龍のお告げがありそれぞれの道勧でお告げの説明が信者に行われた。


 青龍観では、青龍治水治山職工集団棟梁黄(こう)氏が黄河、長江河口、淮河下流域の治山治水の技術指導を行なう事を確認した。⒔


 また赤龍観でも、赤龍治水治山職工集団棟梁 鳳(ホウ)が長江上流、中流域の治山治水の技術指導を行なう事を確認した。⒕


 紀元前11世紀初頭、殷王朝時代末期、中原豫州、冀州そして西方の雍州と梁州の領主、富裕層の人々は殷王朝に頼らず、五龍観の技術指導の下で黄河、長江、淮河の治山治水事業を開始した。


 その年の秋の農耕祭は、五龍のお告げがあった。中華圏の人々にとって印象深く残ることになりました。


 特に冀州魯邑領主魯氏は、黒龍観より実子智を黄龍観の学問所に出家する許可を、自分ではなく弟の創に許可させた事を、悔やんでいました。

 魯邑領主魯氏は、館の自室にこもり誰か話しをしています。


 「息子を愛していないのか?」

  「いいやそんなことは無い」

  「息子はお前に似てないからか?」

  「容姿は関係ない…ただかわいくない…」

 「そうか我が息子をこらしめてやろうか?」

  「やめろ!息子に手を出すな!」

  「じゃあ我が黒龍観の連中をこれしめてやろう」

  「…どうやって?」


 魯邑領主魯氏が話している相手は、「利己主義と暴悪」の蚩尤の 81人の兄弟魔神「饕餮衆とうてつ」です。

 蚩尤の 81人の兄弟魔神は、五龍のお告げを聞いて焦りを感じたのです。

 この物語では、五頭の五色の龍は信者に五龍観を建立してもらい、中華圏において影響力を保持し着々と拡大しています。

 だから饕餮衆北方本軍の長は、魯邑領主魯氏の冷たい心に付け込んで来ました。

 饕餮衆は、北方に本拠の城を持っています。中華圏の東方、南方、西方に出城があり思うがまま中華圏で暴れまくっています。

 そして、いつか中原に進出することを夢見ています。

 五龍と導師とって「利己主義と暴悪」強大な敵である蚩尤 81人兄弟魔神の「饕餮衆北方本軍」。

 この敵に対して、北方を守護する黒龍と黒龍観の導師はどのように立ち向かうのでしょうか?

    

 第8話 春節新月の夜に  つづく


 本文の『』は引用

 文末の数字は解説と引用

 第6話解説と引用を参照

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