SUGOラリー
飛鳥 竜二
第1話 SUGOラリー スタッフ桑島の視線
SUGOの桑島は満員のSPスタンドを見て、目を細めていた。SUGOに勤めて30年たったが、メインでないSPスタンドが満員になるなんて夢にも思っていなかった。
元々は、レースシーズンが終わってからのイベントだった。ラリーの真似事をサーキーットでやろうという発想から、愛好者を募ったら100台以上の応募があり、びっくりしたのを覚えている。WRCが愛知・岐阜で開催された翌年のことで、東日本でもラリー熱が高まってきていたからのようだ。
最初のコースは、西コースをスタート地点にし、西コースを出て周回路を右折。すぐに狭いトンネルがある。トンネルを抜けて右折、そしてまたすぐ右折、登りの周回路を走る。周回路だからそんなに広くはない。一応2車線はあるが、そんなに広くはない。側溝があるので、落ちたらアウトだ。第1コーナー裏のエネオススタンド裏からは下りのコースになる。くぬぎ山荘跡の駐車場から周回路を右折し、レーシングコースへ入る。ここはグラベルだ。車高を下げている車両は下をこすりかねない。
8ポスト脇からレーシングコースに入る。裏ストレートを半分ほど全速力で走る。レースならば90度の馬の背コーナーに入るところだが、そこは突っ切ってグラベルに入る。本来は芝生の道なのだが、タイヤひとつ外れると砂利道だ。10ポスト前で右に折れ、グラベルの中をSPコーナーに向かう。途中に小さなジャンプ台を作った。WRCほどの大ジャンプは見られないが、これがSPスタンドやトライアル広場にいる観客の歓声を誘っていた。SPコーナーを抜けるとフィニッシュ。1周4.5kmのコースで速い車は4分ほどで走りぬける。基本はターマック(舗装路)なのだが、後半にグラベル(未舗装路)があるので、どちらを重視するかは参加チームの判断だった。
ターマックを重視して、車高を低くすると、後半ぐっとスピードが落ちたり、10ポスト前で砂利にはまったりしてタイムをだせなかった。車高をいじらない車両が結果的に速かった。これが愛好者に受けたのかもしれない。2年目は200台近いエントリーにはね上がった。
2年目は、2ステージ制にした。午前中にラリークロス的なコースを設定したのだ。メインスタンドから第2コーナーまでにスポンジバリアーで平行する2本のコースを作った。同時にスタートした車両は平行して走る。イン側の車両は第2コーナーを抜けると右にUターン状態でピットレーンに入る。そして4Gといわれるピットレーン奥の開口部からパドックに入り、カラーコーンで設定されたジムカーナコースを走る。そして1Gといわれるピットレーン入り口からレーシングコースにもどり、今度はアウトコースを走る。次に第3コーナーの開口部からCパドックに入り、そこで短いジムカーナコースを走り、周回路に入る。西コースに入り、そこの特設ゲートからレーシングコースにもどり、10%勾配を登り、アウトコースでフィニッシュ。
アウトコーススタート車両は、最後はインコースでフィニッシュ。後ろから猛スピードで迫ってくるクルマにおびえながらアクセルを踏むのはしびれる思いがするとドライバーは言っていた。2回目はアウトスタートとインスタートを入れ替えて行う。勝ち負けよりも2回の合計タイムで順位が決まり、午後のスタート順が決まる。午後は1年目と同じステージだ。遅い順番に走る。優勝候補は最後に登場。この年からSPスタンドが埋まるようになってきた。
3年目は、2日制になった。新設コースは、モトクロスコースへの連絡道路を使うことにした。一部公道があり、警察の使用許可をとることが大変だったが、道路沿いにある民家の了解を得て、なんとか許可をもらうことができた。ここは1車線しかないターマックだが、ラインをはずすと泥や砂利がある。SUGOのパーキングから裏ゲートを抜け、ほとんどストレートがない山道を右に左に曲がる。そしてモトクロスコースのパーキングでフィニッシュ。午後の第2ステージはその逆コースを走る。参加車両は事前に下見の走行(レッキ)をしているが、制限速度での下見で全速力は本番当日のみ。その距離わずか2kmだが、今までにない一番難しいコースだという評判だった。しかし、この年から始まったTV中継が好評だった。SUGOカフェ前に特設されたプロジェクターの大型モニターには多くの観客が押し寄せた。なかにはモトクロスコースの金網ごしにラリーコースを見ている観客もでるようになった。わずか10秒程度の走行しか見られないのにだ。
2日目の午前中はメインスタンド前でラリークロス。午後は1年目からと同じSPスタンド前フィニッシュの周回路コースだ。この年からSPスタンドから見える大型ビジョンを設置した。スタンドの半分以上が観客でうまった。
この年で、国内ラリーとしての格を得られるようになった。冬に入る前のイベントとしてレースファンに知られるようになったのである。
4年目は、3日制になった。隣町蔵王町とスキー場の協力を得て、実施することとなった。この年からは国内ラリーの1戦と認められたので、参加台数は50台に絞られた。昨年までのイベント参加の車両のためには2日目にラリークロスコースを単独で走行してもらう体験会を実施した。これまた好評で200台以上の申し込みがあった。
1日目の午前は、蔵王町青麻山のふもとの林道をステージとした。砂利道が主で、一部舗装路があるというタイヤ選択が難しいコースだ。コスモスラインから入ったところがスタートで、蔵王町北原尾に入ったところがフィニッシュ。全長8kmのコースだ。第1ステージは登りコースが主で、第2ステージは逆コースなので下りが主となる。砂利道でわだちがほれ、後になればなるほど難しくなる。がけ下に落ちそうな車両もあったが、なんとかけが人はなく済んだ。
午後は、スキー場の特設コースだ。人工雪をまいた駐車場でのジムカーナコースを抜けて、雪が積もり始めたスキー場の初級コースを登ったり下ったりするする。ふだんはジープタイプの4駆でないと走れない、まさにスリリングなコース設定だ。1日でグラベル・ターマック・スノーと3つの路面を体験できるラリーということで話題になった。ラリー通には「日本のモンテカルロラリー」と言う者まででてきた。
2日目はSUGOからモトクロスコースまでのコースを使っての第4ステージと第5ステージ。サービスステーションはモトクロスコースのパーキングで、そこには多くの観客が集まっていた。新設の第6ステージはモトクロスコースに設定された。大ジャンプだけは危険すぎるということでコースから外されたが、各所でジャンプする箇所があり、オフロードファンにはたまらないコースとなっていた。
3日目は、メインスタンド前のラリークロスコースと周回路を使ったステージだ。ここは大型ビジョンで放映されるので、ドライバーにも観客にも好評だ。午後のSPスタンドには多くの人が集まり、SP駐車場は出店でにぎわっていた。
4年目の今年、とてつもないことが起きた。先週WRC JAPANで走った車両がエキシビジョンで走るというのである。それも全コースだ。各メーカーから2台ずつ計8台が参加する。日本人ドライバーの勝山もやってくる。これで認められたら国際格式に上がるかもしれないのだ。SUGOスタッフは、冬場のイベントなどとは言ってられなくなっていた。最終日のSPスタンドは天候にも恵まれたせいか、大入り満員だった。馬の背のグラベルを見られるトライアル広場にも特設スタンドを作ったがそこもいっぱいだ。SUGOの駐車場は満杯。スーパーGTなみの観客が入っている。SUGOのスタッフは忙しく働いている。嬉しい悲鳴だ。冬場のイベントに光が見えてきたとだれもが思っていた。
桑島は、自分が手掛けたイベントがここまで成長するとは思っていなかった。
この10年後、SUGOラリーは名称を変えて「蔵王ラリー」として開催されることになったのである。宮城県と山形県を舞台にステージを設定するようになったのだ。
サービスステーションは、SUGOサーキットに変わりはないが、モトクロスコースではなく、SP広場になった。レストランやトイレといった周辺施設が充実しているし、観客も見やすいというのが大きな理由だった。
1日目。
第1ステージが蔵王町青麻山周辺の林道コース。8kmのグラベル・ターマックの複合コースだ。
第2ステージは、えぼしスキー場のスキー場コース。初級コースの往復で4kmのコース。雪が積もっていると、スノーステージとなる。駐車場では人口雪がまかれ、アイスバーン状態となっていることが多い。
第3ステージは、えぼしスキー場の麓から隣の白石スキー場までの白嶺林道。登り中心の砂利道が多いステージである。途中、川を越えるところがあり、そこは要注意の場所だった。
昼に白石スキー場で休憩をとり、午後から第4ステージ。第3ステージの逆コースとなる。下りが中心になるので、コントロールが難しい。
第5ステージは、第1コースの逆コース。これも下りが中心のコントロールステージ。コースアウトをすると崖に落ちる可能性もある。
2日目。
蔵王エコーラインを使ったステージだ。
第6ステージ。宮城蔵王ホテルから澄川スキー場までのターマックの5kmの登りコース。走りやすいコースだが、コーナーは結構きつい。
第7ステージ。澄川スキー場から刈田岳駐車場までの5kmの登りステージ。雪がなければ前半グラベル・後半ターマックだが、12月の初めとなるとスノーステージとなる。アイスバーンもあり、一番神経を使うコースだ。
第8ステージ。刈田岳駐車場から山形蔵王スキー場までの下りのコース。前半はスノーステージで、無理はできない。
第9ステージは、第8ステージの逆となり、登りのハーフスノーステージ。神経を使うステージに変わりはない。
第10ステージは第6ステージの逆コースとなる。澄川スキー場からの下りなので、比較的楽なステージだが、油断するとコースアウトしかねない。
この2日目のコンディションがラリーの結果を大きく左右した。雪の量の多さと気温によって、日々コンディションが変わるからだ。「日本のモンテ」と言われるようになったのは、この2日目のステージが大きかった。
3日目。
第11ステージは、仙台市の青葉区秋保神社をスタートにした二口林道の15kmコースである。一部2車線のところもあるが、冬季は通行止めになる山越えの林道がステージとなる。コーナーがきつく、WRCを知っているドライバーはモンテカルロラリーのチュルニー峠みたいだと言っていた。
第12ステージは、第11ステージの逆コースとなる。まさに「日本のモンテ」と言われるステージであった。
第13ステージは、宮城県川崎町のセントメリースキー場からの笹谷峠越えである。ここも冬季通行止めの林道で、日陰はアイスバーンになっていることが多かった。
第13ステージが終わると、昼にSUGOのサービスステーションに戻ってくる。その際、リエゾン区間の山形自動車道を走ってくるわけだが、当初はラリーカーが高速道路を走るということで、いっしょに走ろうという走り屋が高速インターの入り口で待ち受けていた。しかし、リエゾン区間では制限速度遵守。ラリーカーと競うわけにはいかず、走り屋にとっては物足りなかったようだ。
第14ステージは、宮城県川崎町から蔵王町を抜けて、白石市までのコスモスラインを使うことになった。標高が低いので、雪の心配は少なかったが、日陰部分はアイスバーンになるところもあった。12kmの途中、トンネルや270度ターンを強いられるループターンもあり、ステージの脇には相当数の観客が見られた。
第15ステージは、白石市の刈田病院から鎌先温泉を抜け、蔵王の麓を遠刈田温泉に抜ける10kmターマックステージだ。一部、アイスバーンはあるが、広くて走りやすいステージとドライバーには好評だった。
4日目。
第16ステージはSUGOのモトクロスコース周辺の周回路と一般路を使った8kmのステージだ。基本ターマックだが、コースを少しでも外れると、泥や砂利となる。後半の車両は道の荒れに苦しむことになる。
第17ステージは、第16ステージの逆コースとなる。
第18・第19ステージは、SUGOのパドックを使ったラリークロスコースとなる。わずか2kmの短いステージなのだが、観客にはたまらないステージとなっていた。
そして第20ステージ。パワーステージは、SUGOラリーで最も古い、周回路コース。4kmと短いので、タイム差は少ないが、後半のジャンプ台の近くには多くの観客が詰めかけたのである。
こうしてWRCJAPANを愛知・岐阜と交互に開催することになったのである。
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