第10話 新たな作物を探しに行こう


 この数か月。俺たちは、とにかく農場を広げる事に集中した。


 朝起きて、ご飯を食べて、勉強とトレーニングをして、農場にきて、召喚して、耕して、邪魔してくるモンスターを狩って、耕して、帰って、御飯を食べて寝る。

 

 それをひたすら繰り返した。

 

 モンスターを倒し続けた事で経験値も溜まったのか、レベルは350まで来ていた。


 そんな日々を送った結果――

 

「あの瓦礫だらけの景色から、もう見違えるようね。凄いわ、アルト!」


「そうだねえ。頑張ったからねえ」


 俺の目の前には、見渡す限りの畑があった。


 畑の横には休憩小屋も設置したりして、大分見栄えも良くなったと思う。

 

 まだまだ、耕しきれていない土地は残っているし、全体からすると、半分も開拓できてないのだろうが、それでも広範囲に及ぶ土地だ。

 

 大分達成感がある。それと同時に思うのは、

 

「そろそろ新しい種をまいてもいい頃だよね」


「そうね。ただ、領地の農家の人たちから貰った苗や種は使い切っちゃったのよね?」


「うん。だからここからは、俺達が種芋を作ったり、種を用意したりする必要があるね」


 ここからは完全に、自分たちの好みと、育成計画次第で作物を選ぶことになる。

 

 ……ミゲルさんにお願いして種を用意して貰うってのもありだよな。

 

  この前知り合ったばかりの商人ではあるが、入用なものがあるならばいつでも連絡してくれと言われていたし。

 

 魔王城跡地の土は、非常に栄養豊富で特殊らしいので、領地外で買ってきた普通の作物が育つかも分からないが、試してみるのもありだ。

 

「何を植えて、何が食べられるのかって考えるだけでも、ワクワクするね」


「そうね! 美味しいものが育っていくのは、何よりも楽しみだからね!」


 シアも俺も、食べる事に関しては熱心だ。

 どの作物も上手く育てれば美味しくなるので、後はこの地に向いた作物を探したいところだ。そんなことを想っていると、

 

「アルト様ー! お食事をお持ちしましたー」


 屋敷の方から、フミリスが来た。

 手には大きなバスケットを抱えている。


「フミリス。いつもありがとう、こんな遠くまで」


「いえいえ。メイドとして当然の役割ですとも」


 開拓が進んできて、安全に飲み食い出来る場所も出来た事もあり、最近は、こちらで昼食を済ませる事が多くなってきた。


 朝、出るときに自分が弁当を持って行っても良いのだが、

  

「温かい食事を持っていく方が、元気になれますし。私の仕事が減らなくていいので。もっていかせてください!」


 と、言われてしまい。それから、昼食はフミリスが運んでくれていた。

 

 冷えた食事も美味しいとは思うが、もちろん、温かい食事も美味しい。

 

 ……シアも温かい方が好きだとは言っていたしな。

 

 だから、お言葉に甘えて持ってきてもらっている。

 

「それじゃあ、昼食にしようか、シア」


「うん!」


 そうして休憩小屋に入った俺たちは、備え付けのテーブルの上に広げられた料理を目にする。

 

「今日も魔法の保温バスケットに、たっぷり詰めてきましたから。沢山食べて下さいね

 

「ありがとうフミリス。それじゃあ、頂きます」


 疲れた体に染み渡るような食事だ。

 お腹が空いたときに食えるというのは、本当に有難い話だ。

 

「因みに、そちらのお野菜は、アルト様の畑から取れたものですよ」


「そうなのか? いやあ、自分で育てたと思うと、美味しさが跳ね上がる気がするよ」

 

「いやいや、気だけじゃないですって。料理長曰く、純粋に品質が市場に出ているものと比べてもいいらしいですよ? 王都の市場に出したら、通常の倍払っても買いたくなるほどだって」


「おお……そう言って貰えるのはありがたいなあ」

 

 実際に食材を扱っている人から評価を受けると、なんとも嬉しいものだ。

 

 ……そう言えば、ミゲルさんも、在庫がある分を、通常よりも高値で買い取りたいって、言ってきてたもんなあ。

 

 既に、販売先が決まっていたため、次の在庫からという話になったが。魔王城産の作物の人気が出そうで何よりだ。

 

 それだけに、

 

「次、何の作物を育てるか、決めないとなあ」

 

 などと呟いていると、フミリスが、そう言えばと、切り出した。

 

「作物と言えば、先日、街の交易ギルドの方で、新種の作物の種が出品されたそうですよ」


「へえ、どんな作物なんだい?」


「エルフの村で開発されたものらしく。栄養豊富でお肉を食べたような満足感があり、尚且つ、一人では食べきれないくらい大きく育つトマト、とのことです」


 その言葉に、俺は思わず立ち上がってしまった。


「それは……良いね! シア。聞いたかい?」


「ええ。聞いてたわ。お肉みたいで食べきれないくらいのトマト……食べてみたいわ」


「うん、ぜひ、見てみたい。というか育てたいよ! それ、まだ街のギルドにあるのかな?」

「わ、わかりませんが。噂になるくらいですから、恐らくは。もしくはギルドでお話だけでも聞けるかな、と」


「そっか。じゃあ、行ってみようかな、ギルド……!」


「私も付いていくわよ、アルト!」


 そして俺は、《羊飼い》の職を得てから初めて、街のギルドに行くことを決めたのだ。




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