065 僕が女だったら惚れているよ…




 風間さんの指示で東城学園支部に来たのはいいけど、なんだこれ。


 それなりに人が多い時間帯のはずがガラガラじゃねぇか…




「あ、神薙さまですね。 支部長が待っておりますので13番へお願いしてもよろしいでしょうか。」



 声をかけてくれたのは落ち着きのある受付嬢、顔見知りのはずの小百合を見ても何も言わないところから冷静な人物なんだろうね。



「ありがとうございます。 ではこのまま行かせてもらいますね。」



 いつもの13番の部屋に入るとそこには平坂と師匠、風間さんが待っていた。


「よく来てくれたね、とりあえず座ってくれ。」


 そう言う風間さんは…


 風間さんだよな?


 三上や師匠より年上だから50が近いはずがどう見ても30前の金髪イケメン! 長い耳があるからエルフになったのを実感するねぇ…


「だいぶ… その… 印象が変わりましたね…?」


「そうだよね、僕も鏡を見るたびに驚くよ。

 今の実力を確認したいのはやまやまなんだけど立場もあるから後回しにせざるを得ないんだよ。 ゆかりくんには落ち着いたころに頼むと伝えてほしい。

 それじゃ、仕事の話しだよ。

 今回君たちに踏破をお願いしたいダンジョンは3つ。 甲種、乙一種、乙二種がそれぞれ1つずつなんだ。 頼めるだろうか?」


 まぁそんなところだろうね、あんまり俺に頼ると他からの目もあるだろう。


「条件を伺いましょう。」


「そうだね、まず踏破に関しての依頼料はボスの魔石を確認しての成功報酬。 ドロップした魔石はすべて適正価格での買い取り。 また君たちのランクに関しても引き上げをしようと思う。」


「成功報酬なのは当然です。

 魔石も余裕がないでしょうからボスのもの以外は売りましょう。

 あとは金額とランクについてですね。」


 協会が管理する魔石の残りがもう厳しいのか?

 企業なんかはわかるけどそれなりに備蓄してると思ったが、老害どもが横流しでもしていたのか?


「金額はSランクに動いてもらう条件で頼もうと思っているよ。

 甲種は1億、乙一種は5,000万、乙二種は3,000万でどうだろう?」


「わかりました、次回からはその金額でお願いします。」


「次回というと?」


「今回に関してはその半額、甲種5,000万、乙一種2,500万、乙二種1,500万で引き受けます。」


「いいのかい…?」


「ここ数日は亜人症候群でかなり大変なことになっているようですね、うちもパーティーメンバーがこのとおりですし、サブゼロでも何人か報告を受けています。

 一時的とはいえ欠員がいる状態でダンジョンに入りたくないとハンターが思うのは必然です。 それにより間引きが追いついていないのも想定できます。 サブゼロとして協会に協力しますよ。」


 風間さんに恩を売っておいて悪いことはないだろう。 俺と前支部長の揉め事で全国的にハンターの活動が縮小したし、そこにこの亜人症候群だ。 風間さんの負担はかなりきついだろう。


「助かるよ、今回限りということも含めて周知はしておく。

 それからランクだけど、美夏くんと山下くんはCランクに、国見くんと美冬くんは査定に高評価を入れる。

 零司くんはAランクになってもらおうと思っているよ。」


「…それは本気で言っていますか?」


「山下くんは亜人症候群の影響か十分にCランクでやっていけるだけの実力だと感じているよ。 ソロで活動はしないんだろう?」


「もちろん最低でも3人で動かしますし安全マージンは十分取りますよ。

 そっちじゃなくて俺のAランクですよ!

 ついこの間までFランクだったんですけど!?」


「いやいや、そんなことはどうでもいいよ。

 今の実力と功績で評価させてもらうから。 甲種にはソロで入るんだろう? 甲種をソロで踏破できるBランクなんて詐欺だからね?」


 まぁ、美夏と陽菜に甲種はまだ早いからな…


「これって断ることは…?」


「できないね。 それと三上くんのSランクへの昇格に協力してくれないか?」


 ここでなんで三上?


「三上っていうとサブゼロの三上ですか?

 彼はハンターは引退していると思うのですが。」


「それは知っているけど、何かあったときにSランクがあるといいだろう?

 現役Sランク3名の推薦と協会の承認が必要だけど、今ここにSランクが3人いるじゃないか。」


 あぁ… 風間さんか師匠のどちらかがいればいいのに2人ともいるのはそういうことか。


「三上の実績の方は足りていますか?」


 いくら推薦があってもこれまでの実績が足りていないと協会から弾かれるはずなんだが。


「十分足りているよ。 現役時から足りてはいたはずなんだけど調べてみたら推薦人が集まらなかったみたいだね。 それもいい理由じゃないのはわかるだろう?」


 はぁ… 三上はサブゼロに入るまでゴマすりとかできないタイプだったもんな。

 今でも上手くはないけど最低限はできるようにはなってるよ。


「三上の昇格を出されたら飲むしかないですね。

 ただ俺のAランクについてはしばらく内密にお願いします。 実家が動くと厄介なので。」


 俺がAランクになったと知ったら俺の報酬を実家受け取りにされたり、俺の婚約者なら実家の自由に… なんて考えることもあり得るからな…


「そんなに厄介なのか?

 僕も影響力があるのは知っているが、そんなに警戒するほどかい?」


「西日本のハンター協会で神薙に逆らえるやつはいませんよ。 逆らうと何をされるか知っているんでね…」


「いや… そんな…」


「ついでに言うと、政府も似たようなもんですよ。

 神薙と権力者の付き合いは100年や200年じゃないんです。

 風間さんも気を付けてくださいね、神薙もそうだけど俺たちも敵には厳しいから。」


「あぁ、Aランクにはするが今後も対応は平坂くんに一任する。

 もちろん君たちについての情報は僕の直轄にさせてもらうよ。

それでいいかな?」


「そうしてください。 あ、他支部からの依頼は今後もゼロとして受けますよ。

 平坂が頑張ってくれていてゼロのことはあちらも掴んでいないみたいだし。」


「あぁ… そうしよう。」




Side 風間




 はは… 乾いた笑いしかでないよ。


 僕らSランクは「歩く空母」なんて言われた時代もあった、それは1人で空母1隻ぶんの戦力があるってことだ。

 それだけの戦力を持っていることを自覚して行動するようにって意味でもある。

 自負と実力、責任感を持たない者はSランクにはなれないんだ。


 僕はSランクの中でも古参、現役では1番古い世代のSランクとしての自負と日本のハンターに対する責任を背負っているつもりだったんだけどね…


 零司くんは… サブゼロの全員を背負っている…

 三上くんの昇格で今後のサブゼロがどういう立ち位置になるかも考えたか。

 サブゼロには昇格はしていないがSランク相当の実力者が何人もいると聞く、ランクを持っていなければ言い訳にもできるがこれで三上くんについては公になる。

 これまでは所属Sランクがゼロくん1人ということで他国からの警戒はそこまででもなかったが今後は大変なことになるだろう。 派遣の要請や移籍の勧誘がさらにひどくなるのは見えている。


 それでも三上くんの昇格を受け入れてくれた。


 わかった上で三上くんがSランクになることを喜んでいる。

 彼は… 16の少年が背負える責任じゃないだろうに…


 知らないふりはしていたが神薙一族については調べた。

 かなり深い裏があることまでしかわからなかったけれど、零司くんが僕よりも把握しているのならあの警戒具合も当然だ。


 他国からの勧誘… そんな軽い言葉で済ませていいのかわからないが、誘いはエスカレートしている。


 今回の協会のゴタゴタで引っ張れるとでも思ったのだろうからこれは僕たちの責任なんだけど、外交ラインを通じてAランクパーティーをいくつか移籍させろっていう圧力が来ている。


 それもいくつもの国から。


 その他国へ「贈る」パーティーをサブゼロから選ぶようにって政府からね…


 贈り物扱いなんだよ…


 本当に冗談じゃない。


 政治家や官僚は数十年前の感覚から抜けられていないのか?


 今の日本はハンターを戦力換算すると超大国と言える。


 そのうちサブゼロの割合がどれほどか考えられないのか?


 圧力なんて無視すればいいことがなんでわからない…




 今回のハンターたちのストライキの件だってサブゼロが… いや、零司くんが矢面に立ってお互いにとって悪くないところに着地させた。


 協会は彼にどれだけの借りがあるか…


 僕がハンターたちを背負っている?

 冗談にもならない。


 本当に日本のハンターを背負っているのは零司くんじゃないか…


 国内のハンターのことを背負い、自分のクランを背負い、会社で支援し、協会のことも考えてくれている。

 数年前のハンター拉致未遂事件では直接的にはサブゼロのためだろうけど間接的には国としての示威行為にもなっている。


 1人でどれだけ背負っているんだよ…



 平坂くんが零司くんのために奔走するわけだ。

 これだけ背負わせているんだ、僕だってもう少し助力したってかまわないだろう。




「え?」


 このタイミングでステータスに称号が…?


 “盟友”


 は、ははは… 零司くん…

 僕が女だったら惚れているよ…




 ハンター拉致未遂事件(山下05)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る