なくしもの

 好きな人から貰った消しゴムをなくした。


 深夜、なかなか寝付けず自室の椅子に座ってぼうっとしていた時のことだ。

 机の明かり以外何もない空間で、何もせずにいれば意識は自ずと過去へ向けられる。そしてヒットしたのは好きな人のことだった。


 理由はなかった。ただ、あれこれ考えているうちにたまたまその子の姿が脳裏にチラついただけ。

 そこから不可抗力の連鎖によって、過去に貰ったものを思い出した。


 たしかアレはピンク色だったと思う。

 ディズニーの凸凹していて縦長い消しゴム。


 僕はそれを使わずにずっと机の中にしまっていた。

 正直使いにくそうな見た目をしていたのもそうだが、一番の理由としては好きな人からの貰い物を使いたくなかったからだ。

 

 それからもう7〜8年も経っている。

 しかし僕は一切引き出しから出した記憶はない。

 それなのにどこにも消しゴムはなかった。


 文芸的に言ってみれば、その子と関係がなくなったということだろうか。

 

 いくら探しても見つからないそれは、僕にとって大事なものだった。

 僕と彼女が繋がっていた唯一の証だったのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る