19.反国王派の収穫と私が知らなかった情報

 お茶会の収穫は大きかった。王族が一枚岩ではなく、多くの貴族が不満を抱いていることに王妃様は理解を示した。それどころか、国王排除に動くのであれば、協力してもいいと申し出たのだ。


 用意されたお茶菓子は少しずつ減り、種類を変えたハーブティを数種類楽しむ。すべて、父が先に口をつけた。俺が毒見をすれば、安心して飲めるだろうと笑う。外見同様、豪快な性格みたい。


 王妃様とパストラ様は徐々に会話が増え、最後は穏やかに見送っていただいた。もちろん、許してはいない。何も知らないのに許せるわけがないから。私の判断は、すべてを知った後になる。何をされ、どんな屈辱を受けたのか。何を我慢させられたか。分からないことばかりだ。


 それでも、夜会前の情報がいくつか手に入った。


 未来の娘となる私と親交を深めた王妃様は、婚約者を蔑ろにする息子に苦言を呈したらしい。それが夜会の数日前で、パストラ様も同席していた。王妃様は昼食だったと仰ったけど、首を傾げたパストラ様は朝食だった気がすると付け足す。大した違いではないと思うけれど、記憶に留めた。


 夜会の前日に、側近を集めて夜遅くまで部屋に籠ったこと。私にドレスを贈っていないと知って、夜会の直前に王妃様が怒ったこと。その予算の使い道を問いただしたことも、ここで初めて知った。お父様も知らなかった情報のようで、眉尻を吊り上げて怒りを耐えていた。


 どうやら夜会で突然豹変したのではなく、事前に兆候があったようだ。私はそれをお父様に相談できず、そのまま当日の暴挙を迎えた。誰かの手を借りられる状況になかったのかしら。


 昔の自分について考察する間に、馬車は屋敷の門をくぐった。


「アリーチェ、カリストの事だが」


「はい」


「しばらくは放っておいてくれ、今までと同じ態度だと助かる」


 泳がせる、でしたか? 考えてみたけれど、特に優しくしたり突き放した覚えはない。今までどおりは、私の感じたまま対応を決めても構わないと同じ意味だった。


「わかりました」


「それと……王太子の婚約者に決まったアリーチェを、カロリーナ殿は実の娘のように可愛がっていた。今回のことは彼女にとっても、夫や息子を見限るほど衝撃的だったのだと……心の片隅に留め置いてくれ」


「はい」


 心に留め置くことはできる。ただ心から信じることが出来ないだけ。言葉にしなくても理解したようで、お父様は眉尻を下げて苦笑いした。


「名前をお呼びになるほど、王妃様と親しいのですね」


 手を伸ばして私の頭を撫でたお父様が、ぴたりと動きを止める。それから額を押さえて、呻くように洩らした。


「そうか、その記憶もないのだったな」


 馬車が玄関前で止まり、外からノックが聞こえた。執事が外で待っている。お父様はちらりと外へ視線を向け、内鍵を外した。開かれた扉から先に出た父のエスコートで降り立つ。


「夕食後に話しておきたいことがある。時間をくれ」


「はい、お父様」


 玄関を入ったところで別れ、サーラと自室へ向かう。食後に話すだなんて、よほど消化に悪いお話みたいね。それとも食欲が失せる方のお話かも。首を傾げながら、サーラにドレスを脱がせてもらう。窮屈に締め付ける拘束具のような下着もすべて外し、ベッドの上に行儀悪く寝転んだ。


「ごめんなさい、サーラ。少しでいいの……」


 休ませて。最後の言葉を呟く前に、私は目を閉じていた。

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