天使級の七姉妹とのラブコメ

暁貴々

第1話 天使のような七姉妹

 ここはきっと天国だ。

 なぜなら俺は――鋭利な包丁でわき腹を突き刺されたのだから。


 筆舌に尽くしがたい熱と痛みが迸ったあと、徐々に力が抜けていった。


 ふわふわと雲の上で居眠りしているような、そんな心地よさ。やわらかな羽毛で全身を包まれている、そんな優しい感触。


 まっさらな景色が色づいていき、絵の具を散りばめたような色彩に溢れ、視界が徐々にクリアになっていく。


 そよ風とたわむれる草花が整然と生い茂った庭には、赤い屋根の家が一軒。

 曲がりくねった自然石の小道を進んで、アーチ状の玄関をくぐり階段を上がれば、そこには『七人の天使』が鎮座している。


 テカテカと光る総革張りのソファは俺と天使たちでぎゅうぎゅう詰めだ。


 生まれたままの姿ですやすやと寝息を立てるあどけない姉妹たちの、体温が、じんわりと伝わってくる。


 このあと滅茶苦茶セックスしました――を、終えた後のような、あまく、せつない余韻。


 ふと窓の外をのぞけば、白いペンキで塗られたウッドデッキが、どこまでも広がっている。青空に浮かぶ雲が綿菓子みたいで、床板の中央にお洒落なテーブルと椅子が二組。ガラス製の天板の上にはスコーンやクッキー、カップケーキなどの洋菓子が並び、紅茶の香りに包まれている。


 幸せな風景を切り取ったような、やさしい世界。

 でもこれが夢だとわかってしまうのは――俺自身が、天使たちにふさわしくない、『穢れた存在』だと自覚しているから。


 おそるおそる目を開けて、死後の世界を拝んでみた。

 閻魔大王の姿はなかった。

 

 ここはきっと天国だ。


 なぜなら俺の視界いっぱいに――


 天使みたいな。

 いや、天使よりも美しい。

 

 七人の姉妹の顔が映り込んでいたのだから――。


 

 ☆ ☆ ☆



 俺ならできる……俺ならできる……。

 そう決心し、本日も行動に移す。


 学校の中庭。

 プランターと鉢植えの並ぶ、いかにもな場所だ。

 白、赤、青、緑、黄、橙、桃――などなど、色とりどりの花々が嬉しそうに風に揺られている。


 そしてこの区画の中心には、一本の木がそびえ立っている。

 大きな、大きな、スダジイの木が。


 その木の下のベンチで、楽しそうに談笑する七人の美少女。


 天野あまの姉妹。

 この春から星海高校に転校してきた、うるわしき七姉妹だ。


 凸する前に、まずは俺があの手この手でかき集めた、彼女たちの『情報スペック』を紹介しようと思う。



------長女------


名前:天野あまの唯香ゆいか

クラス:三年一組

誕生日:4月1日

趣味:裁縫、料理

好きなもの:食べること


簡単なプロフ:


 四つ子と三つ子という特殊な家庭環境で『ひとりだけ三年生』という、ある意味、特別な存在で、非常に落ち着いた雰囲気のある、おおらかな女性。


 ハーフアップに編み込まれた黒髪には白のカチューシャが添えられ、メロンが実った豊満な胸もとは紺色のブレザーと第一ボタンまで閉じられたブラウスによって強調されている。プリーツスカートも規定通りの長さでネクタイの結び目も首元まで上がり、校則をしっかりと守っている。


 その厳格さに加えて、おっとりとした目許と泣きぼくろが、他の姉妹にはない魅力を醸し出している。



------次女------


名前:天野あまのかがり

クラス:二年二組(同級生)

誕生日:4月2日

趣味:格闘ゲーム、格闘技

好きなもの:不良マンガ


簡単なプロフ:

 

 姉妹の中で唯一『不良』っぽい出で立ちをしており、運動神経はずば抜けて優秀。成績は低空飛行だがコミュニケーション能力に秀でているとのこと。


 ワインレッドに染め上げた髪をゴールデンポニーテールにして、左耳に三つピアスをつけている。姉とは対照的にブラウスのボタンは二つ開けて、ネクタイも緩い。スカートの丈は超ミニで、パンツが見えそう。グレーのカーディガンを腰に巻いている。

 特徴的なのは爬虫類っぽい目つきとちろりと覗く八重歯で、無邪気そうな笑みから漂う危険な香りが、他の姉妹にない魅力となっている。



------三女------


名前:天野あまのりょう

クラス:二年三組(同じクラス)

誕生日:4月2日

趣味:FPS

好きなもの:動物


簡単なプロフ:


 無口、無表情という『クール』な印象だが、学校で飼っているインコのおしゃべりに付き合ってあげたり甲斐甲斐しく世話を焼いている優しい一面もある。

 

 青みがかった髪をショートボブにして、前髪は斜めに流している。次女同様にブレザーは着用しておらず水色のカーディガンを羽織っており、スカートは膝下まで丈を落として黒のニーソックスで締めている。

 大人びた雰囲気と小学生みたいに幼い顔つき、そして、その低身長に似合わぬ巨乳が、他の姉妹にない魅力となっている。



------四女------


名前:天野あまの樹里じゅり

クラス:二年八組(特進クラス)

誕生日:4月2日

趣味:実験

好きなもの:カフェイン


簡単なプロフ:


 IQ150以上の『天才的』な頭脳を持ち、医学の知識まで豊富に持ち合わせた才女。趣味は実験で、化学室の薬品の匂いを嗅ぎながらコーヒーを飲んでいるのが至福の時間らしい。

 

 ウェーブのかかったダークブラウンの長髪は、毛先を軽く巻いたロング。ブレザーの上からくるぶしまである白衣を羽織り、黒のレギンスを穿いている。

 メガネがトレンドマークで、レンズ越しの理知的で凛々しい目許が、他の姉妹にない魅力となっている。



 ここまでが四つ子で、ここからは三つ子の紹介になる。

 みんな合わせて七姉妹、というわけである。



------五女------


名前:天野あまのセイラ

クラス:一年三組

誕生日:7月7日

趣味:ネイル

好きなもの:ショート鑑賞


簡単なプロフ:

 

 いわゆる『ギャル』っぽい感じで、次女と一緒に校内をうろついているのをよく見掛ける。俺は心の中で胸チラコンビと呼んでいる。


 さらさらの金髪ロングストレートで、肌は抜けるように白く、次女と同じくメイクはばっちり。制服もシャツのボタンは常に二つ開け、スカート丈も短い。ピンクのカーディガンを腰に巻いて、黒のニーソックスを履いている。

 両手でピースサインを作って、いつもはしゃいでいる元気な姿が、他の姉妹にない魅力となっている。



------六女------


名前:天野あまのまどか

クラス:一年四組

誕生日:7月7日

趣味:お菓子作り

好きなもの:可愛いもの


簡単なプロフ:


 よく男子生徒にちょっかいをかけてる『あざとさ』全開の、小悪魔的な性格の下級生。

 ただ、男の方から迫ると途端に白けた態度をとるらしく、告白して玉砕する男子が続出とのこと。


 明るい茶髪のセミロングを前上がりボブにし、毛先を内側に軽く巻いている。ベージュのニットカーディガンを萌え袖にし、黒のスカートを短く穿いて、靴下はキャラ物のスリークォータース。

 もじもじと指遊びしながら上目づかいで男子におねだりする、あざとい一面が、他の姉妹にない魅力となっている。



------末女------


名前:天野あまの奏多かなた

クラス:一年二組

誕生日:7月7日

趣味:弾き語り

好きなもの:音楽全般


簡単なプロフ:

 

 五女、六女と三つ子なので当然この子も下級生。登下校の際はギターケースを背負っており、授業中に歌詞をノートに書き留めている姿がよく目撃されるとのこと。どことなく『ロック』を感じさせる子だ。


 白のメッシュが入った髪をウルフカットにしており、耳にはイヤリング、首には常にヘッドホンをぶら下げている。ブレザーの中にプルオーバーパーカーを着込んで、スカートは短く、黒のタイツを穿いている。

 常に眠そうな目許と猫背、気怠そうな雰囲気をまとうダウナー系の仕草が、他の姉妹にない魅力となっている。



 彼女たちは『天使』の生まれ変わりと崇められ、たちまちのうちに、元からいた在校生の間で神格化された。


 だが、ここに。

 そんな天使たちの聖域を穢そうとする、由々しき一人の男がいる。


 うおおおおお! 今日もやるぞ……!


 やってやるぞ!

 俺は意を決して、ベンチへと歩き出した。


「あ、あの俺、笹川ささがわゆうです……き、昨日はどうも、俺……みなさんと仲良くなりたいんです!」


 全員の視線が俺に向く。

 天使たちは一瞬ぽかん、とした表情を見せたあと。


 さっ


 ――と。


 身をひるがえし、その場から逃げるように走り去っていった。


 俺は一人、中庭に取り残される。

 ティックトックの早送り動画のような、一瞬のできごと。


「ふは……ははは……はははははは!!」


 俺は大声で笑った。

 やったぞ!


 昨日は長女。

 今日は次女がバイバイと手を振ってくれたぞ!


 去り際の一瞬、だけど。

 俺は嬉しさのあまり、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「よし、よーし!」


 この調子で、どんどん声をかけていこう。

 迷惑にならない程度に。


 ああ……心が浄化されていく。

 七姉妹の清らかなオーラが、穢れたオーラを中和してくれてるみたいだ。


 ちなみに俺のスペックはというと、黒髪で中肉中背、勉強も運動も平均的で、友達の数もまあそこそこ。

 もちろんイケメンではないし、とりわけ何かの才能に恵まれたわけでもない。

 趣味はゲームとアニメ鑑賞といったところか。


 うん。

 どこにでもいる、ごく平凡な男子高校生だ。


 そんな俺がなぜ天使たちを狙うのか?

 理由はシンプルだ。


 そんなもの、よこしまな欲望に決まっている。


 美少女と仲良くなりたい。

 いつだって俺という男の『本能』は、どす黒く穢れているのさ。

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