第47話

 俺の母、君子と公一の父、勝雄は許嫁で、二人は相思相愛だった。

 しかし、勝雄の後輩で俺の父親である健二が、君子に惚れ込んでしまった。

 君子は、勝雄を愛していながらも、健二の強引な押しに負けて、一夜限りの過ちをおかしてしまった。だがその結果、俺を身ごもってしまったことに気づく。

 そのことを知った勝雄は激怒し、健二を殺しかねないような勢いだった。

 勝雄は、全てを知った上でも、君子との結婚を望んだが、君子は自分を責め、勝雄の申し出を断って、健二との結婚を決めた。

 君子の両親は、君子と健二との結婚に猛反対したが、それでも君子は健二と駆け落ちしてしまったために、君子の母は心労が原因で倒れ、亡くなってしまう。

 一方、君子と健二の生活も長くは続かず、純平と強太がまだ幼い頃に、健二は交通事故に巻き込まれ、命を落としてしまう。

 君子は、女手一つで二人を育てようとしたが、無理がたたって体を壊し、見かねた父親が実家に呼び戻す。その時、父親は君子似の純平だけをひきとり、健二似の強太を紹介者を介して養子に出してしまった。

 しばらくして、君子が実家に帰っていることを知った勝雄から結婚の申し込みがあり、君子の父親は君子を有野家に嫁がせてしまう。君子は父親への罪悪感から逆らえずに、言われるままに、俺を残して有野の家に嫁いだ。

 勝雄はずっと君子を愛していた。

 君子が健二と結婚してから、勝雄も見合いによって結婚したが、なかなか子宝に恵まれず、病院で検査を受けたところ、女性の方に問題があり、妊娠は難しいとの結果を受ける。跡継ぎが欲しかった勝雄は、紹介者を介して養子をもらう。それが強太であった。しかし、養子をもらって間もなく、皮肉なことに妻が公一を身ごもる。そして公一を産んで間もなく、妻は亡くなってしまった。

 そして、君子との結婚。

 勝雄は何とかして君子の心を開こうとするが、君子は勝雄に罪悪感を持っており、それは精神科のカウンセリングによってもどうるすこともできなかった。

 そして、勝雄の優しさが逆に君子にとっては苦痛となり、遂に君子は精神のバランスを崩してしまう。

 時に、唯志と公一を純平と強太だと思いこみ、二人を道連れに心中しようとすることが何度か続いたために、君子は自ら子供達との接触を断ち、部屋の一角に閉じこもってしまう。そして遂に自分で精神をコントロールする事ができなくなり、姑の置き忘れたナイフで自らの命を絶った。 



 すべての線が繋がった。

 そして、俺と唯志がしようとしていることが、やはり大きな間違いであることもわかった。


 唯志を止めなくては。

 全てを話して、一刻も早く唯志を止めなくては。


 そう思ったとき、先生の携帯電話のアンテナが光った。


「あら、失礼……もしもし、……はい……えっ?!なんですって?!」


 見る見るうちに、先生の顔から血の気が引いていくのがわかった。

 そして、青ざめた顔で俺を見つめる。


「わかりました。私もすぐにそちらに伺います」


 電話を切り、先生は言った。


「勝雄さんが……亡くなったそうよ」


 ガツンと、頭を殴られたような気がした。


「自殺、ですって。でも、何故……?」


(間に、合わなかった……)

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