第47話 3ー33 稲穂?お米?

 ハイハーイ、ヴィオラですよぉ。

 私(ヴィオラ)、とっても大きな勘違いをしていました。


 前世の日本ではお米の収穫時期は秋でしたので、この世界でも当然そうだと思っていたんです。

 でもお米って国によって収穫時期が違うんですよね。


 前世の日本だって都道府県で収穫時期が微妙にずれています。

 沖縄や四国・九州では、二毛作だってやっているところがありましたから・・・。


 お米らしき植物を見つけたクロイゼンハルト公国は、実のところ、南北に細長く広がっている島嶼国なんです。

 私(ヴィオラ)が最初に見つけた場所は、その中でも北方に近い島でした。


 私(ヴィオラ)も稲の育成が気になりましたし、前世と植生が違って早く育っても困りますから、五日に一度ぐらいは見回りにクロイゼンハルトに行っていました。

 そうして、見つけた場所よりも南方についても、念のために上空から探していると、あったんですよ。


 お米の群生地が7か所も。

 そうして気温の所為でしょうか、それとも雨季と乾季の違いなんかがあるのでしょうか。


 南部の方がどうも生育が早そうなんです。

 秋にはまだまだ時間がありそうなのに、すっかり黄金色に変わっている稲穂らしきものを見つけちゃったのです。


 周辺に人家が無いことを確認してから、こっそりと収穫しちゃいました。

 勿論、全部を採ったりはしませんよ。


 量的には、玄米にして精々2キロか3キロ程度の量だと思います。

 稲の束にすると、たくさんあるように見えますけれど、稲一本について多分30粒から40粒ぐらいしか実が入っていません。


 長いことベッドで寝ている時に読んだ雑学知識に、米一粒の重さがあったのを覚えています。

 ジャポニカ米で1000粒で22g~23g、インディカ米は同じく1000粒で10g~46gでした。


 品種によって色々と違いがあるようですけれど、もし、クロイゼンハルト公国で採取したのがジャポニカ米なら稲一本分でも1グラムに満たないほどなんです。


 でもね、私(ヴィオラ)の前世で小学校低学年の際に、祖父母のところで田んぼを見ましたけれど、稲って結構実がなっているんですよね。

 私(ヴィオラ)が、今まさに手に取って見ているクロイゼンハルト公国産のお米モドキって、随分実入りが少ないような気がします。


 何だか前世の稲穂の半分ぐらいのような気がするんです。

 あれぇ、これって不作?


 いやいや、きっと違うんですよね。

 こちらでは家畜の餌として扱われているぐらいの原産種なんです。


 日本のお米は、家畜ではなくって人間様の食用として、それこそ何世代も品種改良を重ねた代物なんです。

 だから当然のことながら、前世のモノとは一粒の大きさも実入りだって違うでしょうし、もしかして味もかなり良くない・・・のかな?


 うんにゃ、私(ヴィオラ)のソウルフードの願望を叶えるために、絶対にこのお米モドキからおいしいお米を作って見せます。

 仮称「ヴィオヒカリ」を産み出して、ロデアルの特産品にして見せるのです。


 そんなこんなで、ここのところ二日おきぐらいにクロイゼンハルト公国に出かけています。

 隠密魔法で姿を消していますから、現地の人に見られたりはしませんが、クロイゼンハルトの夜明けを狙って、現地へ跳んでいます。


 取り敢えず、現地の山の中にも研究所代わりの地下施設も作りましたけれど、そちらは有用な酵母が得られるかどうかの実験施設です。

 ロデアルでは満足のゆくような酵母が見つけられませんでしたから、場所を変えればあるいは見つかるかもなのです。


 お米の方は、概ね一か所の群生地について玄米2キロか3キロ程度の量を確保するようにしています。

 群生していないところでは、収穫をしないようにしました。


 原産地の品種が途絶えるのも後々良くないでしょう。

 少しだけお米モドキをもらって、後は残しておかねばなりません。


 この作業はクロイゼンハルト公国の南部から北部にかけて、ほぼ二か月ぐらいの時間をかけましたが、一応、それなりにお米らしきものは確保できたと思います。

 刈った稲は、天日で干す作業が必要なのでしょうけれど、現地では色々と人目もあって難しいので半分を私(ヴィオラ)の亜空間で済ませちゃいました。


 もう半分は、ロデアルでも人気のない場所を選んで、昔ながらの天日干しをやってみました。

 但し、全面をガラスで覆って、虫が入らないように外界と隔離した温室を作って、その中での天日干しなんです。


 生憎と前世での天日干しの日数を覚えていませんし、ルテナのアカシック・レコードでも情報が見つかりませんでしたので、5日間から30日間の幅を持たせての実験をしましたよ。

 乾き具合を見ていると、どうも10日から15日ぐらいが良さそうなんです。


 私(ヴィオラ)の鑑定能力がそう告げているので、それを信用します。

 そうして得た玄米の半分を脱穀して、精米してみました。


 一応お米らしきものは収穫できましたけれど、多分、これは美味しくは無いはずです。

 私(ヴィオラ)の鑑定でも、実は「食用可、味宜しからず」と出ています。


 でも、食用になるかどうかも試さねばなりません。

 鑑定をかけて毒になるような有害成分は、ほとんどの収穫物で認められませんでしたが、一か所だけ、クロイゼンハルト公国の中部で見つけた稲モドキには、有機水銀が紛れ込んでいました。


 微量なんですけれど、これは危ないので全部を焼却処分にし、灰を固めて私(ヴィオラ)の亜空間倉庫内の危険物倉庫に保管です。

 この種はよほどのことが無い限り、世の中には出しません。


 今後ともクロイゼンハルトから原種を入手するなら、他の地域についても確認は絶対に必要ですね。

 玄米と精米して白米化したものを、それぞれ少しずつ炊いてみました。


 うーん・・・・、やっぱり美味しくありません。

 匂いが少し強い上に、お米独特の粘りが少ないような気がします。


 そういえば安奈先生から、外米は大半がインディカ米なのでジャポニカ米に比べて粘りが少ないと聞いたことが有ります。

 ですから目の前にあるこの米モドキはきっとインディカ米に近いものなんでしょう。


 これをジャポニカ米の味に品種改良するには、大変な作業の積み重ねが必要な気がします。

 でも夢を叶えるためには精進あるのみです。


 クロイゼンハルト公国の南から北まで全地域の稲モドキの一部を収穫し終えてから、毎日、品種改良のための作業を続けました。

 亜空間倉庫に半分残した種籾を撒いて、苗を育て、その苗を水田に植える作業を繰り返し行います。


 一部は私(ヴィオラ)自身が確認のために行いましたが、どちらかというと繰り返しの単純作業ですので、人型のゴーレムを作って、ゴーレム農夫さんに頑張ってもらっています。

 亜空間倉庫には虫も雑菌もシャットアウトなので、病気の心配は余りありませんが、この稲モドキがそもそも持っている遺伝子形質から派生する病気の発生はあり得ますよね。


 ですから原産地別に隔離した上で、ゴーレム農夫さんに手順を教えこんで、ひたすら選別を繰り返して品種改良を進めます。

 安奈先生から教わった塩水による種籾の選別を含めて、実入りの良い稲をとにかく繰り返し育てて行くのです。


 亜空間倉庫内の時間を三百倍ほどに高めていますので、ゴーレム農夫さんが働いてくれている農園では、外界の1日余りで一年が過ぎて行きます。

 温度と湿度管理をしている空間ですから、この空間では二毛作どころか三毛作に近い収穫ができます。


 実入りの良いもの、粘り成分の高いもの等を仕分けしながら、実験栽培を続けて行きました。

 外界で1年経てば、優に八百から九百世代の品種改良が可能なのです。


 味の方は、それこそ試行錯誤の連続ですね。

 農夫スキルを持った子と、料理スキルを持った子にも協力してもらいました。


 毎日数十種類にも及ぶお米の中から味の良いものを選び出してゆくんです。

 これも結構大変な作業でしたけれど、1年近く後には何とか合格点を出せそうなお米の品種ができました。


 因みに品番は、17―8677号でした。

 最初の17は、クロイゼンハルト公国の原産地の地域番号で、七か所を細分化した結果、01から28までの番号が付けられています。


 その次の4桁の番号は品種改良の整理番号ですね。

 従って、この品種は八千回以上の選抜に耐えて残った品種という事です。


 品種改良と言いながら特に遺伝子の改ざんなんかは行っていませんよ。

 飽くまで、世代交代によって生き残った良い品種の実を選抜しただけの物なんです。


 一応の道筋ができましたのでこの亜空間工房では引き続きゴーレム農夫さんに品種改良を継続してもらいます。

 御餅を作るためのうるち米だって欲しいですものね。


 そうして、亜空間倉庫ではなくって、実際の外界でお米作りをしてもらうために、農夫スキルの二人と料理スキルを持つ子の一人は、ロデアルに戻し、開墾地を与えて実際に稲栽培等を実践してもらいます。

 おそらく軌道に乗るのは、これから二~三年後でしょうか。


 私(ヴィオラ)は、17―8677号を「ヴィオヒカリ1号」と名付けて、増産を行い、時折美味しくいただいています。

 あ、そうそう、もう一つ朗報がありますよ。


 クロイゼンハルト公国に作った秘密の地下工房で、有望な米麹、麦麹それに豆麹らしきものができたんです。

 本来、麹菌はその地に根付いたものなので他所では繁殖しにくいものなのですけれど、これから乾燥麹を作って携帯が可能になれば、もしかするとロデアルでも麹が増殖できるようになるかもしれません。


 麴についても品種改良を続ける必要がありますよね。

 実は大豆麹に近いものはロデアルでも既に作っていたんですが、それで造った味噌モドキは味が良くありませんでした。


 この新たにできた豆、小麦、米の麹を合わせることにより、まろやかな味のお味噌などが造れるはずですし、そこから派生した溜まり液が醤油に近いはずなのです。

 お味噌は豆麹だけでも作れないわけでは無いはずなのですが、ロデアル算の豆麹では何故かダメでしたね。


 ですから、何としても米麹などを作って合わせ技で味噌を作ってみたかったのです。

 こちらも農夫スキルと料理スキルを持ったウチの見習い職人に開発と品種改良をお願いしています。


 必要な設備については私(ヴィオラ)がいくらでも作りますが、この作業は王都ではなくってやはりロデアルになります。

 味噌、醤油いずれも風土が育てる味になるはずですので、王都の工房で造っても、ロデアルの物にはならないからです。


 王都の工房は、飽くまで取り敢えずの職人の育成場所で有って、ここで育った者をロデアルに送り返すのが、私(ヴィオラ)の仕事なんです。

 その第一号が農夫スキルと料理スキルを持った見習い三人ですね。


 この三人、私より一つ年上ですけれど、とっても仲良しさんです。

 農夫スキルを持っているのは、ゲルメドとサファロという男の子、料理スキルを持っているのは、アマリスという女の子です。


 男女比が二対一ですけれど、多分これから徐々に見習いが増えていきますから、きっと取り合いになったりはしないでしょう。

 そんなこんなでスラム巡りや孤児院巡りは、あちらこちらで継続していますよ。


 何か事を起こすとなれば必要なのは金と人材です。

 金も施設や装備なども私が何とかできますけれど、人材だけは優秀な者を集めないと育ちません。


 兄弟子たちが育つと、以後の後輩たちも育ちますけれど、それまでは手間暇がかかりますよね。

 私が王都滞在中の三割ほどの時間を、この見習い職人の育成に当てています。


 うーん、単純作業のゴーレム農夫さんは魔方陣の組み合わせでなんとかできましたけれど、ホムンクルスとかアンドロイドとか、人工知能を持った優秀な従者が簡単に造り出せないものでしょうかねぇ。

 あっと、これは、モノグサ姫の単なる愚痴のような独り言ですので、どうぞスルーしてくださいませ。


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