第39話 3ー25 夏休み その三

 ヴィオラですよぉ。

 乗り心地はあまりよくはありませんでしたけれど、エミリア王女様とご一緒に王家の馬車に載せていただき、近衛騎士に警護されながら無事にロデアルの我が家に到着しました。


 ひょっとして、こんな場合にお約束のお邪魔虫なんか途中で出没するんじゃないかと、幾分気を張っていましたけれど、何事もなく到着したので陰でほっと溜息をついている私(ヴィオラ)でした。

 エルグンドの屋敷の門を潜ると、我が家の玄関先には総出でエミリア王女様のお出迎えです。


 お父様、お母様は、お兄様、お姉さまは無論の事ですけれど、オルト・ゴートの別邸で静養されているはずのお爺様やお婆様までが、執事やメイドらとともに出迎えに出ているのには少し驚きました。

 特に、お爺様は体調を崩されて引退した経緯があり、私(ヴィオラ)が学院に入る前にお会いした時はかなり病状が悪化していました。


 それで、誰にも言わずに、こそっと私(ヴィオラ)が治癒魔法をかけたのです。

 お爺様だけですと不公平になりますから、お婆様にも治癒魔法を使って癒しました。


 お二人とも高齢ですけれど、常識から言って若い頃の身体に戻すわけにも行きませんので若返りはさせていません(試しもしてもいませんけれど、実はそんなこともできそうな気がしています。)が、年相応の健康体になれるよう、悪い部分は全部治しておいたのです。

 あれから間もなく一年ほどが経ちますから、年齢相応の健康体を取り戻したので、今日は王女様のお出迎えに参加されたのでしょう。


 お二人とも元気になられてよかったと思います。

 今晩は我が家できっと歓迎の宴が催されるのでしょうけれど、そのためか街のいろいろな名士もお出迎えに加わって居るようです。


 実は、王族がロデアルを訪れるのは初めての事ですので、大げさな式典のようになるのは仕方がないことですね。

 貴族という者は、血筋の誇りと格式に生きているようなものですから、それにつながる者も自然とその考えに染まってしまうのです。


 玄関先で簡単なご挨拶をした後、すぐに王女様を貴賓館にご案内し、一時の休息をしていただきます。

 その際に、少し時間をいただいて、旅装から着替えをする間だけ王女様のお傍を離れたものの、私(ヴィオラ)とローナは、ずっと王女様についていなければなりません。


 そうしてエルグンド家の侍従から『準備ができました。』との報告を受けてから、エミリア王女様の一行を、渡り廊下を使って本館の大広間にご案内します。

 ゲストはエミリア王女様であり、本来であればお父様とお母様がホストとホステスになるべきなのでしょうけれど、今回の訪問の建前から言うと、王女様は学友である私を訪ねて来たのであって、エルグンド家を公式訪問することにはなっていないのです。


 このために、ゲストをもてなすべきホステスは私(ヴィオラ)でなければならず、エミリア王女様がロデアル滞在中は、私(ヴィオラ)がずっとエミリア王女様のお相手を務めなければならないのです。

 何とも面倒な話ですけれど、これも王女様のご学友になってしまったことが原因ですからあきらめざるを得ません。


 因みに私が貴族の子ではなくて平民であった場合ですと、非常に出逢いは稀になるかと思いますけれど、万が一親しい友人となる機会があって、更に私の住む家を王女様が訪ねて来るようなことが有れば、同様の対応をせざるを得ないのです。

 まぁ、その場合、余程裕福な家でもない限り、王女様がお泊りになることはないだろうと思いますけれどね。


 臣下筋である上級貴族の家だからこそ、お泊りも許されたのだと思いますよ。

 その日、私(ヴィオラ)は王女様とご一緒に宴の中心となる上席に座りました。


 宴の参加者は、総勢で50名を超えていたと思います。

 大勢の参加者が椅子に座ってテーブルについています。


 そうして、大勢のメイドや従者が給仕のために大広間を動き回ります。

 王女様についてきた方達は、警護のために数名が武装したまま部屋の四隅に控えているほか、王女様付きのメイド二人が王女様の近くに控えています。


 それ以外の警護の騎士や従者は、別室で料理を出されており、宴の途中で鋭意交代する手はずになっていますね。


 そんな状況ですので、今度ばかりは我が家の大広間もさすがに狭く感じました。

 最初に私がエミリア王女様を皆様に紹介し、お父様から歓迎の式辞があり、王女様も簡単なご挨拶をして宴が始まりました。


 我が家のシェフたちが腕によりをかけて作った料理の数々です。

 私が学院に行く前に教えた料理もいくつかあっていろどりを添えており、質も量も十分なものが出されています。


 大人の方には、ロデアル特産のワインが振舞われていてお酒好きの方には大好評でしたね。

 私や王女様それにお兄様やお姉さまは、未だ成人前ですのでワインでも控えなければなりません。


 私たちが食事の合間に飲んだのは、単なるぶどうジュースです。

 普通の宴ですと、ゲストの前に訪問客が進み出て自己紹介をしつつ自らの売り込みめいたことをするのですけれど、今回は非公式な訪問だけにそれが許されていません。


 彼らが自分を売り込みたいと思うならば、別の逢瀬を狙うしかないのです。

 但し、相手が王女様なわけですから、ごり押しで会いに行くようなことはできません。


 偶々たまたま運よく機会があればご挨拶をし、名乗るぐらいの事が許される程度なのです。

 でもこの宴に参加したことにより、末席であっても王女様のお目に留まることがないわけでもありません。


 わずかな可能性に期待を込めている方が大勢いらっしゃるようですね。

 その日夕刻前から始まった宴ですが、一刻足らずで終わりました。


 王女様の長旅での疲れを癒すために早めに終えたのです。

 王女様を囲んでの宴はもう一度あります。


 ロデアルをお発ちになる前夜にお別れの宴を催すのです。

 この際の宴は少し長くなるかもしれません。


 いずれにしろ、王女様を貴賓館に送り届けて今日の私(ヴィオラ)の役目は終わりました。

 鍛えていますから肉体的には疲れていませんけれど、精神的には少し疲れました。


 ローナは肉体的にも精神的にも疲れていたようですね。

 ですから、私(ヴィオラ)も早めに寝ることにしてローナを解放してあげました。


 私が起きているとローナが寝られないからです。


 ◇◇◇◇


 ロデアル二日目、今日は旅の疲れを癒すために屋敷の敷地内に留まります。

 でも私(ヴィオラ)とローナは朝から貴賓館に出向いて、王女様のお相手を務めます。


 私(ヴィオラ)の予定では、本館での朝食後に屋敷内を色々とご案内する予定なんです。

 そうして、午後からは私(ヴィオラ)の部屋に隣り合っている工房をお見せしようかと思っています。


 ロデアルの特産品を生み出している秘密の工房は、さすがにお見せできませんけれど、いろいろな錬金術の構想をするために使っている実験室のような部屋です。

 色々な機材が置いてありますけれどキチンと整理整頓に心がけていますから、エミリア王女にお見せしても差し支えないんですよ。


 勿論危険なものなどは亜空間の中に保管してありますので目に触れることはありません。

 化学の実験機材にも似た様々な器具は、この世界では非常に稀有なものだと思います。


 王家にはお抱えの錬金術師もいるようですから、金属等で作られた釜や鍋、試験管型の容器などは見たことが有るかもしれませんが、ガラス製の器具は多分見たことがないと思います。

 エミリア王女様は、好奇心旺盛な方ですから、興味を引けば半日は潰れることでしょう。


 王女様があまり興味を示さなければ、館の西側にある庭園をご案内する予定です。

 庭師のビジョルド爺が丹精を込めた庭園が広がっているのです。


 この時期だとシュリアガンディ(ひまわりに似た薄桃色の花)やルビオ(サルビアに似た薄紫色の花)にギブスコシュ(ハイビスカスに似た白と赤い色の花)がきれいなはずです。

 この庭園の中央付近に四阿がぜぼがありますので、午後のお茶はそこにすることになるかもしれません。


 私(ヴィオラ)の思惑通り、午前中は屋敷内の見学で終わりました。

 昼食後、私(ヴィオラ)の工房見学は、多少目を引いたようでしたけれど王女様からは特段の質問もありませんでした。


 但し、お付きの侍従一人とメイドの二人ほどが非常に興味を抱いた様子で、しきりに器具を眺めていましたね。

 もしかすると、王宮に戻ってからお抱え錬金術師などから質問が出てくることになるかも知れません。


 試験管、フラスコ、ビーカーなどは錬金術の候補生がすでにある程度造れるようになっていますから、もし要望があればロデアル領お抱えの秘密の錬金術師の出番になるかもしれません。

 それぞれ在庫は数十個単位でありますけれどね。


 もし需要があるならば訓練がてら、錬金術候補生にやらせる方がベターだと思います。

 実際に売れるとなれば、彼ら候補生の励みにもなりますからね。


 午後のティータイムに間に合うように西側の庭園に行き、ガゼボでお茶を出してもらいました。

 庭園の樹木は見事に整備されており、人工池の周囲に色とりどりの花を咲かせています。


 春から夏にかけての花の見ごろはもう終わりですけれど、多少しおれていても彩を添えてくれています。

 樹木も人為的に切りそろえられた形状があちらこちらに見えますが、実はこちらでは非常に珍しいのです。


 私(ヴィオラ)がビジョルド爺に提案して、それをもとにビジョルド爺が自力で培った技なんです。

 私(ヴィオラ)のイメージとしては、日本庭園のイメージだったのですけれど、ビジョルド爺が昇華して独自のスタイルを築き上げたのです。


 見事な庭園だと思いますよ。

 エミリア王女様もこちらの方は目を見張っておられましたね。


 もしかすると王宮の庭園にもビジョルド爺の技が広まるかもしれません。

 こうしてロデアル二日目も何事もなく過ぎました。


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 5月17日、一部の字句修正を行いました。


  By @Sakura-shougen




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