第17話 3ー3 学院の試験 続きその二

 剣術の試験で、ヴィオラ(私)は、最後の組から四組目でした。

 本当は最後の組から三番目の組だったのですけれど、徒競走で魔力切れのために倒れた子が五人も出たらしく、その子たちを最後の組に回すために、入れ替えがなされたようです。


 魔力切れだと確かに剣術で本来の力を発揮できませんものね。

 ヴィオラ(私)は、勿論大丈夫です。


 だって、身体強化をしなくても大丈夫でしたから。

 あれぇ、そういえば4割程度の子が、身体強化を使っていませんでしたけど、ここでも使っていない子がいるということは、使わない方がいいのかな?


 でも使わないでいるとまた心配されちゃうかもしれないし、ここは一応使っておきましょう。

 でも、先生、大丈夫だよね?


 一組目のマルス君に若干焦っているような動きを見せているようじゃ、ウチの騎士団でもかなり弱い方になるかもしれません。

 もしかしたら、ヴィオラ(私)が勝っちゃうかもしれないので、まともに当たると危ないから寸止めにしましょう。


 それなら先生が受け止められなくても怪我はないはずです。

 剣術の試験では、先生たちは防御だけで攻撃をしないのです。


 それで三分間の攻撃内容を見て技量を推し量るようです。

 さて私たちの組の順番がきました。


 ヴィオラ(私)は指定された場所に行きます。

 マルス君と対戦した先生と違い、身体の大きな見た目強そうな先生ですが、刃引きの剣でも当たれば絶対痛いですから、やっぱり寸止めにしましょう。


 そうなんです。

 テストには、木刀じゃなくって刃引きの剣を使っているんですね。


 ですから身体強化が使えない非力な女の子は、今にも落っことしそうに振り回して、その重さに耐えきれず剣を放したり、中にはバランスを崩してこけている子も居ました。

 木刀でやればいいのにと思うヴィオラ(私)ですが、王立学院の方針にケチをつけるわけにも行きませんから、黙っています。


 さぁて、対戦です。

 中央に引かれた二本の線は、二尋ほど離されています。


 先生と私がその線の上に対峙して、私の名前を言います。


「エルグンド家のヴィオラです。」


 自分の名を告げると、先生が名簿で確認します。

 それから、先生の「はじめ」の合図で、私が切りかかります。


 先生は、防御一辺倒なのでその場から余り動きません。

 ヴィオラ(私)は、当然のように身体強化を使っていますので、非常に動きが速いのです。


 おまけに縮地も使いました。

 一瞬にして先生の左脇に移動し、刃引きの剣を先生の腰に触れさせました。


 これでいいですよね?

 そう思って先生の顔を見上げると、先生が汗をだらだら流しながら、真ん丸な眼で私を見下ろしています。


 これは、明らかにびっくりしている時の顔であり、同時に物凄く焦った時に噴き出す冷や汗ですよね?

 あれぇ、またまた私やらかしちゃいましたか?


 普通のつもりだったけれど、先生に勝っちゃまずかった?

 先生がかすれた声で言いました。


「よし、ここまで。

 ヴィオラの剣術試験は終了だ。」


 さてさて、次は実技の最終科目で魔法なのです。

 魔法は、並んで魔法を放ったりすると誤射もあり得ますので、一人ずつ行います。


 魔法の練習場と呼ばれる場所は、高さが4尋もある土塁で周囲を覆われた30尋四方ぐらいの広さのグランドです。

 少し曲がっているトンネルを抜けると、立射台があり、そこから一人ずつ魔法を放つのです。


 ヴィオラ(私)は、24人中の17番目なのですけれど、先ほどの魔力枯渇の子の影響で順位が四つ繰り上がり、13番目になりました。

 13番目って、前世では縁起が悪い数字ですけれど、現世ではそんな数字ではありませんから気にしないで行きましょうね。


 魔法はどんな魔法でも良いのだそうで、五尋先にある標的若しくはそのすぐ手前にある丸い円の台上を狙って放てば良いのだそうです。

 攻撃魔法の場合は標的を、そうでない場合はできるだけ円内に何かを顕現させればよいのです。


 変わったところでは召喚魔法を使う子も居ました。

 召喚したのは手のひら4つ分くらいの小さな火トカゲでした。


 これが大きくなればサラマンダーと言う火の精霊になります。

 或いはその幼体かも知れません。


 召喚魔法を使う人はまれだと聞いています。

 ヴィオラ(私)も使えるみたいですけれど、これまで試したことはありません。


 ルテナは、使い魔で私のユニーク魔法によるものですから、召喚魔法ではありません。

 魔法を使える子が全体の半分程度でしょうか。


 上級及び中級の貴族の子女は概ね魔法を使えるようで、ルテナ曰く、皆家庭教師をつけて事前に習っているから披露できるのだとか、そうして下級貴族の子女の場合は、子爵の子女はまだ大丈夫ですけれど男爵と騎士爵の子女では、場合により、家庭教師を雇う経済的余裕が無いので、魔法の勉強をしていない場合が多いのだとか。

 ですから男爵の子息であるマルスが身体強化の魔法を使ったのですら珍しいことのようです。


 今の時点で魔法を使えずとも、学院の魔法の授業で覚え、ぐんぐんと伸びる子もいるようですから、その見極めのために最初に魔力の有無を確認したりしているのです。

 入学の際の書類に掌紋をつけて魔力を放出するのが稀にできない子もいるのですが、一定量の魔力があればやり方を知らずとも掌紋は残るのです。


 その掌紋の濃淡で学院側は、魔力の量を確認しているとルテナが教えてくれました。

 あれぇ、もしかして、魔力を込め過ぎたかしらと、今更ながら慌てると、ルテナが笑いながら教えてくれました。


 魔力量が一定量を超えても、掌紋の印影の濃淡には影響が及ぼさないのだそうで、安心しました。

 今日はなんだかやらかし過ぎているような気がして仕方がありません。


 攻撃魔法を使うと目立ちそうですね。

 だって、みんなしょぼい魔法しか使っていませんもの。


 一番強力な魔法で、ファイアーボールが的にようやく届くだけぐらいでしょうか。

 的に届いてもポスンと消えてしまい、殆ど痕跡すら残らないんです。


 もしも、ヴィオラ(私)がファイアーボールを放てば、左程魔力を込めずとも、標的は消し飛びそうです。

 だから攻撃魔法は使っちゃいけないと思い、別の魔法にすることにしました。


 女の子ですから、花を咲かせる魔法なんて可愛らしくって良いのじゃないかしらって考え、ルテナに相談しなかったのが失敗でした。

 前方に見える円形の台に、魔法を放って綺麗な花を出現させました。


 植物を模して作るには元が要りますよね。

 だからヴィオラ(私)は、円形の台の素材である石板のなかの石英成分を抽出して、綺麗なガラスの花を出現させたのです。


 折からの陽光に照り映えてとても綺麗なガラス細工が出現しました。

 でもすぐにルテナから注意喚起がありました。


「何もないところから、形を生み出すのは魔法でも至難の業なんですよ。

 ヴィオラがしたように、周囲から素材を抽出させて造るか、或いは、予め作っておいたものを転移魔法で出現させるぐらいしかありません。

 但し、どちらも伝説的な魔法の類で、前者は伝説の錬金術師ファルステンしか為した人は居ませんし、後者は同じく伝説の大魔法師カルベロスがただ一人為したという記録しかありません。

 後で絶対にどうやって顕現させたか聞かれますよ。

 この件については、学院よりも、むしろ魔法師団の方がうるさいかも知れませんね。」


 困りました。

 やらかしてしまってから何ですけれど、取り繕いのできる説明は無いのでしょうか?


 ウーン、いろいろ考えてはどうかとルテナに相談しました。

 ルテナが、それが一番いいかもしれないと同意してくれたので、即座にガラスの花をさらさらと消しました。


 まるでそよ風にあおられるように消えてゆく様は正しく幻影です。

 でも残念ながら、その経過をじっと観察している人が一人、白いお髭の柔和なお顔のお爺さんでしたが、ヴィオラはそのことに気づいていませんでした。


 魔法の披露ひろうが終わると、無事に入学のための試験も終わりました。

 後は明日からクラス分けに従って、指定された寮に入り、学院の生活を始めるだけなのですが、ここでもセレモニーが待っているのです。


 お兄様やお姉様から予め聞いていたのでそのことは知っていました。

 要は、寮の先輩が後輩たちを指導して、寮での生活を色々と教えてくれるのです。


 明日以降は寮に住むことになりますけれど、今日のところは、王都に家や別邸がある人は、家に戻っても構いませんし、そうした家が無い者は、寮の脇にある来客用の宿舎に今日は止まるのです。

 ヴィオラは当初の予定通り別邸に返ることにしました。


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