第12話 2ー9 悪徳商人、刺客、家庭教師
ヴィオラ(私)が、新たな化粧品を生み出したことで、少し困ったことも起き始めました。
ノウヴァ・エルグラードのヴァニスヒルに
一つは、エルグンド伯爵の秘蔵職人である謎の錬金術師若しくは薬師を追い求める商人の手先でした。
彼らは、高位の貴族達が入手できる化粧品が大金を産んでいることをかぎつけました。
一月に一度はヴァニスヒルから王都に向かって化粧品が運ばれるのです。
その痕跡を追って、ヴァニスヒルまで
すごい
彼らが追ったのは化粧品ではなくって金の流れだったのです。
王家や上位貴族から一月に一度大金が流れることに不審を感じた両替商がおり、そこから情報を得た大手商会の者が、上位貴族の内情を探って、ついには王都を通じてロデアルから運ばれる秘蔵の化粧品の存在を探り出したのです。
我が家の使用人が秘密を漏らすようなことはしませんけれど、他の貴族の使用人で口の軽い者が居たようですね。
まぁ、秘密が漏れるのはある程度覚悟はしていましたけれど、予想よりも早かったので少々驚いているところです。
情報を入手した商会は二つほどありました。
一つは真っ当な商会で、エルグンド伯爵家に一応の接触を図り、お父様やお母様ともお話をし、生産量が少ない為に市場に流すことが不可能と知るとあっさりと手を引きました。
もう一つは何かと後ろ暗い噂のある商会で、こちらは伯爵家に打診もせずにいきなり強奪する手段を取りました。
エルグンド伯爵領から王都に向けて出る定期便を調べ、
馬車は奪われ、御者及び警護の者は無残にも殺されました。
しかしながら、件の商人は目的の品物を前にして地団太を踏んでいます。
何故なら、ヴィオラ(私)が王都に送る化粧品は、非常に硬い金属として知られるヒヒイロカネに装甲された小さなコンテナに入っているのです。
このコンテナは、ヴィオラ(私)が造った魔法カギが無ければ絶対に開きません。
これを破壊するには二千度以上の高熱に長時間晒さねばならないのですが、そんなことをすれば中に収められた化粧品は炭化してしまいます。
そうしてもう一つ、このコンテナにはその在所を示すトラッカーが入っています。
従って、馬車が襲撃されて、コンテナごと奪われたことが判明した時点でヴィオラ(私)がその位置を常に確認しているのです。
御者も警護の者もヴィオラ(私)がよく知っている者でした。
その者達には家族もいます。
こんな非道なことを許してはいけませんよね。
ヴィオラ(私)は、襲撃から三日後の夜、襲撃した
寝ているうちに首を刈られた男たちは合わせて18名にも上ります。
勿論、化粧品もコンテナごと奪い返しました。
それで一応は終わりと思っていたのですけれど、何をとち狂ったのか、会頭の嫡男が闇組織に依頼してエルグンド伯爵の暗殺を依頼したのです。
そのことはヴィオラ(私)が会頭の暗殺時に念のために配置していたスパイ・インセクトですぐに知ることができました。
闇組織は「レガリスの闇の手」と呼ばれ、この王国では大手の闇ギルドであって、それこそあらゆる汚い仕事を請け負っている組織でした。
闇ギルドがその仕事を請け負ったその夜に、ヴィオラ(私)は再び動きました。
黒幕の会頭の息子及び闇組織と連絡をつけた手代、請け負った闇組織の幹部8名、その仕事を指示された請負師12名全員の首を秘かに刈りました。
このことから王都及びその周辺では首狩り魔の出没が大いに噂されました。
尤も、日頃から余り評判の良くない商会の会頭及びその嫡男、更にはその手代、そうして闇組織の人間と思われる者の惨殺死体ですから、役人が下した判断は闇組織同士の抗争として終結を図ったようです。
仮に殺人鬼が王都及びその周辺に潜んでいるとするならば、下手人を捕まえなければなりませんが、全く手掛かりの無い状態では如何ともし難く、結局は安易な方法で終結を図ったようですね。
ヴィオラ(私)って、最近人殺しばかりしていますよね。
人を殺すのに
でも放置するわけには行きませんし、捕縛して罪を償わせるにしてもその方法がありません。
ヴィオラ(私)が手を下した者達は、相応に
商会の関係者も自ら手を下さずともその強奪や殺人の依頼をしているのです。
ルテナに会頭の前歴をアカシック・レコードで調べて貰ったところ、彼の指示で百名以上の者が殺害されていることがわかりました。
殺された人の中には当の会頭同様の悪人も居ましたけれど、大多数は善人でした。
きっと私の注意を引かなければ、会頭もその罪も放置されていたと思います。
でも知った以上は、ヴィオラ(私)の家族に、あるいは身内に関わりある以上、見逃すことはできません。
ヴィオラ(私)の大事な家族や身内を守るためならば、敢えて鬼神にもなります。
◇◇◇◇
さてさて、ヴィオラ(私)も三月後には王都に行って、王立学院に入ることになりました。
準備は既に終えています。
魔法の家庭教師は、お姉さまと同じ方に依頼しそうになったので、敢えて魔法教師だけは変えていただきました。
正直なところ誰でも良かったのですけれど、彼女は教師に向いていないと思うのです。
伯爵家の魔法の家庭教師を務めたというだけで、ある意味、
しかも二人のお子をということになると、その箔の価値が上がってしまいます。
能力のある方ならそれでも良いのですけれど、魔法師としても中流の域を出ない方でした。
ですから魔法師の実力は左程なくても教師として有能な方を選んでもらいました。
ええ、ヴィオラ(私)が心理的にそう誘導したのです。
ヴィオラ(私)の家庭教師になられた方は三人です。
一人は、座学を担当するビアンカ・エルマータさん。
結構なお年の方で元男爵夫人なのです。
主として歴史と礼儀作法を教えていただいています。
勿論、普段から礼儀作法については教わっていましたし、歴史についてもアカシック・レコードから知ることができますので、十分な知識があります。
でも家庭教師が付いた以上は、その教えを受ける
当然のことながら、学院に行っても同じ立場を演じなければなりませんが、同級生よりもほんの少し上を目指しても良いと思います。
二人目は、武術を担当する女性騎士のクラリーサ・メンディルさん。
我が家の騎士の一人で、小隊長なんですよ。
彼女は主として剣技と弓術を教えてくれるんです。
馬術を教えてくれたのも彼女でした。
そうして私はお姉さまと違って武術でも少し上のランクを演じました。
本当は、クラリーサさんの得意な剣技でも圧倒できますけれどね。
そこは演技ですから、上手に上達して行く過程を彼女に見せました。
でも彼女は教えていて何か違和感を覚えているようなんですけれど、魔法でちょっとだけ彼女の意思を誘導して、単なる思い過ごしにしてもらいました。
三人目は、魔法を担当するマルシラ・フェブラータさん。
彼女は中級程度の魔法師ながら、三つの属性魔法を操れ、中でも水属性魔法に適性を持っているようです。
勿論、お父様やお母様は、私が魔法を相当に使えることを十分に承知しておりますから、当初は魔法の家庭教師は不要と思っていたようです。
でも、私からお願いして、周囲には普通の貴族の子女のように見せかけるために、魔法の家庭教師もつけていただいたのです。
彼女は基礎から丁寧に色々と教えてくれました。
我が家から退去していただいたお姉さまの家庭教師と違い、気合で何とかするというよう教え方ではありません。
勿論、ヴィオラ(私)は、余り魔法を知らない女の子という演技をちゃんとしましたよ。
マルシラさんに教えられたとおりに、すくすくと能力が伸びる素直な女の子を演じ切りました。
お陰様で、王都に立つ前には十分な魔法の技量と知識を与えられたことになっています。
問題は、王立学院のクラス分けのためのテストですね。
どのレベルにしたらよいのか正直迷っています。
止むを得ず、取り敢えず「何でも二番目」の作戦をとることにしました。
テストは学科試験、実技試験の武術と魔法があります。
仮に不得手であっても今現在の能力を確認するために、全部のテストを受けることになっているようです。
グロリアお姉さまに聞きましたら、武術で剣を取って受けたようですけれどふらふらになるまで試されたそうです。
お姉さまは体力がちょっと足りないんですよね。
深窓の令嬢ならばそれでも良いのかもしれませんが、貴族は必要に応じて戦うことが求められます。
本当は体力作りもしてほしいのですけれど・・・。
お父様は武闘派の一人で剣技に優れているとされていますので、ヴィオラ(私)も剣で試験を受けましょうね。
でも女の子で幼いわけですから、大剣を振り回すわけにも行きません。
一応、全長50センチ程度の細身のショートソードを選ぶことにしています。
ですからクラリーサさんにもショートソードでの戦い方を中心に教えてもらいました。
ヴィオラ(私)はチートな体力と俊敏性で先生を圧倒はできますけれど、彼女の教える身体の動かし方は随分と参考になりました。
速さと力任せの剣術よりも滑らかに動けるんです。
さてさて、王立学院でできるであろうお友達が楽しみです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます