コンバット
@Sakura-shougen
第一章 転生と神との出会い
第1話 1ー1 プロローグ
身体中、どこもかしこもが痛い。
心臓の筋肉さえ弱っているのだから、余命いくばくもないことは自分でもわかっていた。
それでもこれまで自分を支えてくれてきた家族のために、忍は生きることに執着していた。
正直なところ、声はまだ聞こえるが視力はほとんど無いといって差し支えないだろう。
閉じた瞼を通して光の明暗で何となく昼夜がわかり、人が近づくのがわかる程度だ。
そのために瞳を介して動くパソコンを通じての会話も
その声援に応えるべく、私は生を追い求め続ける。
小学校四年生の頃にALSを発病してから、小学校も中退したままであるけれど、身体が動く間は家庭教師をつけて
家は比較的裕福であったから、部屋に色々な装置や設備を整えてくれて、私が生き延びるのに必要なあれこれを用意して貰えた。
私は、小学校も卒業していないけれど、高校卒業程度の知識は十分に身に付けることができていた。
生憎と身体を動かすことはほとんどできていない。
発症する前は、スポーツ万能な
忍の家族や親戚にALSを発症した者は居ない。
遺伝的なものではないと思うのだけれど、お医者さんもそこはよくわからないと言っていた。
私が生き延びられたなら、お医者様になってALSの病気を根絶したいという願いを言ったら、お医者様がそのためには頑張って生きるんだよと微笑んでくれた。
でも、ついに
私の眼下に私の身体が見える。
そばにある心臓の動きを示すモニターの波形が消え、直線になってピーっという甲高い音を立てている。
母が、姉が、私のやせ細った身体に
父は、顔を上に向けて必死に涙をこらえようとしているが、その目には涙が溢れていた。
私は自分が死んだことを悟った。
そうして私の視点が上へと昇って行った。
病院の天井を突き抜け、私の住んでいた街並みを
尚もその視点が上昇、雲の上に突き抜けた途端に、周囲が闇に落ちた。
次いで気づいた時、私はベッドに寝ていた。
見覚えのあるような天井ではない。
フレスコ画(?)のような丸天井が見え、綺麗に彩色された飾りが梁と壁の一部を覆っている。
実物を見たことは無いけれど、家庭教師の
但し、私が見た図柄や絵画とはチョット違っていた。
そうして奇異なことに私は目が見えるし、呼吸も苦しくない。
あれほど苦しかった自発呼吸が今では自然にできている。
そうして私の手、それに足。
ほとんど動かなかった筈なのに、今は動いているみたい。
ただ、ちょっと動かしにくいのは何故?
未だ、病気のままなのかなぁ。
視界の片隅に私の手が見えた。
にぎにぎしている小さな手・・・?
え、なに?
この手小さすぎるよ。
声を出そうとして赤ん坊の様な鳴き声が出てびっくりした。
すると視界の中に白人女性が現れた。
凄く大きい巨人さんです。
顔が1m近くもあるように感じてしまいました。
それに頭には明るい茶色の髪があり、ミミが・・・ついている?
え?耳のついている位置が違うよ?
家庭教師の
その耳がピコピコ動いているから作りものじゃなくってなんだか本物みたい。
その女性は、
私が何のことかわからないでいる間に、身体の方は勝手に反応してその哺乳瓶からミルク(?)を飲んでいます。
うん、美味しいけど・・・。
私って、赤ちゃん?
今までの私の、忍の身体は?
あ・・・、そう言えば、さっき、死んだのよね。
じゃぁ、これって安奈先生の言っていたラノベの転生モノなの?
一部の宗教では
ネット小説で
転生なら、どっちなの?
地球?
それとも異世界?
私、神様にも仏様にも会っていないよ。
ラノベの転生なら、どっちかに会うのじゃないの?
あのストーリー展開は、ひょっとしてもう古いのかな?
確か5年ぐらい前に、電子書籍の朗読アプリで聞いた話だし・・・。
私、英語の勉強はやっていたけれど、英会話はその機会が無かったからそれほど得意というわけじゃない。
でも、この女性が別の女性と話している言葉はわかりました。
絶対に日本語や英語じゃありません。
でも意味はしっかりと理解しています。
「ローナ、奥様のところへ行ってお知らせして頂戴な。
ヴィオラお嬢様が目を覚まして、今ミルクを飲んでいらっしゃいますって。
熱はすっかり下がってお元気ですよとお伝えしてね。」
「はい、カリン様、では奥様へお知らせして参ります。」
二人は、こんな話をしていました。
ケモミミさんはローナという名前みたいですね。
それともう一人の女性は銀色の髪の女性で耳はちょっと尖っています。
電子マンガの指輪物語に出て来たエルフの姫様になんとなく似ていますね。
この人が多分カリンという名の人です。
で、もう一人出て来た名前の「ヴィオラお嬢様」が私?
何だろう、花か楽器のような名前ですね。
でも、これで異世界転生はほぼ確実なんでしょうか・・・。
エルフに獣人さんです。
私も前世で10歳から後は旅行にも行っていないから良くわからないけれど、地球にはエルフさんも獣人さんも居なかったと思うのです。
転生って、元の記憶を持ったまま生まれ変わるの?
私はネット小説って余り読まなかったから良くわからないけれど、あくまで仮想世界のお話よね。
でもこの世界に生まれ変わったのなら、ここで一生懸命に生きてみます。
そうして、忍ではできなかったことを色々と試してみたいと思うのです。
◇◇◇◇
私の名は、ヴィオラ・ディ・ラ・フェルティス・エルグンドと言います。
「エルグンド」は、私の父の家系を意味します。
「フェルティス」は、私の母の出身の家系を意味します。
「ラ」は娘という意味合い、「ディ」は英語の冠詞のような役割ですが、娘の場合は「ディ・ラ」、子息の場合は「ド・ヴァル」と使い分けします。
ですから私の名は、エルグンド家のフェスティス一族の血を引く娘のヴィオラという意味になるのです。
父の名はケアンズ・フォン・ド・ヴァル・ネィスミス・エルグンドですが、「フォン」の意味合いは伯爵を意味します。
従って、エルグンド家のネィスミス一族の血を引く息子のケアンズ伯爵という意味になりますが、普通の呼び名では「エルグンド卿」あるいは「エルグンド伯爵」と呼ばれているようです。
ですから、私は伯爵家令嬢ということになるのですが、娘や息子に爵位は本来与えられていません。
でも父の爵位に敬意を表して、娘の私も随分と世間的には大事にされるポジションにあるようです。
転生してから一月ほどかかりましたが、私の周囲の事情がようやく分かりました。
私が生まれたのは、私が初めて意識を持った転生時の三か月ほど前の様です。
残念ながら、生まれてから三か月の間のことは一切覚えていません。
私は高熱を発し、命を危ぶまれていたらしいのですが、その熱が引いた時がどうやら転生の時だったようです。
周囲の事情が分かっても、生後4か月ではお話もできませんし、歩くこともできません。
せいぜい寝返りを打つことができる程度。
でも寝返りができるようになって間もなくお座りができるようになりました。
きっと首の周り、腰回り、腕などに筋肉がついた証拠なのですよね。
成長している証なんです。
この時期、大人がしゃべっている内容は全部わかっていますけれど、いまだ声はうまく扱えませんでした。
ですから私は
私の住んでいる家は、お父様の領地であるロデアルの領都ヴァニスヒルにある本宅です。
お父様は、他に王都にも別宅を持っていらして、1年の内二か月か三か月ほどは王都別邸で過ごされています。
その間、母や私は本宅でお留守番です。
あ、因みに私にはお兄様とお姉さまが居るのですよ。
お兄様は、クリスデルといい、お姉さまはグロリアです。
正式名で言えば、お兄様がクリスデル・エル・ド・ヴァル・フェスティス・エルグンド、お姉さまがグロリア・ディ・ラ・フェスティス・エルグンドですね。
このあたりの情報はもっと後になって知りました。
最初の頃は、精々お兄様やお姉様の名前であるクリスデルとグロリアぐらいです。
お父様やお母様の名もわかってはいませんでした。
だってメイドさんや従者たちは、
因みに、お兄様はお世継ぎとしての嫡子ですので「エル」がつけられているのです。
仮にお兄様がいずれ伯爵家を継がれたならば、クリスデル・エル・ド・ヴァル・フェスティス・エルグンドからクリスデル・フォン・ド・ヴァル・エルグンドと呼ばれることになります。
お母様の名前は、イリアナ・フェスティス・ディーヴァ・エルグンドと言います。
正式名がわかったのは本当にずっと後の話ですが、「フェスティス」はお母様の出自の子爵家の名、「ディーヴァ」が正室の意味合いです。
お父様は貴族には珍しく側室を持たれていません。
仮に、側室の方の出自がバルデス家の方の場合、その側室から生まれた子が女の子であれば、〇〇〇・ディ・ラ・シス・バルデス・エルグンドと名付けられます。
母の家系の前に付く「シス」が傍系の庶子を意味しているのです。
但し、側室の息子であっても、当主が認めて貴族院に登録されれば嫡男となることができ、その場合は名前から「シス」が外れます。
ところで本宅には、従者やメイドがたくさんいるのです。
カリンはメイド長で、ローナは私専属のメイドです。
ローナには、いつもお世話になっています。
お母様もフェスティス子爵家から父に嫁いできた令嬢ですので、子育てというか育児は八割がたメイド任せなのです。
たまにお母様に抱っこされることはあっても、おしめを替えたり、授乳したりはメイド達がするお仕事の様です。
あ、そうそう、メイドとは別に
私よりも半月前に生まれた子を持つ女性タマラさんが私の乳母です。
伯爵邸に出入りする商人の奥様で、お乳がたくさん出るので私の乳母になってもらったみたいです。
ですから私には乳姉妹が居ます。
その子は、女の子でエレンといいます。
いずれ大きくなって乳離れしたら、離されてしまうかもしれませんけれど、今のところ、いつも私と一緒に育てられていますね。
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