第697話 あまり俺に頼るなよ?

 一層に入ると、さっそく宝珠探しを始める。三層に入る条件だから仕方がない。

 手始めに斜面を下り、斜面の谷間に宝珠が転がり落ちていないか確かめたが、他の冒険者が先行したのかこれと言って宝珠は落ちていなかった。


「やっぱり、ここはマーヴィに頼るしかないね」

「にゃにゃ~」


 俺が声をかけると、マーヴィは『仕方ないなぁ』と言わんばかりに声を上げた。そして手近な木の幹に飛びつくと、爪を立ててするすると登って行く。

 ある程度上ったところで手頃な枝に移り、枝の上で飛び跳ねたり、隣の枝に飛び移ったりして枝を揺らした。

 マーヴィは持ち前のバランス感覚を駆使し、枝を揺らしても落ちる素振りは見せない。


 ――ガサガザ……トスッ


 一本目から当たりだ!


 木の枝から降って来た宝珠は地面に落ち、丸い形状の宝珠はすぐに転がり始める。速度が上がる前に進路上に回り込み受け止めた。


 斜面を転がる宝珠を追いかけたくないから、野球で言うゴロを拾う要領で膝を突き、後ろにそらさないよう身体で受け止めるのがポイントだ。


 ただこの作業だと……野球のグローブとか虫取り網が欲しくなるね。


「……黄色の宝珠か。マーヴィ、この調子で頼むよ!」

「にゃ~」


 宝珠の回収に成功し、気を良くした俺はマーヴィに発破をかける。頼られてマーヴィも嬉しそうに鳴き、やる気を漲らせた。


 同じように枝を揺らす作業を繰り返し、宝珠が引っかかっていない事を確認したら木を変え、また枝を揺らす。

 ハズレの木の方が圧倒的に多いが、不思議と地面を探すより効率が良かった。


 他の冒険者に知られていない宝の山のようだ。


 それに一層を通り抜ける冒険者はいるが、稼ぎの悪いミニボアを狙う冒険者は殆ど見かけない。

 なので他の冒険者が通り過ぎるのを待てば、俺たちだけの秘密の宝珠回収戦法となる。

 しかも一層は木の密度が高い分、枝葉に引っ掛かる宝珠も多い。


「順調、順調」

「にゃー」


 ときおり現れるミニボアも俺とシャイフであっさりと片付け、順調に宝珠回収を続ける。


 二層の入り口が見えたところで、きょうの宝珠回収作業を終えることにした。

 そこそこの数を回収できたし、ルデリットに預けたフェロウ達の様子も気掛かりだ。


「よし! 引き返そう」

「にゃー」「ピッ!」


 俺たちは行きとは別のルートを選び、復路でも宝珠回収をしながらダンジョンを出た。


「おーい! フェロウ~」


 ダンジョンの入り口付近を見渡しても子供たちの姿は見つからない。フェロウの名前を呼び掛けて見るも、聞こえていないのか返事はない。


「先に帰ったのか?」

「にゃー」


 俺が疑問に思っていると、フェロウの居場所に心当たりがあるのか、マーヴィが先導するように歩き始めた。

 それは冒険者がダンジョンに通う道ではなく、ダンジョンの更に向こう、山道を進んだ方角だった。


「フェロウはそっちか?」

「にゃ~」


 マーヴィの後をついて行くと、僅かに地面が見える獣道を進み、しばらく進むと少し開けた場所に出た。

 山菜取りで疲れたのか、柔らかな草の上で小さな子達が横になって、寝息を立てている。そのすぐ脇に見張り番よろしく、エレナが枕元で羽を休めていた。


「あ、エルさん!」


 ルデリットが俺の姿に気付き、パッと顔を明るくして名前を呼ぶ。


「子供達が寝てるけど、いつもこんな感じ?」

「ううん、初めて。街の外は危険だから寝たりしないよ。きょうは疲れちゃったみたいで……、起きそうに無いし困ったなぁ~」


 子供たちはエレナを追いかけ回して疲れたのか、フェロウが守っているから安心して眠ってしまったのか、どちらにしても寝てる子を運ばないと他の子供達も帰れない。


 起きている子は果物や山菜取りで疲れているし、荷物もあるから寝てる子を運べない。ルデリットは途方に暮れていたようだ。


「シャイフ」

「ピッ!」

「うわぁッ?!」


 俺は影の中からシャイフを呼び出すと、突然現れた大型の魔物にルデリットは悲鳴を上げる。

 俺は悪かったと思いつつ、先ほどの声で魔物を呼んでいないか魔力探知で確かめた。

 周辺に魔物は居ないようで、胸をなでおろした。


 俺は寝てる子をシャイフの背に乗せ、移動の準備を済ませた。


「ありがとう、エルさん。みんなー、集まってー! 帰るよー!」


 ルデリットが呼び掛けると、子供達と一緒にフェロウも戻って来た。


「いっぱいとれた!」

「山菜も木の実もたくさんあるよ!」


 収穫の多さに、子供たちは大はしゃぎだ。

 普段はとても行けれない場所だったようで、手つかずの山の幸が大量に残されていたようだ。

 子供たちはホクホクとした高揚感に包まれ、疲れを忘れて笑顔で山を下りた。


 寝てる子をシャイフの背中に乗せていたから、それを見咎めた門番に何があったと問い詰められるという一幕があった。

 門番も職務上、事件か事故か、はたまた魔物被害か確かめる必要があったらしい。


 さすがの俺も街中でシャイフだけを孤児院に向かわせる訳にはいかず、寝てる子を送るためにルデリットと孤児院に向かった。


「きょうもお肉食べれるかな~?」

「昨日はご馳走だったもんね!」


 子供たちは無邪気な会話をしながら家路を急ぐ。

 チャージボア肉一匹分差し入れたから、きょうもお肉食べらると思うよ!


「エルさん」

「……ん?」

「明日は市場で露店を開くので……」

「ああ、うん。わかった。まあでも、送り迎えを約束している訳じゃ無いしね」

「そうですけど……、またお願いします!」


 ルデリットの願いに、「まあいいけど」と返すが……


「旅行の途中で立ち寄っただけだから、あまり俺に頼るなよ?」


 と、釘を刺しておく。冷たいようだが、俺はいつまでもこの街に居る訳じゃないから、あまり頼りにされても困る。

 ルデリットは「はい」と、少し寂しそうに返事をした。

 孤児院に着くと寝ている子を降ろしルデリットたちと別れた。


 その際、シャイフを見て驚いた子供たちが泣き出したけどね!

 見慣れない大きい魔物が怖いのは分かる。子供達に怯えられ、シャイフは肩を落とし、どことなく悲しそうな顔をしていた。


 冒険者ギルドに向かうと、寄り道した分遅くなったようで、受付カウンターも混み合い始めている。

 俺はいつものように自称担当のヘロイーゼの列に並び、帰還の報告と昨日の解体分の査定書とお金を受け取った。


「あっ、きょうも解体出しますね」

「ええ、分かったわ」

「それと宝珠を拾ったので、訓練場の片隅で開封しますね」

「いいわよ。どうぞどうぞ」


 それだけ言って受付カウンターを離れる。

 さすがに行列ができて忙しそう、ヘロイーゼは解体場について来ないようだ。


 俺は一人解体場に向かった。

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