第268話 ギルドの報告もあったな?
ガリウス・フォン・ローゼグライムside
学院には通っているが謹慎中の身では退屈だろうと、ウィリアムを執務室に連れてきている。
将来の為にと書類を手伝わせ、国王の業務を学ぶ機会とする。
そんな中、執務室の扉を叩く音に続き、入室の許可を求める声が聞こえて来た。
「書類をお持ちしました」
「入りたまえ」
配下の文官の声だと判断した宰相が、許可を出し執務室へと招き入れる。
入って来た文官の手には、書類の山と何故か緑色の宝珠を手にしていた。
「その宝珠は何だ?」
「ははっ! こちらは冒険者ギルドから届けられたもので、依頼の報告書と共に提出されました。買い取りを希望している物だと申しておりました」
「グリフォンの宝珠か?!」
思わず口を挟んでしまったが、冒険者ギルドがグリフォンの宝珠を入手していたならば、納品依頼で処理するはず。
それを買い取り希望で持ち込んだなら、グリフォンとウォーホース以外の魔物といえるだろう。
流石に弱い魔物の宝珠ではないだろう……
少なくともウォーホースを超える魔物で無ければ、王家に売り込みに来るわけが無い。
……では何の魔物だ?
「持ち込んだ者によると、ヒポグリフが出る緑色の宝珠だそうです。飛行可能な魔物だそうです」
「王家がグリフォンという飛行可能な魔物を欲してるとみて、似たような魔物が出る宝珠を持ち込んだ訳じゃな。陛下、先のグリフォンの一件のような事態は避けるべきです。魔力に余裕のある者にテイムさせるのが肝要化と」
「宰相、ヒポグリフがどのような魔物か説明せよ」
「どのような魔物か聞いておるか?」
………お前も部下に聞くのか。
「ははっ! グリフォン同様前半身が鷲で、ライオンだった後半身が馬に代わった魔物です」
「ほほう。後ろが馬ならば、騎士達も慣れていて騎乗しやすいやもしれぬ。それに、特別に拵えずとも馬用の鞍と
馬を操るには手綱が必要だが、前半身が鷲なら馬用の
そうなるとヒポグリフやグリフォンを操るには、新たに手綱を装着する騎乗具が必要となる。
ならばウィリアムにその開発を任せてみるか。
まだ個人のウォーホースをテイムしていなかったのも、この状況では都合が良い。
王族は生まれながらにして保有魔力が多く、特殊な魔物をテイムする魔力は十分ある。
「ウィリアムに公務を言い渡す。この緑色の宝珠でテイムした魔物の能力評価と騎乗具の開発をせよ」
「父上、能力評価とは、どのようにすれば良いのでしょう?」
「馬と比べて走る速度に違いがあるか、馬車を引く力はあるか、どの程度飛べるか等だ。思いつく限りの能力を確かめろ。
騎乗具は轡の代わりとなる手綱を付ける装具の開発だ」
「すべてを一人で成さねばなりませんか?」
「城内の人手なら手の空いてる者を好きに使って構わない、もちろん通常業務を優先するがな。
相談相手が必要なら
外部の人間の協力が必要な場合は、その都度申せ」
「ははっ! 能力評価並びに騎乗具開発、しかと拝命致しました!」
(ダンジョン研修で下がってしまった僕の評価を上げるために、父上が采配した任務だ。失敗する訳には行かないし、高い評価を得られるよう考慮した方が良いだろう)
(馬との比較のみならず、グリフォンとの比較も必要だ。噂に聞く市井のグリフォンのテイマーに、協力を求めるのも良いかも知れない)
任務についてしばらく思案していたが、緑色の宝珠を受け取ったウィリアムは、意を決してヒポグリフをテイムする為に、執務室を飛び出して行った。
今迄に無い事を経験すれば、新たな見識を得てウィリアムも大きく成長するであろう。
騎乗具一つとっても、新規開発には試行錯誤する必要があるし、様々な職種の人物と折衝する事で、上の立場に立つ者としての自覚も芽生えるであろう。
「冒険者ギルドの報告もあったな?」
「陛下、グリフォン関連の報告書のようです」
「ようやくグリフォンの報告が聞けるのか、依頼を指示してから三か月は経つぞ、あらましを報告せよ」
報告書であれば、概要を理解し、疑問が湧いた部分について詳細を確認すればよい。
全ての書類に目を通していては、書類仕事が何時まで経っても終わらないし、新たな施策を練る時間も無くなってしまう。
任せられる作業、省ける作業は極力減らすべきだ。
宰相が冒険者ギルドからの報告書に目を通している間に、他の書類を片付けて行く。
「陛下、読み終わりましたので概要を報告します」
「申せ」
「ははっ! 赤いグリフォンの目撃以降、ダンジョンに異変は発見されなかったとの事。これは中間報告とし、再度グリフォンの階層まで潜る機会があり、そこでも異変が確認されなければ、グライムダンジョンに異変は起きていないと確定します」
ダンジョンに異変は起きておらず、緑色の宝珠から赤いグリフォンが出現した事は、偶然であり因果関係は無かったようだ。
王都は外壁の内側にダンジョンがあり、
王都民を守るためには、ダンジョンの些細な変化も見逃すわけにはいかない。
「次に緑色の宝珠の納品依頼ですが、今のところ納品はありません」
……やはりグリフォンの宝珠の納品は無かったか。
グリフォンの階層に向かう冒険者は殆ど居ないと聞く。
一週間狩りをする依頼を出しておかねば、到底宝珠が得られる機会は来ないだろう。
「続きまして、グリフォンの階層で一週間狩りを行う件ですが、初めて依頼を受けた者が現れましたが、今回で依頼は完了したとあります」
「なに?! 小規模であろうともグリフォン部隊を作る予定なのだぞ! 緑色の宝珠が得られていない時点で完了などあり得ない! 何故冒険者ギルドが勝手に依頼を終わらせるのだ!!」
「いえ陛下、依頼を終了させたのは冒険者ギルドでは無く、騎士団が完了を宣言したとあります」
例え騎士団であっても、王家が発行した依頼を終わらせる権限などあるはずも無い!
航空兵力は国防にも関わる、そんなグリフォンの案件を終了させた騎士は、必ず見つけ出してやる!
改めて依頼を出せば良いのだが、騎士の専横は諫める必要がある。
怒りに震えるほどでは無いが、イラつきは隠せない。
これがその証拠とばかりに、眉間の皺が限りなく深く刻まれていた。
「どこのどいつだ! 勝手な事を言い出したヤツは!」
「報告書によりますと、サヴァリート千人隊長とあります」
「そいつを呼び出せ!」
「畏まりました」
宰相はとばっちりを避けるためか、いつも以上に深々と頭を下げ、すかさず踵を返し、サヴァリート千人隊長の召喚状を認め始めた。
このままでは些細な事で陛下の苛立ちをぶつけられる。と思った宰相は、お叱りを受ける千人隊長へ『陛下の覚えめでたく、拝謁の機会が与えられた。正装で登城するように』とお褒めの言葉をいただけるかのような文面を記し、且つ、宛先の敬称を千人隊長ではなく男爵と記した事で、男爵の出で立ちで登城するよう、即ち、防具すら身に付けさせない策略を盛り込んでいた。
最悪、捕らえられる可能性も視野に入れてるようだ。
どうやら宰相も苛立っていたようだ。
「あと、騎士団長を呼べ! 宝珠持ち出し許可証の件は、騎士団にも通達しておったはずだ。
伝達事項に不備があっては、騎士団としての機能不全としかいいようが無い。
指揮、命令に粛々と従う騎士達に、簡単な連絡事項すら行き届かなかったのは、命令系統が機能していない証拠である。
これでは有事の際、軍事行動に不安が残る。
指揮系統も見直す必要があるやもしれぬ。
簡単な報告を聞くだけと思っていたが、思わぬ仕事が増えてしまったな……
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