第7話 マリアさん、ドMの勇姿がバズってしまう。
カレンとひとしきり話をした後、マリアは自宅への帰路に着いた。
そして、自宅の扉を開けると、妹のユリアが玄関に勢いよく飛び出してきた。
「お、お姉ちゃん! 大変だよ!!」
妹の慌てようにマリアも驚く。
「なにかあったの!?」
「お姉ちゃん、バズってるよ!!」
「へ?」
妹の言葉にマリアは間抜けな返事を返す。
「チャンネル登録者! 見てみて!」
妹に言われるがまま、≪|ステータス画面(ウィンドウ)≫を見ると、大量のポップアップメッセージが届いていた。
そしてそのほとんど全てが、新規の視聴者がチャンネル登録をしてくれたことを知らせるものだった。
そのうちの一つを開き自分のチャンネルに飛ぶ。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅ、10万人!?」
なんと登録者が10万人に膨れ上がっていたのだ。
朝起きた時、チャンネルの登録者はたったの7人だった。
マリアは、なにかのエラーで、間違った数値が表示されているのではないかと疑った。
だが、画面を消してもう一度出してみると、なんとその数字は増えて、11万人に膨れ上がっていた。
あわあわと手をバタバタさせる。
「ななな、なんで!?」
「カレンさん配信中にドラゴンを倒したらからバズったんだよ!!」
「あ、あれが!?」
「切り抜き動画がめちゃくちゃバズってる! それでお姉ちゃんのチャンネルが掘り起こされて、人がめちゃくちゃ入ってる!」
妹の解説によってマリアはようやく状況を理解した。
だが状況を理解しても、結局どうしたらいいのかはわからなかった。
「わわわ、これどうしよう!?」
その点、妹はしっかりしていた。
「これはチャンスだよ! お姉ちゃん、人気配信者になれるよ!」
ギルドをクビになってたった一日。
すべてが突然良い方向に転がり始めていた。
†
カレンを助けてバズりまくった、その翌日。
マリアはこのチャンスをものにすべく、さっそくダンジョン配信を行うことにした。
いつもであれば配信枠を取っても待機してくれるような熱心なファンは皆無で、一人さみしく放送を始めるのが常であった。
だが、この日は違った。
「……待機人数……3万人……」
今までの自分からすればけた違いの人数に、マリアはごくりと唾を飲み込む。
そして一度深呼吸をしてから、意を決して配信を開始した。
“きたあああああ!!”
“はじまったあああああああああああああ”
“うおおおおおおお!”
“おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお”
“切り抜きから来ました!”
“近くで見たらめっちゃかわいいwwwww”
“かわえええええwwwww”
怒涛のように流れてくるコメントに、マリアは配信開始早々タジタジになった。
「うわっ、えっと、あのっ」
思わず言葉を詰まらせる。
“慌てすぎwww”
“これはかわいいww”
“テンパっててかわいいwwww”
“ういういしすぎやろww”
視聴者からの好意的な言葉に助けられ、マリアはなんとか言葉を出す。
「は、初めまして!! 皆さん、今日は配信に来てくださってありがとうございます」
テンパりは最高潮に達していたが、なんとか事前に用意していた内容を紡ぐ。
「あの、一応自己紹介します。わたし、マリア・ローズウッドって言います。今はフリーで冒険者をやっています!」
と、そうして自己紹介をすると、次の瞬間、画面に赤色のコメントが飛び込んできた。
“【50,000G】俺たちのカレンちゃんを救ってくれてありがとう!”
赤色背景のコメントは、いわゆる≪赤スパ≫だ。
スマコメは5万ゴールドが上限。つまり、最高金額の投げ銭である。
「あわわわ、ごご、五万ゴールドも!?」
マリアは1年ほど配信を続けてきたが、千ゴールドを超えるスパコメをもらったことはなかった。
一か月の生活費が一万ゴールドを下回る生活水準のマリアにとって、その金額は腰を抜かすほどの金額であった。
それだけで半年は生活していける。
「あ、あっ、ありがとうございます!!」
マリアがペコリと頭を下げると、それにつられてかさらにスパチャが飛ぶ。
“【10,000G】かわいいwww!”
“【1,000G】この反応、ういういしいなぁw”
“【30,000G】女神様にお布施ww”
それから、しばらく断続的にスパチャが飛び交った。
マリアはひたすらあたふたしながらそれにお礼を言っていく。
そして、かれこれ10分ほどそれを続けた後、ようやく祭りがひと段落して、配信を続けることができるようになった。
「えっと、今日はおそらく多くの人にとって初めてわたしの配信を見る機会だと思います。なので、せっかくなのでわたしのことを知ってもらうために……」
マリアは今日の動画の内容を説明する。
「わたしの“休日ルーティン動画”を配信したいと思います!」
その言葉を聞いた視聴者の脳裏に疑問符が浮かぶ。
なぜならマリアの後ろに映っているのは、どう見てもダンジョンの入り口。
“ダンジョンで、休日ルーティン?”
“どういうことwwww”
“もしかしてモンスター討伐に快楽覚えてるタイプ?w”
視聴者からも早速そんなコメントが飛ぶ。
だが彼らはわかっていなかった。
ドM冒険者の休日ルーティンが、想像を絶するものであるということを。
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