第5話【side】その頃ギルドでは……


 マリアが魔法通信網(ネット)でバズり散らかしていた頃。


 マリアを追放したギルド、≪ブラックバインド≫の事務所では、ギルマスのエラソーが黒革の高級椅子に座ってニヤニヤと笑っていた。


「無能を追放したから、今日は妙にかすがすがしい気持ちだな」


 そう言うエラソーの前には直立不動の部下。

 隊長の役職にあるアーサーという男である。


「た、ただギルマス……マリアがいなくなると我々は少し困るといいますか……」


 満足げなエラソーとは対照的に、アーサーは焦っていた。

 マリアがいなくなれば、まず間違いなく仕事が回らなくなるからだ。


 マリアはギルド内では“消防士”の異名を誇っていた。

 エラソーが受注してくるクソ案件が炎上したときに、その尻ぬぐいをするのはいつも決まって彼女だけだったのだ。

 けれど、部下を無能と決めつけているエラソーの耳にその言葉は届かない。

 

「ん? なにか言ったか」


「あ、あの……いえ、なんでもないです……」


「そうそう、リンダには派手な仕事をまかせてくれよ。彼女はうちのエースになるんだからな」


 最近、エラソーは、お気に入りの美少女冒険者リンダに夢中になっていた。

 彼女が有名配信者になることで、≪ブラックバインド≫がさらに発展すると信じて疑わなかったのである。


「……承知しました」


 アーサーは無邪気なギルドマスターに、苦虫を嚙み潰したような表情で返答するのであった。



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