160
Nora_
01
あった! と大声が聞こえて顔をあげる。
すぐにその声の主が近づいてきて「これをあげる」と言ってきた。
「ありがとう、私、これが好きなんだ」
なんて、ただの丸い石なんだけど。
だけどこれだという物を探していたため、これは本当にありがたいことだった。
だから安心してその友達から、この土地から離れることができたのだ。
「なお、もう起きないと」
「んー……」
なんとか声かけ三回分は逃げられた……けど、これ以上は自分のためにもやめておいた方がいいということで体を起こした。
春夏秋冬、いつでも朝が辛い、七時とかであっても油断していれば瞼と瞼がくっちてしまう。
でも、先程も考えたように母が大爆発した方が辛いからさっさと準備をして家を出た。
「眠たい……帰りたい……」
できることならずっとベッドの上で過ごしたい。
それでも平日になれば家から出て学校に登校しなければならない。
授業を受けることが大切なのはわかっているよ? ただね、それだけでモチベーションを維持することができないのだ。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
誰……。
眠気がぶっ飛んでいったのはいいけど顔が怖い系の人が近くにいるというだけでぶるぶると震えてくる。
男の子だろうと女の子だろうと駄目なものは駄目だ。
「って、それだけかーい」
あの挨拶はなんのためにしたのか……。
これはもう私にしたわけではないのに反応してしまったという風に片付けておこう。
「寝よ」
「待って」
「ぎゃ――な、なんですか?」
叫ばずに済んでよかった……。
「寝られていないの?」
「い、いえ、朝に弱いだけです」
これは幼稚園のときからそうみたいだから社会人とかになったら余計に酷くなりそうだった。
毎日眠たい状態でどこかに歩いていたら川に落ちるなんてこともありえそう、ずぶ濡れの状態でいきたくなんかはないからなんとか避けるしかない。
「そうなの、ちゃんと寝られているのならよかったわ」
「それよりよくわかりましたね?」
「知っているから声をかけたの、あなた、いつも弱々しい足取りで歩いているから」
「そうですか、いつものことですので気にしないでください、心配してくれてありがとうございます」
ふぅ、いちいちだ、だだ、大丈夫ですなどと答えてしまう人間ではなくてよかったとしか言いようがない。
名字も名前も知らない先輩は教室から出ていったから今度こそ安心して寝ることができた、勝手にSHRの時間になったら起きるようになっているからこれはある種のいい能力だと思う。
それと朝から離れれば離れるほど元気になるからお昼休みや放課後寄りの私は最強だった。
まああれだ、所謂コミュ障というわけではないからまだお友達ができていないこと以外で困っていることはないのだ。
「ま、そのお友達の件だってまだ四月だから大丈夫でしょ」
引っ越したというのもあるし、なにも小学生のときからお友達がゼロというわけではないのだから。
「なあっ、これぐらいの身長の女子を見なかったかっ?」
「み、見ていませんよ?」
「そうかっ、悪いな邪魔をしてっ」
あ、慌ただしい、それと足が速い。
とりあえずお弁当箱を広げて食べ始めると自作でも関係なく美味しくてよりいい気分になった。
作るのはあまり得意ではないけど食べることは大好きだ。
「
為末なお、高校一年生! ではなく、なんのために聞いたり調べたりしたのかがわからない。
「あ、あの人が探している女の人ってあなたのことだったんですね」
「ということは来たのね、まったく、高校二年生のくせにまだまだ子どもだから困るわ」
「ちなみにどんな理由であなたは探しているんですか?」
別に悪そうな人には見えなかったからどんな理由でそうしているのか気になる。
「スカートを捲ってきたからよ」
「え、いまの時代にそんなやり方でふざける人もいるんですね」
ま、まじか、小学生時代にはいたけどまさか高校生でもやるなんて……。
下手をすれば発覚して終わりだ、いくら逃げ足が速くても逃げられはしない。
「ズボンを履いているのを知っているから普通にやるのよ、しかも人がいないところでね」
「え、あ、そういうご関係で……」
「幼馴染というだけよ」
「で、でもでも、そういうことをしてきていてもあなたは一緒にいるんですよね? いまのまったくという発言も呆れつつ私がいなければならない的な――な、なんですか?」
両肩を掴んで圧をかけてきても事実だから謝ったりはしないぞっ。
「あなた本当に朝に弱いだけなのね」
「はい、お昼休みとかになれば元気いっぱいですよ」
「それより煽るのはやめなさい、あなたも一緒に探してちょうだい」
「えー!?」
「ふふ、大きな声ね」
目、目で圧をかけてきやがる! ……なんてね。
仕方がないからぱぱっと食べて動き始めたのだった。
「よう」
「あ、こんにちは」
ではない、何故ばれているのか……。
「昼に俺のことを探したんだって? はは、見つからなくて困ったろ?」
「はい、あなたのせいでお昼休みが犠牲になりました」
「ははっ、正直なやつだっ」
ご飯だって味わって食べる派なのに急ぐことになった。
目で圧をかけられても次は絶対に同じようにしない、お昼近くのパワーを見せてやろう。
「それより小学生みたいなことをしてはいけませんよ」
「ん? ああ、そのまま信じているのか、可愛いやつだ」
「か……なにを言っているんですか?」
「お前……なんかちょろそうだな」
うるさいうるさい、いきなり意味不明なことを言い出して困っているだけだ。
「あとお前、ちゃんと嫌なら嫌って言えよ? ずっと付き合っていると疲れるぞ」
「あの女の先輩のことですよね? 多分、あなたが普通にしていればもう来ないと思います」
「はは、それなら外れだな、何故ならこうして普通にしていてもあいつはそこにいる」
振り返ってみると確かにいまも変わらない感じで先輩が立っていた。
それからこちらの両肩を掴んで「為末さんのおかげで捕まえられたわ」と、でも、この男の人も別に逃げようとはしていないからこんなものだと思う。
「今更だけど私の名前は
「いちいち余計な言葉が多いよな」
「とりあえずこうして捕まえられたから戻るわね、あとはよろしく」
な、なんて人だ、何故捕まえるだけで満足して戻ってしまうのか。
残された先輩は腕を組んだままこちらを見ている、せめてなにかを言ってほしいものだ。
「なあ」
「はい?」
「放課後にまたいくわ、じゃあな」
おーいおい、人のことをちょろいとか言っておきながらこの人もそうなのかあ!? と一人テンションが上がっていた。
ただ、どう考えてもあの女の人には勝てないからなにも始まらないで終わると思う。
ちょっとぐらいなら仲良くなれるかもしれないけどね。
だけど対異性の場合は中途半端に動くのは危険だとわかっているから鋼の意思でなんとかしよう。
「よ、来たぞー」
「こんにちは、それじゃあこれで失礼します」
「待て待て、ちょっと駄菓子屋にでもいこうぜ、一つぐらいなら買ってやるからさ」
「それならガムを買ってもらいます」
「はは、わかったよ」
本当にこちらには来たばかりだから地味にわくわくしている自分がいた。
あと、駄菓子屋さんのガムと言えばすぐに味がなくなるアレだけど、それもまた小さい頃を思い出せていいのだ。
「ほい」
「ありがとうございます」
すぐになくなる物でも帰ってゆっくり味わいたいからポケットの中へ。
チョコなどの溶ける物というわけでもないしね、すぐに食べ終えてしまったらもったいない。
「ん? 食べないのか?」
「流石に歩きながら食べるのはあれですからね」
「いちいち気にするなよ、それならここで食べ終わればいい」
ぐ、この人が買ってくれた物だから言うことを聞いておく必要があるか……?
「そ、それなら食べますっ」
「お、おう、別に無理しなくてもいいけどな」
「どっちなんですか……」
それでも結局は欲に負けて食べた、ずっと変わらない味で落ち着けた。
「駄菓子屋って言ったらやっぱりこれだろ」
「昔、お金がなくていつもガムとかしか買えませんでした」
あの一番仲良かった子は豪遊していた、いつでも我慢なんてしなくて済んでいた。
だけどそれはちゃんと使うところで使っているだけで私みたいに欲しくなったらすぐに買うということをしていなかったからだ。
「そのガムを買う金を貯めれば買えるだろ? あっちもそっちもと求めちゃいけねえ」
「……なんか久崎先輩に言われると複雑です」
「なんでだよ」
「でも、久崎先輩の言っている通りだからこそですよ、なにも言い返せなくなるんです」
「別に黙らせたいわけじゃないけどな」
まあ、黙らせようとされていても困るからその方が助かる。
「なあ、ひとみって面白い女子だよな」
「面白いというか顔が怖いです」
「いや、あれは無理やり抑え込んでいるだけなんだ、実は裏ではにこにこにこにこ、やばいんだぜ?」
家などの落ち着く場所でぐでーんとなっているところなら想像できるけどにこにこ笑みを浮かべているところは難しい。
それに本なんかを読んで楽しくなればどんなにお堅い人間だろうとずっと同じままは無理だ、もし仮にいたら謝るしかない。
「それって久崎先輩にだけ見せる一面なんじゃ?」
「違う、まあ、流石に家では変わるってことだ」
「そうですか、ならいつかは見てみたいです」
自己紹介をしてそのままで終わるという可能性は普通にある、でも、このままなかったことにするのは寂しいから仲良くなれたらという考えが出てきていた。
先輩の言う通り、ちょろいのかもしれない。
「ふーん」
「な、なんですか?」
「なんでもない、よし、食べたから帰るか」
前と違ってそんなに離れていないから急ぐ必要はないけど同行者が帰りたがっているのなら仕方がない。
お友達と初めてのお出かけはこうして平和のまま終わったのだった。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
「うむ、出迎えご苦労」
悪くないね、結婚すればこうして旦那さんが迎えに来てくれる……のかなあ?
私の場合は相手に頑張ってもらうよりも自分が頑張って嬉しそうにしているところが見たいから出迎える側とはならない……はずだ。
甘いところがあるから任せてしまう可能性もゼロではないのが、うん。
「なにを言っているの?」
「はは、ただいまっ」
「さっき奇麗な女の子が来たわよ?」
「そうなんだ? なら明日、話してくるね」
教室がばれているなら家がばれていてもなにも違和感はない。
先輩でもそうでなくてもどちらでもよかった、先輩なら明日動いたときに答えが出るというだけだ。
とはいえ、朝に弱いところは変わらないから早めに寝ることで対策をする、弱っているときに先輩ならともかく久崎先輩が来てしまったら負けてしまうかもしれないから駄目なのだ。
「すぴー」
「ご飯よ」
「それなら食べなきゃなあっ」
「うるさい、静かにして」
味わって食べて、お風呂にゆっくりつかってからお部屋に戻ってきた。
寝ることも好きだからベッドに寝転んでしまえばあっという間に寝られる――からこそ頑張って体を起こして友にメッセージを送る。
大体はその日に反応してもらえずに翌日の放課後ぐらいになるけど、返事がくるだけで笑顔になってしまうものだ。
一応二十二時まで耐えたものの、今日はこなかったから諦めて寝転ぶ、目を閉じて次に開けたときには朝だった。
「眠たすぎる……」
「いってらっしゃい、あ、お母さんは今日遅くなるからそのつもりでよろしくね」
「ん? んん?」
「ただお友達と会ってくるだけよ」
「わかった」
怪しい、急にお友達と遊ぶなんて言い出す人ではないけどな。
でも、いまので眠気が吹き飛んでくれたからその点はよかった、これでお昼に近い私の状態で先輩達の相手ができる。
ただ、そういう日に限って来ないのが人生というものなのだ、かわりによく寝られたけどね。
「いただきまー――」
「為末ー」
「ね、狙ってきてもあげませんよ?」
「は? 別に狙っていないけど」
ふぅ、あくまで正面から来てくれてよかったし、大声で声をかけてこなくてよかった。
久崎先輩といることでいちいち驚かないようになればいいという狙いがあった、あと、こうして来てくれたことにもう安心している自分がいるからちょろいところからは意識を逸らしたかった。
「それよりお前、なんで来ないんだよ?」
「え、もしかして待っていたとか……?」
「当たり前だろ、俺らにばかり移動させようとするなよ」
えぇ、先輩が後輩の教室にいくのと逆では全く違うでしょうに……。
そうでなくてもこちらに来たばかりで緊張している可哀想な一年生に優しくしようとは思わないのか……? 思わないからこうしてぶつけてしまえるのか……。
「わかりました、次の休み時間にいきます」
「おう、ひとみだって待っているからちゃんと来い」
「……で、戻らないんですか?」
「それとこれとは別だろ、あとな、自慢じゃないけど今日だってひとみから逃げてきているんだよ」
得意気な顔で言ってくれるな。
とにかく先輩に協力をしてこの人を捕まえようと決めたのだった。
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