第22話 工房に来たのは
「はい!? 淋しくないのか、って聞かれてもアラン様とはそんなに会話をしてないからなんとも」
「ふーん。アラン様ってものすっごくモテるんだよね。婚約者がいるって噂が流れてもみんな諦めないみたい」
「あ、それ聞いたことある! カレナの悪い噂流して落とそうとしているとか」
「女って怖いわよね」
「どんな噂よ」
「んー、魔石のこととなると見境なくて、魔獣相手に高笑いしながら向かって行って、誰彼構わず
「ひどくない?」
私でもそんな行動は。……いや、少し怪しい気がするな。少し自重した方がいいのかもしれない。
「あくまで噂。実際のカレナはまあ、その魔石に情熱を注いでいるだけだし、ね?」
エリナーの淹れる紅茶を飲みながらシルビアがクッキーを手に言う。女性陣の興味が恋バナというのは学園でもここでも変わらないらしい。
いつもは学生たちの話が耳に入ってくるだけで当事者ではないから聞き流していたけれど、当事者として聞くことになるとは思わなかった。
「でもアラン様がご自分でお選びになったのですからどんなに周りが言ってもカレナが婚約者と言う事実には変わりないでしょう」
「エリナーの言う通りよ」
「あ、そうだ! この前採寸したドレスが明日届くってトムさん言ってた」
「ドレス?」
「ウォード家に来て最初の日に採寸したでしょ。ほんと魔石のこと以外興味ないんだから」
サリーの呆れた声を聞きながら初日採寸したことを思い出した。
ドレスなんて着たことない私は不安だらけだ。動きにくいのは嫌だなと思いながらクッキーを口に放り込んだ。
休憩時間も終わりエリナーたちは業務に戻り私たちは再び魔石、魔鉱物の研究を再開した。
コリンから貰ったミント色の魔石を少し割って欠片を砕いて特殊な液に溶かしていると扉をノックする音が聞こえた。
「はーい。どうぞー」
てっきりエリナーかトムさんかと思っていた私は溶かした魔石を小瓶に入れてラベルを書いていた。
サリーが手を止めて固まっているのを不思議に思って顔を上げた。彼女の視線を辿って振り向いた私も一時停止する。
入ってきたのはアランと彼の従者であるエリオット。なにか急用でもあるのだろうか。
「アラン様にエリオット様。なにかご用でしょうか」
「いや。少し時間が出来たから君の工房に寄ってみただけだ。邪魔だったか?」
「いえいえ! とんでもないです。どうぞご自由にご見学ください!」
アランたちを中へ案内しようとした矢先、サリーが先に立ち上がった。
「あー、お茶。そうだ! お茶を用意してきますね。あの、エリオット様もお手伝いをお願いしてもいいでしょうか?」
「もちろん構いません。アラン様、少し席を外させていただきます。……ごゆっくり」
意味深に微笑むエリオットはサリーと共に出て行ってしまった。工房にアランと二人きりになる。あの夜以来だな、と思うと急に意識してしまう。
いや、その前にアランを立たせたままにするわけにはいかない。
かといって工房に客間のような豪華な椅子やソファがあるはずもなく私はうーん、と腕を組みながら唸り声を上げた。
「君の邪魔はしないからそこに座っても構わないか?」
「え? あ、ああ。はい、どうぞ」
彼が指したのは私が作業していた机の反対側の椅子。アランはそこに座ると手にしていた資料を読み始めた。
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