第8話  アフェレーシス

 アリスの言質を取った私はガッツポーズをして早速石を箱から取り出した。


 隣で呆れた視線を寄越してきたサリーは無視して作業を進める。


「痛みはないけど、少し違和感はあるかもしれないからサリーと話しでもしてて」


「相変わらずの無茶ぶりよね。ってもう集中してこっちの話なんて聞いてないし。ほんとこの子ったら魔石が絡むと見境ないんだから。アリスはここの学生でしょ。何年生?」


「二年生で、す。っ、」


 サリーとアリスが会話をしている間に石を鎖骨に当てるとアリスは冷たさに身体をびくつかせた。


 構わず私はアリスの身体から溢れる魔力の端を見つけて告げた。


「アフェレーシス」


 言葉に反応した石が魔力を吸い上げる。


 石には余分な魔力が吸収されていくためアリス自身にはなんの影響もない。


 例えるなら採血で血液を抜かれる感覚に似ている。


 この技法を使えるのは師匠と私くらいで非効率なのは理解しているが、使える人がいないのだから仕方ない。


 師匠はもう少し効率の良いやり方を研究するとか言って今も研究を続けている。


 アリスの魔力を吸い上げていくうちに石に変化が現れる。


 無色透明だった石は魔力に応じて色を変えるのだが、アリスから吸上げた魔力で出来た魔石は珍しい鮮やかなレモンイエロー色。


 リビアングラスに似た石は光の角度により輝きが異なる。


 濁りがなく、透明度が高いほど高濃度の魔力の証となる。私は観察したい欲を抑えて次の石に手を伸ばして残りの二か所へアフェレーシスを開始した。


「終わったよ」


 二個目からはアリスも慣れたのか緊張を解いてサリーと談笑していた。


 治療終了と聞いてサリーに促されるようにアリスは身体を起こすと不思議そうに自分の身体に触れた。


 先ほどまで苦しかったのが嘘のようだと驚いている。


 この反応は彼女だけではなく、過去に治療した魔力持ちウェネーフィカたち全員同じだったので私たちも慣れていた。


「もう服着ていいよ。治療のためだからって無理やりボタンを外してごめんね」


 制服のボタンが全て外されて前が全開になっていることにアリスが小さな悲鳴を上げて慌てて前を隠した。


「大丈夫だよ。人払いは終わってるし、ここには私たち女しかいないんだから気にすることないよ」


「そ、そう言う問題ではないです!」


「はいはい。アリス、私たちはあっち向いているから制服着ちゃって。カレナってば魔石に関すること以外はほんとダメで、ごめんね」


 謝罪しながらサリーは私の肩を掴むと強制的に後ろを向かせる。


 私の興味はすでに魔石へと注がれているためそんなことしなくてもいいのにと肩を竦める。


 アリスが服を着直しているのを聞きながら私は手にしていた魔石を眺めていた。


 鮮やかなレモンイエロー色。この色は非常に珍しい。


 光属性を象徴する色がこの色であり、魔力持ちウェネーフィカたちの中でも光属性はほんの一握りしか存在しないはずだ。


 彼女はたしか侯爵家の令嬢だったか。それなら魔力の高さにも納得がいく。


「すみません。着替え終わりました」


 振り向くとアリスはベッドに座ってこちらを見ていた。


 私はアリスへと近づいてすぐさま彼女の手を握った。

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