魔石の研究一筋の私ですが、突然冷酷と噂の侯爵と婚約することになりました~婚約後も変わらず魔石の研究を続け、魔石欲しさに領民を助けていたらなぜか溺愛されました~
秋月昊
第1話 婚約が決まったそうです
人生何があるか分からない。
眼鏡越しに視線を扉側に向けると学友のサリー・ルイスが扉を開けたまま灰色の瞳を大きく見開いている。
状況を呑み込めていない彼女が首を傾けると肩まであるダークブラウンの髪が同じ方向へとさらりと流れる。
私も同様だ。
今度は私のすぐ傍まで進んで来た男性を見上げた。
ホワイトブロンドの短髪、ヘーゼル色の瞳を持つ端正な顔立ちの男性は一目で上質のものと分かる白を基調とした金色の刺繍入りのジャケットを着こなしている。
言うまでもなく目の前の彼は貴族だ。
けれど、ここは研究学園都市クモーであり、学園リメリパテ内の魔石・魔鉱物専門の研究室。
貴族が来るような、それも正装してまで来る場所ではない。
ホワイトブロンドの髪とヘーゼル色の瞳と言えば
いや、ホワイトブロンドの髪とヘーゼル色の瞳はかなり上位で、高魔力持ちいわゆる貴族たちしか持たない色だ。
もちろん、そんな彼らと知り合いのはずがない。
いや、一人だけいたが血縁ではないだろう。
あの子はこんな威圧的ではない。
サリーの友人とも違うようだ。
「君がカレナ・ブラックウェルか?」
「は、はい。そうです。あの、その前にこれをいったん置いてもいいですか?」
「ああ。構わない」
私はとりあえずビーカーを置くべくとっ散らかっている研究資料を雑に寄せて敷いた布の上に置いた。
彼の目当ては私か。
彼が訪ねてくる理由はまったく思い至らないが、最近やらかしたことなら何度か思い至る節はある。
研究材料として近くのテリブの森に無断で頻繁に入り暴走状態の魔獣から魔石を調達したり、学園内で魔力暴走を起こしそうな生徒を見つけては治療するついでに副産物として得られる魔石を貰う契約を取り付けたことは今に始まったことではない。
とうとうお咎めを受ける時が来たのだろうか。
私は怒られることを覚悟して深呼吸すると貴族の男性へと振り向いた。
「お待たせいたしました。見たところ貴族様のようですが、そのような身分の方がこの研究室へ何の御用でしょうか。魔獣の討伐の件、治療のついでに魔石を貰う契約をこぎつけた件での罰でしょうか。それとも私たちの研究成果が目的ですか? 言っておきますが、研究成果はいかなる場合でも軍事利用はお断りしておりますのでご留意ください」
最近魔石を軍事利用しようとする動きが活発化している。
研究室にも何度かアンスロポス側の軍人が訪れているが私たちは追い返していた。
私たちの研究は誰かを傷つけるためにしているのではない。
だから彼も軍人たちと同じ考えなら即刻追い返す気でいる。
私は毅然とした態度で相手を見上げて返答を待った。
「君の行動の数々は妹から聞いている。咎めるつもりも、魔石の研究成果を軍事利用するために来たのでもない。申し遅れたが、私はアラン・ウォード。カレナ・ブラックウェル。君は本日付で私との婚約が決まった」
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