第57話 初集合
紗奈が、あおいには悠の事を紹介したい。と言ったので、その日の昼休みは、給食を食べ終えた後に悠と菖蒲が内緒話をするのに使っていた、あの校舎裏に四人が集まった。
座る場所がないので、校舎の外壁にもたれかかって四人で話をする。人数が多いので、前に悠が座っていた柱のヘリに座ることは、今回は流石に遠慮するしかない。
「えっと……。初めまして?」
「うん。話すのは初めましてだね。一年生の頃同じクラスだったんだけど、覚えてる?」
「あ、うん。立花さんだよな」
「そうだよー。紗奈ちゃんから悠くん悠くんって、たくさんあなたのお話を聞いてたから、私には隠さなくてもいいよ」
「ごめんね。悠くん……」
「いや。別に……」
目立ったり、人からぐいぐい来られるのは苦手だが、あおいのように物静かな子ならそんな心配もない。
何より、紗奈の友達なら大丈夫だろう。と思っている。
「ねえ、嫌なら無理にとは言わないんだけど……。紗奈ちゃんがすっごくかっこいいって言うから、見てみたいなあって」
「え…? んー……。こう?」
パッと軽く髪を上げると、あおいは「わあ」と感嘆の息を漏らした。
「確かにイケメンさんだねえ」
「どうも」
手を下ろせば、自然と髪も落ちる。
「見えづらくない?」
「慣れれば全然……」
「眼鏡はどうしたの?」
今日は眼鏡をかけていない。悠が前髪を上げた時に、初めてそのことに気がついた。
「どうせ伊達だし。あってもなくても前髪が長いおかげで見えないから、いいかなって」
「へえ」
「それに、たまに邪魔だったし」
悠は小さく笑ってそう言った。
「ねえ、悠くん」
「ん?」
「実はね、今日は紹介だけじゃなくて、みんなでお勉強したいなってお誘いなの」
紗奈はツインテールを揺らすように、こてんと強請るように、可愛らしく小首を傾げる。あざとく見せようとしているのではなく、天然ものなのが恐ろしい。
悠の前だと、自然と甘えた感じになってしまうのだ。
(白鳥くんが甘いって言うわけだわ)
あおいは心の中でそう思った。彼女は元々顔に出にくいので、思っている事が見透かされることはなかった。
「勉強……?」
「そう」
「俺ら、全員谷塚受ける予定だからさ」
その事実に、悠は驚いた。初めて聞いた話だった。
「そうなの? 立花さんも?」
「うん」
「へえ。もっと上位レベルの高校に行くのかと思った」
「谷塚も結構上でしょ?」
「ほら、
「来明はお金持ちばっかりじゃない」
「
本宮と言うのは、日本一と言われるくらいのお金持ちの名家である。その来明学園自体が本宮家の設立した学園であり、日本で一、二を争うくらい偏差値が高い学園でもある。
そんな名門校に入れるくらい、あおいは勉強が出来る。と、同じ学年の者なら誰もが知っている。毎回一位を取るのだから、そう考えるのは自然な事だろう。
「そっか。学年首位がいれば、勉強も楽になるかもな」
「分からないところは教えてあげるよー」
「せっかくならみんなで一緒に受かりたいもんな!」
「うん! 頑張ろうね!」
と意気込んでいる紗奈を他所に、菖蒲がコソッとあおいに耳打ちをした。
「音久は草野らしいよ?」
「あら。そうなの?」
正式名称は
「本人に聞いた」
目の前で繰り広げられた内緒話に、悠は首を傾げている。それに気がついたあおいが、特に隠してもいないので、サラッと音久を好きであると言う事実を暴露する。
「ああ。音楽家のとこの」
「知ってる?」
「まあ、親同士が何度か……」
音久の母親の作曲に、悠の父親が詩をつけたことがある。系統は違うが作曲家同士でもあるので、何度か会談をしたり、共同制作をしていたことがあるのだ。
その影響で、悠も何度か音久の親とは面識がある。
「うちの父親、レコーディング以外だと割とフラフラしてるから、彼のヴァイオリンを聞きに行ったこともあるって言ってたよ」
音久と悠が同級生だから、父から悠に報告がいったのだと言う。
「もしかして、お父様って元俳優の将司さん?」
「あ、うん。それも話してるのかと思ってた」
紗奈が菖蒲には色々と話しているようだったので、もしかしたらあおいに対してもそうなのかもしれない。と勝手に思っていた。
しかし、それは違ったようだ。悠が目立ちたがらないから遠慮してくれたのかもしれない。
「初耳だったよ。予想はついてたけど」
「そっか。坂井くんは誘わないの?」
学力は同じくらいだし……。と悠が提案してみると、菖蒲が「聞いてみようか?」と聞く。
「いいのかしら?」
「彼次第じゃないかな。俺は坂井くんとは一度しか話したことがないけど、面識はあるし」
幼い頃に、一度だけ家に坂井一家全員を招待をした事がある。その時が初対面だ。その日以来、悠と音久は全く会話もしていない。
「まあ、ダメ元で聞いてみっか!」
菖蒲はそう言って、スマホを操作した。
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