おじいちゃん、初コラボ配信 後編
「待たんか北村! どこへ行く!
「ぬぉおおおおおっ!」
メタルリザードに挑みかかったビースト北村。弱点である逆鱗の隙間を外してしまい、背中にしがみつきながら連れ去られてしもうた。
暴れ牛の背中にまたがるロデオが如く、上下左右に振り回される大男の姿を見て、何が起きておるのか理解するまでに要した時間は三十秒ほど。
気づけば、ずいぶんと遠くの方で揺さぶられておった……。
"ちょwww"
"ワニハンターみたいだなw"
"どうすんのあれw"
"北村……いい奴だった……"
"勝手に殺すなよwww"
「楽しそうですねぇ」
「……どうしましょう?」
「困った奴じゃのぉ。どれ、助けてやるか!」
どこまで行きおったんじゃ。
「……ぉおお」
野獣のような雄叫びが近づいてくる。
「うぉおおおおおお!」
無事でなによりじゃな。怒り狂ったメタルリザードから必死に逃げる北村がおった。
眠った状態であれば簡単に倒せるメタルリザードじゃが、目覚めてしまえば硬く素早い厄介なモンスターと化す。
これを筋肉馬鹿に
「北村! ワシの後ろにつけ!」
「は、はいっ!」
ビーストと入れ替わるようにしてトカゲの前に立ち
ここは通さんと、強い意志を込めて
「シュルルルッ!」
ガス
ワニでさえ時速五十キロは出るらしいからのぉ。それよりも速いこのモンスターが、足を止めてくれなければどうしようかと思ったわい。
野生動物に似て、逃げる者には強気じゃが、向かってくる相手には警戒心を強める習性があるからな。成功するじゃろうとは思っとったが。
「北村よ、メタルリザード相手に大振りは要らんぞ。剣の先を差し込むだけじゃからな」
「次からは気をつけます!」
腹を地面に
ほれ、早く食い付け。
わざわざ
……来おった!
首を右に
攻撃の動作に入った相手はもう止まらん。首の動きに合わせて右足を引き、代わりに
緑色の口内に剣先を突き入れ、右
「タッチ交代じゃ北村! 首を踏んづけてやれ! あとは分かるな?」
「タッ……やれます! よくも連れ回してくれたな!」
怨みを晴らすように足裏で頭の付け根を押さえつけた北村は、メタルリザードの体表にロングソードの先端を滑らせる。
自信を感じられる動きじゃ。逆鱗の真下にある心臓を潰しおったな。もう安心じゃろう。
「うむ、よくやったぞ!」
「っしゃああああっ! ゴーフレイム! 拳じゃ絶対倒せなかったのに……。いや、おじいさんのおかげか! それにしても……」
「頑張りましたよ? あなたは体が大きいんだから、どんと構えておけばいいんです」
「うん! ビースト北村さん、あのメタルリザードを倒したんだから、自信持って!」
"なんかパーティっぽいなw"
"あの状態だから、倒すのに二時間はかかると思ったわ"
"普通にジジイがすげえよ。無力化してたもん"
"あんな低い位置のアゴをピンポイントで外すとか……。どんな技術なんて話よwww"
"北村を守るように立ちはだかったとき、全身ぞわぞわ鳥肌まみれになったわw"
"私もwww"
若いの二人が中層では問題なく戦えるようになったので、ダンジョンを駆け抜け下層へとやってきた。
たしか北村は、ミノタウロスに困っておると言っておったか。あれに関しては、攻略法と呼べるようなものがないんじゃよなぁ。
先にブラックワイバーンを倒しておけば、その他のモンスターは怖がって近づいて来ないからのぉ。
「ばあさんや、ミノタウロスの倒し方なんぞあったかのぉ? ワシゃ殺られなければええとしか覚えとらん。北村に教えてやりたいんじゃが」
「避けて斬るを繰り返すだけですからねぇ……。皮膚も肉も腱も硬いので、なまくらでは大変でしょうけど」
ミノタウロスは、四メートルを超える人型の牛じゃ。オーガよりも筋肉が
黒い短毛で覆われた皮膚は分厚く硬いし、その内側にぎっしりと詰まった太い筋繊維なんぞまるで鋼鉄製のワイヤーじゃからな。
「あっ! ミノタウロスがいますよ! ……どうしましょう?」
「あたしはソロって初めてなので、今の自分が下層でも通用するのか不安ではありますね……」
最初の部屋に到着じゃ。
ワイバーンを呼び寄せてやってもよいが、北村とエリカに教えられるのは今日くらいじゃしな。ワシらがいなくとも戦えるようにしてやりたい。
とくにエリカは、普段パーテーを組んでおるからのぉ。一人で下層まで潜れる実力をつけてやれば、深層でも活躍できると思うんじゃが。
北村の問題点は心の弱さだけじゃったから、自信をつけた今ならば心配は要らん。いざとなればスキルを使うじゃろうし、元々の体の強さがある。
「ワシがミノタウロスを倒すから、ブラックワイバーンが来たらばあさんにお願いしようかのぉ。一人で対処してもええんじゃが、仲間のおるエリカがどちらを見たいかじゃな」
「なるほど。では、最初の案でお願いします。あたしにはそっちの方が勉強になりそうです」
"まじかぁ……。じいさんがソロで対処すんの見たかったぜ"
"だよなw ここまできたら、暴れ納豆の強さは疑わないけどさ。二体を相手にするって信じらんねえよ"
"そこは後で説明してくれんじゃね? 北村がいるし"
"魔法使い無しでミノタウロスなんか倒せんの?w"
"ゲンジは大魔導士だけどなwww"
オーガのように血管を狙えれば楽なんじゃがな。上半身であれば、首筋と上腕の内側、それと手首。下半身であれば
しかし、ミノタウロスの前腕は金属の手甲で守られとるからのぉ。おまけに、腰に巻かれた毛皮は生半可な斬撃では貫けん。見上げるほど高い位置にある上半身にも攻撃は届かんし。
……では、どうするか?
単純な話じゃ。届く距離まで持ってくればよい。
「ミノタウロスの武器は、両刃の斧じゃ。あれを受け止めれば、ワシなど軽く吹き飛ばされてしまう。踏みつけも強力じゃから、オークのように足元が安全とはいかん。正面と真後ろには留まらず、真横から攻める。距離を取りつつじゃがな。どれ、行ってくるぞばあさん!」
「はいはい、お気をつけて」
まずは岩陰に潜むモンスターの有無を確認する。下層からは、これをせんと危険じゃからな。死角から近づけるメリットもあるしのぉ。
本来であれば無音歩法を使うのじゃが、今回は北村の見本とならねばならん。音を出しながらミノタウロスの背後を取る。
狙うは右膝の裏。油圧ショベルのシリンダーが如き靭帯を避け、体重をこれでもかと乗せた突きを放つ。
真紅の剣先が皮膚を裂き、筋肉を断ち切りながら膝関節の隙間まで入り込む。
このまま破壊してやりたいところじゃが、そう簡単にはいかん。すぐに下がって距離を取る。
「ブモォオオオオオオ!」
けたたましい
このモンスターと戦うにあたり、唯一気をつけねばならんのが反撃じゃ。常に動き回りながら敵を
無防備な左膝に剣を叩きつけ、嫌がるように繰り出された右足の踏みつけを
ここでは追撃をしてはならん。
「焦りは禁物じゃぞ! 攻撃は斧の後じゃ!」
飛び退いてやれば、ワシが今居た場所を狙って斧が振り抜かれる。今度は軸となった右膝に突きを食らわす。
「……ァ"ァア」
やはり来おったか。
ブラックワイバーンじゃ。
「ばあさん、出番じゃ! ワシの方はしばらくかかるから、ばあさんを映してやってくれんか!」
「うん、おばあちゃんを追尾する設定に変えたよ!」
「やっと活躍できますね。エリカさん、見逃したらいけませんよ?」
「はいっ!」
巨大なトカゲが漆黒の翼を広げて迫ってくる。
ばあさんが立ちはだかり、ハルバードを構えて腰を落とす。ワシはミノタウロスの影に隠れながら、相手を続けてやればよい。
「ア"ア"ァ"ァァァァァ!」
ブラックワイバーンが空中で大きく羽ばたくと、ばあさん目がけて下降を始めた。
噛みつこうと牙を見せたそのとき、ばあさんの体が小さく沈む。
「今です!」
ハルバードの穂先を口の中に突き入れ、柄を起点に体を回す。肩で長柄を押し込みながら、上半身を丸めて背負い投げじゃ。
「マナティや、ワシの方にカメラを戻しておくれ。こっちもそろそろじゃ!」
「はーい!」
ミノタウロスの膝が震えておる。いつ倒れてもおかしくない状況じゃ。
回り込んで突く。避けて斬る。これを愚直に繰り返す。そうすれば、膝から崩れ落ちてくれる。
土下座をするように
「これで終わりじゃ!」
最後は、腕の動きに注意しながら頸動脈を断ち切ってやればよい。
"作業じゃん!w"
"こんなあっさり……"
"なるほど、膝を潰して失血死させるわけか"
"ばあさんもすげえし、じいさんもつええよw"
"今日はこれで終わり?"
北村にミノタウロスを倒させてやりたいが、その後はどうしようかのぉ。
ワシの全てを見せてやるにはやはり……。
「今日は深層まで行くぞい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます