帝国少女
@amane_0106
第1話
夜ノ匂イ…車ノ音…街ノ灯リ…人々ノ聲…信号ノ点滅…発車ノ合図…
参、弐、壱、始。
気がつくと、そこにいた。
あなたがヘラりと笑っていた。
私はあなたの言葉に胸を引き千切られた・・・
記憶に残っているのは、それだけだった。
彷徨って行き着いた路地裏の闇夜に私は一人佇んでいた。
金色をしたイヤリングを左の耳にぶら下げて…香水を纏って…様々な色の光を両手の爪に散りばめて…
あなたに会うためだけに、精一杯のおしゃれをして。
なのにあなたは私の心を砕くようなことを吐いた。
とぼとぼと朽ちゆく身体と心を連れ一人当て無く闇夜をふらふら漂っていく私は、
滅びゆく都市をじりじり這い回る、私はゾンビ。
だけど、どんなにどんなに夜に堕ちていようとも明日の光が世界を染めていく。
いつの間にか自分の住処に戻り、赤色の陽光を浴びて蘇る私は帝国少女。
「×××、可愛いよ」
「×××は素直でいい子だね」
「×××は___」
あなたがそうやって言ってくれて、舞い上がっていたことすら今となっては愚かさに頭を抱えたくなる。
もう、あなたが好きだと何回も言ってくれた自分の名前すら疎ましい。
仄かに虹色が混じる金色の優美なリングを薬の指に光らせて…私のような惨めな女を嘲笑うような優越感の入り混じった綺麗な服に袖を通して…美しい色のアイシャドウで両目の淵を彩っている…
私とは何もかもが違う見目麗しく着飾ったあの本命の女の人と、私の大切を奪ったあの部屋であなたが夢を見るなら…そんなことを想像してしまうなら、もう・・・
途方もなく迷い歩きながら独りごちる。
私の身体と心を傷付けた罪を償いなさいよ。
「私に謝りなさいよ」
衝動的感情に流されて行き着く先はクライクライ夜。
「あなたのせいで」
あんなにあんなに縛られたのは。
「私はこんなに壊れてしまった」
あなたに愛して欲しかっただけ。
「それだけだったのに、なぜ私だけを見てくれなかったの」
夜の街を徘徊し、投げやりに情を交わして傷ついていき、泣き濡れる私は啼哭少女。
遣る瀬無い、浮かぬ日々を揺れる摩天楼の合間を縫うように歩き、ビルにまみえる夜空の星に願いを込める、こんな夜に・・・
とぼとぼと朽ちゆく身体と心を連れ一人当て無く闇夜をふらふら漂っていく私は、
滅びゆく都市をじりじり這い回る私はゾンビ。
だけど、どんなにどんなに夜に堕ちていようとも明日の光が世界を染めていく。
嗚呼…もう…未来ナドドウデモイイノヨ
こんなにこんなに愛した場所・・・。
何度も何度も歩いた道・・・。
光る粒を目の端から溢れさせながら黄昏る街を駆け抜ける私はゾンビ。
私はあなたに身が果てるほどの愛を捧げたのに、あなたは私を騙したわ。
今更嫌いになんて、なれるわけがないのに。
優しくとも猛毒性の嘘で気持ちよくしてくれるくらいなら、最初から真実を言ってくれたほうがまだ楽だったかもしれない。
私の身体と心の傷も、あなたの笑顔も声も全部、ぜんぶ。
ココニ置イテ逝クワ、帝国少女。
六本木ヒルズの一枚の絵のような夜景を前に、体を宙にのめり込ませる。
「わたしをあいしてほしかった」
夜ノ匂イ…車ノ音…街ノ灯リ…人々ノ聲…信号ノ点滅…発車ノ合図…アナタノ香リ…アナタノ聲…アナタノ手…好キナ色…好キナ音…好キナ匂イ…好キナ言葉…好キナ人…別レノ合図…
参、弐、壱、終。
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