第151話 エピローグ

 ニコラスの傷は完全に塞がり、心臓の鼓動が聞こえる。

 毒も抜け、顔色は健康そのものだった。


「殿下! 生き返った。やった。謎の声! ありがとう!」


『ふははは、どういたしましてかな。だがルーシーよ、我もまた魔力枯渇よ。我は寝る。再び起きたころには子供でもいるとよいな。

 ……それと、くれぐれもベアトリクスには秘密だぞ? ではな……』


 偉そうに言ったルシウスであるが、リザレクションを使用したことによる消耗は大きく、再び言葉を発するまで回復するには数年を要するだろう。


 その後、ルーシー達は全員無事に救出された。


 ソフィアとセシリアは魔力枯渇の状態であるが命に別状はない。


 アベルとゴードンは駆けつけたセバスティアーナによってぎりぎりのところで助けられた。


 片腕を失うほどの大けがをしていたが、ルカが早期に治癒魔法を施したため彼等もまた五体満足であった。


 こうして闇の執行官ヘイズによる襲撃事件は無事に解決した。


 捕まった他の闇の執行官達はヘイズが死んだのか、次々と自白を始めた。


 なぜ彼らが今回の事件を起こしたのか、その動機はこうだ。


 そもそも闇の執行官たちは、エフタル王直属の暗殺集団であった。


 仕事で人を殺すが全員が快楽殺人者ではない。

 中には殺したくなくても殺さなければならない仕事もあった。

 だが、例え親兄弟であろうとも王の命令は絶対である。


 故に、彼らが死者を蘇らせる魔法に執着するのは当然の帰結であった。



 ちなみに、事件後にルーシーの秘密を知るのはごく一部の人間のみである。


 それに彼女の人となりを知っている者たちばかりなので特に監視をされることもない。


 街は、幸いにも死者を出さなかったため、人々は復興に向けて前向きであり、半年も立つと事件の記憶は人々から完全に消え去っていった。



 二度目の夏休み。


「じゃあね、ソフィアさんにセシリアさん、二学期に会いましょう」


「ええ、今年は別々に夏休みを過ごすことになりますわね。私も久しぶりに実家に帰らないと、さすがに使用人達に怒られてしまいますわ」


「私も父上母上と一緒にモガミの里へ行く予定、初めて行くから少し緊張」


 ソフィアとセシリア、そしてルーシーは少しの別れが惜しいのか、ややぎこちない。


 だがそんな空気を読まずにイレーナはニコニコ顔で言う。


「うふふ、私は久しぶりにグプタよ。二年ぶりのバカンスよー、新しく水着を買わなくっちゃー」


「イレーナ、何言ってるっすか。殿下の護衛任務があるから特別に許されたんじゃないっすか、遊びじゃないんっすよ」


「えー、パパったら頭硬いわー。なら殿下も一緒にバカンスを楽しめばいいのよ、グプタは平和なんだし」


「まあ、それもそうっすね。では行くとしましょうか。

 ……おや? 殿下、今から緊張してたらグプタまで持ちませんぜ。大丈夫っす、お嬢のご両親っすよ。挨拶するだけじゃないっすか」


「もう、パパは甘いんだから。クロードさんは怖いわよー? でも殿下、ご安心を、クリスティーナ様に気に入られれば全く問題ないわ。フォローしますから頑張りましょう」


「あ、ああ。そうだな。そう、堂々と。……俺はこれでも皇子だ。そう、堂々としないと、堂々と……」


「むー、殿下。さっきから全然堂々としてない。このままだとお父様が何をしだすか心配だ。ほら、しゃきっとしないと、男の子でしょ!」


 ポンと背中を叩くルーシーに、思わずせき込むニコラス。


「うふふ、相変わらずですわね。まるで姉弟みたい、本当にお二人はお付き合いしてるのかしら……」


「それ、私もたまに心配になる。でもこれはこれで健全な関係でいい。それにデレデレのルーシーさんを想像すると……少し気持ち悪い」


「……ぐぬぬ、セシリアさんは相変わらず辛辣だ」



 ◇◇◇


 東グプタ。

 ルーシーの実家にて。


「この馬鹿レオ! ニコラス殿下に決闘を申し込むとは、不敬罪で死にたいのか!   

おのれー、姉に恥をかかすなよー!」


「だ、だって姉ちゃん。父上に義兄殿の真価を確かめろっていわれたから……」


「ぐぬぬー。お父様、それならば先に私に言ってくれればいいのにー、レオ! お父様はどこ!」


 …………。


 ドタバタと大きな足音を立てながら父の書斎へ飛び込む。


「お父様!」


「あ、ああ。ルー、今日も可愛いね。お前は父さんの自慢の娘だよ……」


「そんな事はどうでもいいです! それよりお父様、殿下とは直接対話してくださると思っていたのに。レオを使うなんて男として恥ずかしくないのですか?」


 何も言い返せないクロード。

 彼は娘に怒られるのが嫌でレオンハルトにやらせたが結果は同じであった。


 そう、彼は騎士であり策士ではないのだ。


「あらあら、でもねルーシー。クロードはルーシーの事を思っての行動だから理解しなくちゃ。

 でも、たしかに今回の行動はちょっと恥ずかしいし、皇子様に対して無礼だったわね。

 ねー、まったく恥ずかしいお父様にうるさいお姉ちゃんよねー」


 クリスティーナは赤子をあやしながら二人の喧嘩の仲裁をする。

 もっとも一方的にルーシーが怒鳴っているだけだが。


「……ああ、クリスの言うとおりだな。その、ルー、すまなかった。

 ……分かったよ、ニコラスとやらには、さしで話し合ってみるよ」


「ちょっとお父様、待ってください。話し合いになんで魔剣が必要なんですか!」



 -----おしまい-----


 あとがき。


 最後までお読みいただきありがとうございました。


 一応の大事な伏線は全て回収できたのでこれでルーシーの物語は完結とします。


 この先のお話はもしかしたら外伝として出すかもしれないし主人公を変更して新連載をするかもしれません。

 ですが今のところは未定ということで。


 次はまったく別の短編でも書こうと準備中です。


 それではまた。

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