第131話 男とは……

「ふう、揃い踏みってところかしら。ダンスの練習には男性が必要不可欠ですわ。最初からそうするべきでしたわ」


 ニコラスの従者であるアベル、ゴードンもダンスの練習に参加させられていた。ソフィアの差配だ。


「で、殿下。これはどういう事でしょうか。作戦では当日にルーシーに愛の告白を――ぐふっ!」


「アベル、余計なことはいうな。愚か者!」


 どうやらニコラスはダンスパーティーまでルーシーに合わずにサプライズの告白を準備しているようだ。


 リリアナは今のやり取りで男性陣の思惑を察したがルーシーは何やら上の空だ。


「うーむ、さっきからつがいとか、そういう話はまだ早いぞ、恋愛脳もいい加減にしろ!」


「ルーシーさん、どなたと話しているのですか?」


 ルーシーは明後日の方に向かってしゃべっている。つがい、ルーシーはペットでも飼っているのだろうか。


「ふぇ? あれ? なんだっけ? そうだ、リリアナさん。殿下を連れて来たし、これで当日に向けて完璧な練習ができるってものだ、わっはっは」


 リリアナは溜息をつくとニコラスに振り返る。


「殿下……。そのサプライズ作戦は失敗します。そうですね、まずはお友達としてルーシーさんとお付き合いするのが近道かと思います。

 しかし、誰の入れ知恵ですか? サプライズをすれば女性は無条件で喜ぶとか、それは短絡的な発想です!」


 そっぽをむくアベルとゴードン

「ふう、まったく。良かれと思ったのかもしれませんが、一方的な好意は迷惑にしかなりませんよ。お三方、理解しましたか?」


 リリアナの言葉に男性陣三人は黙って頷く。そしてセシリアが言葉を続ける。


「そう、一方的に好意を押し付けるのはストーカーという。私も経験がある、それは最悪。でも母上はそれに耐え続けた、流石はニンジャー。耐え忍ぶ者」


 セシリアは自分の父親をストーカーという。ただの親バカではないかと思うがそれは別の話だ。


 ニコラス達は気まずい状況に言葉を濁す。


「そ、そうか。ルーシーはダンスが出来ないのだな。なら喜んで練習に付き合うとしよう。そう、友人として。わっはっは!」


 無理して高笑いをするものだから違和感が半端ない。


「ふう、これで一件落着ですわね。では私達はこの辺で、後はお二人でごゆっくり……」


 ソフィアはこれにて一件落着と言わんばかりにこの場を去ろうとする。あとは二人っきりにすれば良いだろうという気遣いもあった。


「うん? ソフィア・レーヴァテイン。何を言っているんだ。君達も宮中パーティーに参加するのだろう? 練習しなくていいのか?」


「え?」


 何のことなのかと、お互いを見合うソフィアとセシリア。


「ほら、手紙に君たちの招待状も入っているだろう。友達同士なんだから当然参加すると思ってたんだが……」


 確かに封筒には招待状が三人分、ちゃんと入っている。


 確認しなかったルーシー達が悪い。


「ど、どうしましょう。私、ダンスなんてしたことありませんわ」


「私も無理、剣舞なら出来るけど、ダンスはやったことが無い」


 慌てふためくソフィアとセシリア。


「セシリアはともかく、ソフィアはなんで踊れないんだ? 君は伯爵家だろう?」


「そ、それは。私は魔法の勉強に忙しかったし。両親も貴族間の付き合いは避けてたし。政治的な意味があったのですわ、だから私が踊れないのは当然なのだわ!」


 ただの言い訳に聞こえたが、ニコラスは一応は汲み取る。


「そうか。政治的な理由なら今回は問題ないよ。なんせ今回は祖母も参加するのだからな。

 レーヴァテイン家はどこの派閥にも属さないが唯一の例外は祖母だ。祖母も派閥を持たないが唯一の派閥がレーヴァテインと言えるだろうしな」


 話はついた。ソフィアとセシリアも宮中パーティーに参加は確定となったのだった。


「では、皆さん、あまり時間がありませんので練習を始めますよ。アベルさんとゴードンさんはソフィアさんとセシリアさんのパートナーになって踊りを教えてください。

 お二人ならパターンを覚えればそれなりに形にはなるでしょうし。よろしいですわね」


「あ、はい」


 今、この場で最も権力をもつのはリリアナである。そういう気迫が彼女にはあった。


「ルーシーさん。ボケっとしてないで、ほら殿下も。何をおどおどしてるんですか」


「あ、ああ。そ、そうだな。ル、ルーシー・バンデル……その、よろしく頼む」


 ニコラスはルーシーを直視できないでいた。まだ昨日の映像が目に焼き付いているようだ。


「殿下、お顔が真っ赤ですよ? 風邪でもひいたんですか? お風呂で体を温めますか?」


 目を逸らすニコラスの顔を覗き込むルーシー。

 目が合うとニコラスの顔はますます赤くなる。


「お、お風呂! い、いや、風邪じゃない。俺は大丈夫だ。じゃ、じゃあ始めようか……」


「うふふ、殿下がたじたじですわね。セシリアさんどう思います?」


「ふふ、殿下はおそらく昨日の一件で、ルーシーさんの服の中を想像しておいでです。

 しかしルーシーさんも上目遣いに殿下の顔を覗き込む仕草。ルーシーさんもかなりあざといといえる」


「たしかに、でもルーシーさんはお父様と話すときもあんな感じでしたので、狙ってやってるわけでもありませんわ」


「なるほど、ルーシーさん恐ろしい子……」


「なあ、君たちも現実逃避してないでダンスの練習をしないとだろ?」


 アベルがソフィアとセシリアに話しかける。


「ち、モブ貴族……いいえ、その通りですね、ソフィアさんはどちらとパートナーに?」


「どちらでもいいですわ。私から選ぶと角が立ちますし……」


「俺達だってな、レーヴァテイン家との関係はデリケートなんだ。じゃあ、ゴードン。コインの表裏で決めよう」


「ち、だからモブだという……」


 セシリアはパートナーを選ぶのにコインを使うのに嫌悪感を覚えた。

 これならストーカーの方がましである……。


 だが父親も父親で問題はある……、セシリアは男女の関係の複雑さに戸惑うばかりだった。

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