第69話 休日①

 今日は休日だ。

 この一週間は色んなことがあった。


 オリビア学園へ入学、初めての魔法。皇子のツンデレ。美味しい料理。

 これからも色んなことがあるだろう。でも友達も出来たし何とかなる、張り切っていこう。


「ルーシーさん鏡の前で笑うのはちょっとアレですわよ?」


 この部屋には鏡台は一つだ。ソフィアは髪の毛のクルクルを作りたいと専用ブラシを手に待っている様子。


「ソフィアさんごめん。初めての休日だからちょっと浮かれちゃってた」


 ルーシーは髪の毛を数回ブラシで梳かすと鏡台から離れソフィアに譲る。

 ソフィアは鏡台の前に座ると器用に縦ロールを作りながらルーシーに話す。


「今日は学園生活が始まって初めての休日ですわね。私こういうのをずっと憧れてましたの。お友達とお出かけなんて夢のようですわ」


 自慢のクルクルヘアーをこれでもかとクルクルさせて元気いっぱいだった。


 ルーシーもお気に入りのワンピースに着替える。グプタと違い寒暖の差があるのでクローゼットからジャケットを取り出し羽織る。

 今の自分はクールな都会の女だ、そう思い込むルーシーはいつまでもクルクルしているソフィアに声を掛ける。


「じゃあ、ソフィアさん早速行きましょうかしら?」


 今日は寮の朝食はキャンセル。朝から街で食べ歩きをする予定だ。


 女子寮の入り口でリリアナ、セシリアと合流する。


 リリアナの普段着はもこもことした毛皮のドレス。洗練されたカルルクのファッションといった感じだ。

 派手な色では無いが温かく機能的である。

 セシリアは学生服だった。べつに学生服でも何も問題ないし、経済的な事情ではないことは確かだ。


 カルルク全土に店舗を構える人気店のオーナーの娘さんなのだから……ではなぜ、それは分からないがあえて聞かないことにした。

 それに制服だって随分とおしゃれだ。


 ただルーシーとしてはネクタイにまだ慣れていないため、休日は解放感のあるワンピースを好んで着ているだけだ。

 要は本人がそれで良いなら何も問題ないのだ。


「今日は女の子同士、無礼講ですわよ! 一日中ショッピングをしたり買い食いしたり楽しみましょう!」


 ソフィアが意気揚々と宣言する。


 ◇◇◇


 4人は乗り合い馬車でベラサグンの中央の繁華街まで来る。

 一度アランとイレーナに案内されて来たことがあったが相変わらずの大都会、人がいっぱいだ。

 学園周辺が特に田舎という訳では無いがこことは比べ物にならない。


 地図を確認するが土地感があるのはリリアナとセシリアのみだった。


「ソフィアさん、さっきまでノリノリだったのに急に黙ってどうしたの?」


「うん、実は私……お上りさんで都会に来ると緊張しちゃうの……」


「なるほど、ソフィアさんはタラス出身でしたね。ここまでの都会は初めてということでしょう、まあ致し方ないかと」


 セシリアの冷静な分析で真っ赤になるソフィア。


「まあまあ、私もベラサグンにずっと住んでるけどここに来るとちょっと緊張しちゃうからしょうがないよ」


 リリアナがそう言うと。

 一同は改めて人ごみで賑わう繁華街を一望する。

 

「では、さっそくですが街をぐるっと回りましょうか」


「おー! 屋台の料理を食べ歩きだー!」


 ルーシーの掛け声に一同が注目する。

 

「……あれ? 私、田舎者感でてた? でもグプタでは屋台の食べ歩きは当たり前だったよ? 美味しそうなのがあったら、とりあえず食べなきゃ本当においしいか分からないでしょ?」


 ルーシーは、当たり前の事を言ったつもりだったが、まるで天啓のように女子達に電流が走る。


「そうよ! ルーシーさんの言う通り! これだけ屋台があるんだもの食べなきゃだわ! じゃあさっそくどれにしましょうか、より取り見取りで迷っちゃうわ」


 デザート系、食事系。様々な屋台がひっきりなしだ。

 言い出しっぺのルーシーだったが、さすがにこの数の屋台、全てを食べるのは不可能。


「ぐぬぬ、私とてこれほどの屋台はグプタでも見たことがない。さすがは帝国首都。グプタは所詮は田舎ということか……」


「ははは、お嬢様がた、なにやら迷われているご様子、ここは一つ某にエスコートさせて貰えますかな?」


 どれから食べようか迷うルーシー達の前に、あやしいピエロのお面を被った謎の紳士が現れた。


 紳士なのか? いや、ルーシーの知識では全身を仕立ての良い服に着こんでネクタイをしている男性を紳士という。ただ顔にはピエロのお面。


 帽子を脱いで礼儀正しくお辞儀をする姿は紳士そのもの、だが変質者であることには変わりない。

 しつこいようなら巡回の騎士さんに声を掛けるべきか、だがセシリアは前に立つと目の前のピエロに溜息をつきながら答える。


「父上。やはりですか……ずっと私たちをストーキングしていたのですね……」


「父上だなんて他人行儀な。パパと言っておくれよ、ママが出張中の今の僕にはセシリアしかいないんだ。それに昨日はお店に来たんだって? 言っておくれよ。パパは仕事中でも挨拶位はできるというのに」


 ピエロのお面を外すとそこには貴族然とした整えられた髭を蓄えた本物の紳士がいた。だが、先程の発言で台無しだった。

 セシリアが紹介しなかった理由、そして従業員もセシリアパパに報告しなかった理由が分かる。


「あの、ノイマン元宰相ですよね。お父様とお母様が大変お世話になったと聞いております」


「ああ、君はソフィアちゃんだね、すっかり大きくなった。ご両親はお元気かな? レーヴァテイン伯爵には感謝してるよ、はっはっは」


 ルーシーは驚く。

 意外な事実だった。この変態……いや、セシリアさんのお父様はカルルク帝国の元宰相であったのだ。

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