第63話 闇の魔法の授業①
午後の授業が始まる。
選択必修科目。闇の魔法に対する防衛術の授業は、法律的にアウトな闇魔法が学園内でのみ合法的に学べる唯一の科目である。
当然、外では使えない魔法なので履修する学生は少ない。しかし、なぜこの学問が学園公認であるかというと、これを悪用する邪悪な魔法使いに対抗できる人材を育成するためだ。
この単位を取れば、皇室騎士団への道も開かれるのである。
だが人気は無かった。違法の魔法である以上、おいそれと使用することができず、しかも魔物に対する効果は低いからだ。
「おやおや、ニコラス殿下。そしてアベルとゴードン。ようこそ、君たちは来てくれると信じていたよ」
マーガレット先生は上機嫌だった。
さっそくティーポットを用意しお茶の準備を始める。
「ふむふむ、昨日まで二人だったけど今日は六人。ここ数年で最も多い履修者だ。では、そちらのお嬢さん、名前を教えて貰えるかな?」
六人? ルーシーは、自分とソフィアにニコラスとその取り巻き二人。五人では? と思いながら、
マーガレット先生が見ているその先を確認する。
そこには謎の少女がいる。黒髪が綺麗でオリビア学園の制服を着た……初めて見たクラスメートだった。
「ルーシーさん。初めて見たとは不本意です。ちゃんと自己紹介しましたよ? 私はセシリア・ノイマンです。
ちなみに選択必修の科目の初日は『戯曲魔法』に行きましたが思ってたのと違ったのでこちらに変更させていただきました」
セシリアはルーシーの心を読んだのか、ルーシーの疑問に答える。
ルーシーとしては、珍しい黒髪だし、憶えていてもいいはずなのだが。残念ながら覚えていなかった。
失礼で反省しなければと思うルーシーをよそに。マーガレット先生はティーカップを順番にテーブルに並べると上機嫌で言った。
「はっはっは。そうかい! 人気の『戯曲魔法』よりも私の授業がいいと、そういうことだね?」
「それは、おいおいです。ここもだめなら他に行きます。ですので有意義な授業を期待します。ちなみに私の特技は気配を消すことと相手の心を読むことです。魔法ではありませんのでご安心ください。
それにしても、マーガレット先生。生徒の為にお茶を準備するのはどうかと思います。先生は、授業をするのが仕事です。これからはお茶は私が準備しますので先生は授業をしてください。
それに失礼を承知で言いますが、その魔法のティーポットは良くありません。現代のお茶の葉の品質とあっていませんので美味しくはならないでしょう」
辛辣な少女だった。
だが彼女はそういうとマーガレット先生の手伝いを始める。
お茶菓子を出したりと実にテキパキとしている。
まるで熟練のメイドさんのようだった。
悪い子ではないようでルーシー達は安心する。
ルーシーはソフィアにこっそりと耳打ちする。
「ねえ、セシリアさんっていたっけ?」
「え? い、いました……はず。ごめんなさい私もクラスメートの全員を把握出来てませんの。いたのは間違いないのですが……」
「ほら、そこ! 私の影が薄いと言っている。失礼です」
セシリアは鋭く指摘する。ルーシーとソフィアは素直に謝る。
ニコラスはルーシーの味方であると宣言したのでなにかフォローをしてくれるはずだが。何もない。ニコラスもアベルとゴードンもセシリアの存在を本当に知らなかったらしい。
「す、すまない。改めて自己紹介といこう、俺はニコラス――」
「いいです、やらかし皇子様は良く知ってる。有名人……」
以降、口を閉ざすセシリア。
マーガレット先生はお茶を飲みながら授業を開始する。
いよいよ授業の開始だ。今まではただのお茶会であったのだ。
生徒二人では気分が乗らなかったのであろう。
「さて、六人も学生がいる。今年は面白くなりそうだね。じゃあ、まず早速だが、君たちは何が学びたい? 希望を聞こうじゃないか?」
「マーガレット先生。カリキュラムにそってやるんじゃないんですか?」
ソフィアは当然の質問をする。だが彼女の目はキラキラしていた。
カリキュラムはつまらない内容ばかりであったのだ。
やはり期待通りの授業が受けれると、いよいよ闇の深淵を覗けると、そんな目をしていた。
「ああ、カリキュラムね、それは建前だよ。ぶっちゃけて言うとだね、闇の魔法に対する防衛術ってのは嘘さ。
そんなんがあるんだったら、とっくに闇の魔法なんて廃れているさ。結局は闇の魔法も他の属性魔法と同様、マジックシールドで防ぐか、当たらないように避ける。
呪いの魔法に関しては余程の格上の魔力でなければ防衛なんて不可能。
つまり、防衛術とは敵の使う術を理解し、対策をすることに他ならない。それは魔法使い同士の戦いと何ら変わりない。
……ただ闇の魔術は法律で禁止されている。なぜだか分かるかい?」
マーガレット先生は緊張感をもって生徒に質問する。
いよいよ授業らしくなってきた。
「それは……、非人道的だからですか?」
ニコラスは答える。
「そう、正解。闇の魔法とは所謂、物理的な拷問と同様に、人を苦しめる為だけに作られた魔法だからさ、さてと諸君、闇の魔法で何か知ってる魔法はあるかな?」
ルーシーは手を上げる。
「はい、『千年牢獄』とかですか?」
マーガレット先生の目は急に鋭くなりルーシーを見返す。
「……ほう、ルーシー。それをどこで知った? そいつはかなりのえげつない魔法だよ。人の精神を千年閉じ込め廃人にしてしまう、禁忌中の禁忌なのだが……」
ルーシーはしまったと思った。自分はそれに二回掛けられたと言ってしまっては大問題だ。
「あ、えっとー。それはベアトリクスに教えてもらいました」
不本意ながらルーシーは、規格外の存在であるベアトリクスを言い訳に利用することにした。
一瞬、マーガレット先生は驚きの表情を浮かべるが、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。
「は、そうだったね、ルーシー、君はグプタ出身だったか。なるほど……ふむ、奴は極大呪術も使えるのか……」
「あの、マーガレット先生。その『千年牢獄』とはどういった魔法ですか? 名前からして牢獄に閉じ込められるとは推察しますが……具体的に聞きたいです」
ニコラスが手を上げ質問をする。
「おや、ニコラス殿下、何か思うところがあるかい?」
「はい、実は……。俺は、先日、その魔法に掛けられたのです。ですが、ある人に助けていただいて。ご存じならその魔法について教えてほしいのです」
「ふむ、聞いておるよ、殿下が良ければ、その時の状況を話してくれるかな? 皆の前で言うのがいやなら個別でもよいが……」
「……いえ、お構いなく。ここにいる皆は当事者です」
「あのー、私は当事者ではありませんが?」
セシリアは興味なさげにティーカップを揺らしながら言う。
「ああ、そうだった、セシリアがいたね、本当に気配がないから気付かなかったよ。でもいいさ、君も聞いてくれ、せっかくの授業だ。君にもぜひ知ってほしい」
ニコラスは、自分が呪いのアイテムによってハヴォックという怨霊に乗っ取られた時の状況を話し出した。
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