第47話 放課後

 午後の授業が終わる。


「生徒諸君! どうだったっすか? 地味だと侮っていたっしょ? ロープワークはサバイバルの基本中の基本っす。……さて、今日の授業はこれで終わりっすが、気に入ってくれたら来週も来るっす。さて、何か質問はないっすか?」


「はい先生!」


 ソフィアは姿勢よくピンと垂直に手を上げる。さすがは貴族。手を上げるだけでも周りの気がぴしっと引き締まる。


「はい、ソフィアっち」


「アラン先生はルーシーさんの事をお嬢とずっと呼んでいました。おそらく皆さんも気になっていたと思います。どういうご関係ですか?」


「ふむ、そうっすね。お嬢は俺っちにとっては尊敬する上司と、死ぬはずだった俺っちに再び命を授けてくれた恩人の娘さんっすね。

 ですから教師と生徒以上の関係とは言えるっす。私情を優先してお嬢の味方をする位にはっすね。


 まあレンジャーの教育は贔屓したって意味ないっすから、みんな安心してほしいっす。

 逆にお嬢には少し厳しめに指導するつもりっすよ。半人前で単位を与えたら実際危険っすから」


 周囲の生徒は様々な反応を示しルーシーに注目が集まる。ルーシーは恥ずかしい。うれしいけど恥ずかしいのだ。


 ◇◇◇


 授業を終え、寮に向かう道中。


「ふう、アランおじさん……。皆の前で言うことないのに……」


「うふふ、照れてるルーシーさん可愛かったわね。でも、これでルーシーさんにちょっかいを掛ける生徒は激減するわ」


「ちょっかい? なんで? 私なにも悪いことしてないし……」


 自己紹介も無事に終えたし。いじめられる要素はもうないはず……。

 ルーシーは何か見落としていたのだろうかと首をかしげる。


「ルーシーさん、これは個人の問題ではないの。ルーシーさんはグプタ出身でしょ? 

 グプタは裕福なリゾート地。よその国の人にとってはね、グプタの人間が皆遊び人だと思ってるのよ……偏見だけど」


「え? なんで? 遊んでたら生活なんて出来ないでしょ? なんでそうなるの? グプタの人は皆仕事してるよ?」


 ルーシーの周りの大人達で仕事をしないで遊んでいる人などいない。

 なぜそうなるのか全く理解できなかった。


「そう、グプタに住んでる人はそうでしょう。でもグプタに行く人は皆遊ぶために行くの。まあ、例外としてグプタに仕事で行く人は商人か外交官くらいでしょ?

 だから皆は誤解してるの、グプタの人は皆遊び人が定説なのよ。もちろん私はそうは思ってないし、あくまで偏見によるけど」


「そっか、私嫌われてるんだ。ちょっと憂鬱だ……」


「そうじゃないわ。少なくとも私はルーシーさん好きよ? でも、偏見からそう思ってない人もいるってこと。

 だからアラン先生は釘を刺したのよ。アラン先生の身内に手を出さないようにってね。

 ルーシーさんは知ってた? アラン先生ってカルルクでは有名なのよ? 冒険者アラン。必中のスナイパー。実際、砂漠の魔物、怪鳥デザートウィングを弓で倒せるのは彼だけだって。

 だから、アラン先生の身内ってだけで、ルーシーさんにちょっかいをだそうとする人間は激減するってこと。素敵なおじさんじゃない」


 だからか、イレーナさんもアランおじさんも私を守ってくれてるのだ。

 しかし、それではアンナとジャンはいじめられているのでは? と心配になる。


 ふと後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。


「よう! ルーシー。久しぶりだな。まさかお前もオリビア学園に来るとは思わなかったぜ」


「もう、ジャン君ったら。ルーシーちゃんはちゃんと言ってたよー。闇と呪いの魔法使いになるってー」


 懐かしい声がした。一年ぶりだ。

「アンナちゃんにジャン君! 久しぶり。元気だった? いじめられてなかった?」


 同郷の幼馴染の登場だ。


 ジャンはさらに大きくなった。身長だけならもう立派な大人だろう。

 アンナも幼さはまだ残るが全体的に大人の女性らしくなっている。


 一年見ない間にこれほど変るものかとルーシーは思った。


 彼らがいじめられていないか心配ではあったが、特に問題はないようだった。魔法機械に関してはグプタは最先端を行っている。

 おそらくレスレクシオン号の存在であろう。それにジャンとアンナはルカ本人から推薦状を貰っているのだ。いじめられるはずがない。

 スクールカーストで言えば上位であると二人から聞いて一安心したルーシー。


 そんなやり取りが終わるとソフィアが声を掛ける。


「あら、ルーシーさんの幼馴染でしたか。久しぶりの再会のようですし……私達はこの辺で失礼しましょう」


 気を利かせるソフィアであった。

 だがジャンは言う。


「おう、気にすんなよ。ルーシーの友達なんだろ? なら俺達も友達になる権利があるってもんだ」

「そだねー、ルーシーちゃんのお友達とも仲良くできたら嬉しーなー。そうだ! 私達これから街に行くんだけど、皆も一緒にいかない?」


 こうしてソフィア、アイザック、リリアナのカルルク組とジャン、アンナ、ルーシーのグプタ組は仲良く街へ向かった。

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