28.新刀進上の儀
何が何だか理解できない俺だったが、とりあえずナツキさんの指示通りにアスロットから距離を取った。
——————だが次の瞬間だった。
【ビュゥゥゥ……ウォォォオオオオ!!!】
突然アスロットの周りに黒い風が巻き上がった!
その黒風はまるで刃のような鋭さで渦巻いており、近付けば問答無用で切り裂かれるのを本能で感じる。
まさにナツキさんの言っていた通りの能力だな。
「すげぇ魔力と風圧……!これが最高ランクの刀か」
そう言いながら俺は、腕で顔を隠して吹き荒れる砂を防いでいる。
一応は少しずつアスロットから距離を取っているのだが、それと同時にアスロットも魔力出力を高めているようだ。
「ぐ……あぁぁあああああ!!」
黒い風の中で、苦しそうな叫び声を上げるアスロット。
さすがに使い慣れていない最高ランクの刀だ。騎士団最強の戦士といえど、あの黒風の中はかなり過酷な環境のようだな。
それを証明するかのように黒風の渦はドンドンと範囲を広げていくが、制御されている様子はない。
おそらく刀に好き勝手に暴れられている、そんな状態なのだろう。
「ファーハッハッハ!!コイツはとんだ暴れ馬だなぁ!いい加減ワシの言うことを……聞けぇええ!!」
だがアスロットも負けてはいない。
ただ流し込むだけだった自身の魔力をコントロールして、刀の魔力と融合し始めていたのだ。
おそらく刀の膨大な魔力に耐えうる魔力量と肉体がなければ、全ての魔力を刀に奪われてしまう。
まさに”命の駆け引き”がそこにはあった。
そして……。
【ビュゥゥ……シュォォォオン!!!】
徐々に勢いを落とし始めた黒風は、巻き上げた辺り一体の砂を地面に落とし、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
そして中から現れたアスロットは、刀に魔力を流す前とは全く違った姿となって現れる。
「フゥー、フゥー……中々楽しませてくれたなコイツめ。まったく、8回ほど死にかけたわ!ファーハッハッハッハ!!」
そう言って高らかに笑うアスロットの体には、幾千にも切り刻まれた傷口が出来ていた。
先ほどまで着ていたはずのシルバープレートは”右側”が大きく損傷しており、肌が剥き出しになっている。
おそらく右側だけが損傷したのは、刀を握っていたのが右手だったからだろう。
どうやら彼はたった数十秒の間に、死の縁を何度も行き来したのが目に見えて理解できた。
……そしてアスロットは右手で高々と刀を突き上げ、最後に大声で叫ぶ。
「ナツキィ!!大層立派な刀であった!!今この瞬間をもって、
こうして突然始まっていたらしい儀式は終わりを告げるのだった。
◇
「いや説明不足すぎますっって!?」
思わず俺はナツキさんに対して問い詰めていた。
それもそのはず、突然ナツキさんに”離れろ!”と言われたかと思えば、突然アスロットは刀の魔力を制御して、最後に突然儀式がなんちゃらと言い出したのだ。
ハッキリ言って、何が何だか分からない!
「なに、新刀進上の儀を知らなかったのか?」
「知らないですよナツキさん!説明を求めますっ!!」
「……確かにこの世界の刀に詳しい者しか知らないか」
こうしてナツキさんは、ようやく今の状況説明を始める。
「刀の最高ランク・
これをしなければ魔刀はいずれ意志を持ち、誰も操ることの出来ない
「ほぉ……?」
「ベネットが使っているその”雷光龍”の刀。前から思っていたのだが、おそらく最高ランクではなく上から2番目の”
だからこの儀式を行った事が無かったんだろうな」
「なるほど、納得しました!俺の知らないところで昔からこの文化はずっとあったんですね。
……あっ、だからわざわざ周りに人がいない砂漠に来たのか!あんなの街中で行ったら危険ですもんね」
「そうだ。もしかしたら君も、いつかやる事になるかもな。その時の刀は、ぜひ私に打たせてくれ」
そう言ってナツキさんは温かい笑顔を浮かべているのだった。
(やば、笑顔の破壊力スゴ……)
砂漠に反射する日光のせいか、目の前のナツキさんは神々しさすら感じるほどに美しく見えた。
出来ればずっと見ていたい笑顔なのだが……
しかし残念ながら”アイツ”がそれを許さない。
「ファッハッハー!我、完全復活なりぃぃいい!!!」
このクソゴリラが……!!
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