15.食材調達
「ありがとうサン・ベネット君!!まさか君のような強い冒険者がこのタイミングでカルマルに来てくれるなんて、私たちは何て幸運だったのだろうかっ!?」
そう言って俺の手を強く握る人物は、最初に俺が助けた街の少年ネスタの父親・マグナクスタさんだった。
どうやら彼はこの街で商会を営んでおり、そこそこ偉い人らしい。
事実彼の周りに立っている人間達は、彼を代表者的な目線で見つめている。
おそらく彼と友好関係を築いて損はなさそうだ。
「確かにナイスタイミングでしたね~。朝ごはんを買いに来ただけなのにビックリしましたよ~!ま、僕にとってはこんなの”朝飯前”ってね!ガハハハハ」
「ハッハッハ!ベネットさんは強くて面白い方ですな。美味しい食事でしたら沢山ご用意いたしますので、ぜひゆっくりしていってください」
……などという大人のくだらない社交辞令を挟みつつ、俺はようやく落ち着いてカルマルの街を見渡していた。
やはり数日前に来た時にも感じたが、色とりどりの建築と、綺麗な街の中心を流れる水路が非常に好印象な街だ。
そして街の人達の雰囲気もよく、経済も活気づいているのが肌で感じられる。
だがこうなってくると、やっぱり期待できるのは”良い食材”だよな!
とにかく質の良い食材を、できるだけ多く買っていかないと。
「マグナクスタさん、食品市場って何時から開きますかね?」
「食材……ですか?そんなぁ、ベネットさんにはカルマルの街の絶品料理をご馳走様いたしますよ!?」
「いや、実は俺の作る朝ごはんを待ってる人がいるんすよ。だから俺が作って帰らないと、あの人
「そ、そうですか……?一応市場はあと1時間ほどで開く予定ですが、私が彼らに話をつけて、先に商品を用意してもらいましょうかね?」
そんな素晴らしい提案に対し、俺は喜んで返答する。
「マジっすか!?ぜひぜひ、お願いしまーす!」
「で、ではご案内致しますね」
こうして俺は、ようやく本来の目的である”朝食の食材調達”への一歩を踏み出したのだった。
◇
「まぁマグナクスタさんの頼みなら仕方ないね。なにより防衛団が少ない時の街を救ってくれたお礼だよ、あんちゃん好きなモン持っていきな!」
「いいんですか!?じゃあお言葉に甘えて……」
少し歩いた所にあるカルマル市場に到着した俺達は、魔獣の脅威が去ってから準備を始めた商人達の店に立ち寄っていた。
まずは
ちなみに俺の予想はビンゴだった。
目の前に並ぶカラフルな野菜や果実の数々は、とても水々しく艶やかで、食べる前から美味しいのが分かってしまうほどなのだ!
「お兄さん、コレとコレ、3つずつお願い!」
「あいよぉ!街の英雄にはもう1個多めにつけとくよ!」
「あざっす!」
こうして気前の良いお兄さんの店を後にした俺は、次に老婆が準備を進める店へと足を運んでいた。
ここは露店ではなく、しっかりと住居の中で経営をしている。
……ちなみにマグナクスタさんは、さきほどの露店で立ち止まって何かを話し始めていた。
別に待つ必要もなさそうなので、とりあえず俺は1人で交渉を進める。
「おばちゃん、準備中に悪いね。卵って売ってる?」
「んん?もうそんな時間かね。売ってるよ。ちょっと待ってな」
そう言い残すと、腰の曲がった老婆はゆっっっくりと食材保管庫へと向かい、ゆっっっっっっくりと店頭へ戻って来た。
「はい、生まれたてホヤホヤの新鮮卵6個パックだよ」
「ありがと婆ちゃん!値段は?」
「それは150……。ん?アンタ……」
すると老婆は俺の顔を見た途端、急に目を大きく見開いていた。
普通に目が怖いしビックリしてしまった俺だが、なんとか態度には出さないように気を付ける。
「どしたの?何か顔についてた……?」
「いやぁ……ワシは”ステータス開示・解”の魔眼スキルを持っておるんじゃが、アンタのステータスに驚いちまってね。どれもSランク冒険者に匹敵かそれ以上じゃないかい」
そう言って老婆は俺の顔をジロジロと見続ける。
「そりゃ俺、元Sランク冒険者サン・ベネットだからね!」
「ベネット…………!懐かしい名前じゃな。昔この街に同じ名の者が住んでおったわ」」
「へぇ?もしかしたら親戚かもね。
ていうかさ!?【ステータス開示】って近年では少なくなったスキルだよね!?【解】って事は、さらにスキルを進化させてるって事だし、もしかしておばちゃん凄い人!?」
「ハッハッハ、そうかもしれんの。昔は王都の城で働いてる時期もあったしな。じゃが今思えばシンドイ事ばっかりだったよ。偉い人はみんな、弱者はずっと弱者であるべきと考えとる」
「ハハハ、たしかに!今のクローブ王国の王様ってクソ野郎だもんね。俺はアイツに冒険者の権利取り上げられたんだよね~」
「ほぉ……Sランクの冒険者なのにかい?相当あの王様の機嫌を損ねたんだねぇ。アンタとは気が合いそうだ、若いのに苦労しとる。
ホレ、こんな老婆と話してくれたお礼じゃ、卵はタダで持っていきんさい。もちろん今日だけだよ」
「マジで?ありがとおばちゃん!!……あ、ちなみになんだけど………」
俺は周りを少し気にしながら、老婆の耳に口を近づける。
そして小さな声で呟いた。
「美味しい卵料理ってある?それはもう、2度と忘れられないぐらいに美味しいやつ……」
するとそれを聞いた老婆も、まるで闇取引のように落ち着いたトーンで答える。
「……黙って”ひき肉”でゆで卵を包みなさい。ミルクとパン粉も忘れずに混ぜて、塩コショウはお好みでね。その後に転がして空気を抜いたら、あとは油で4分~5分揚げるんだよ。そうすればもう、キマる事間違いなしじゃ」
「おばちゃん、アンタとんでもない情報を教えてくれたな。……この恩はいずれ返すよ」
「ふん、楽しみにしてるよ若いの」
こうして重要な情報を得た俺は、新鮮な卵を持って店を出ていくのだった。
……けどまぁ正直言ってしまうと、さっき老婆が言っていたのは前世でいう”スコッチエッグ”だな。
「でも前世で好きだったし、久しぶりに作ってみるのも良さそうだ」
気付けば俺の頭の中には、笑顔で料理を食べてくれるナツキさんの顔が思い浮かんでいた。
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