71.1秒

「あの方は信頼できそうな方なんですかね?」


 商人ギルドを後にした僕たちは、冒険者ギルドに向かっていた。

 あの後、フランさんとルークさんはお互いの現在の状況を伝え、今後の話をしていた。

 話を横から聞く限りでは悪い人には見えなかったけど……まぁ、僕の見る目は当てになんないって自覚してるんだけどね。


「そうですわね……悪巧みをするような方ではないですし、騙そうとするようなこともないと思いますわ。ただ、『アルゴン帝国の人間』ということだけは忘れないようにしたほうがいいかもしれませんわね」


 フランさんとしても、完全に信用しているわけではなさそうだ。

 ただ、これまでの両者の関係からあまり疑いたくはないというのもあるかもしれない。


「わかりました、気をつけます」


 僕は元々そこまで信用もしていなかったけど、いい人そうに見えても簡単には信用しないほうがいいだろう。


「ここが冒険者ギルドですわ」


「ここも大きいですねぇ」


 ハイドニアの冒険者ギルドよりも全然大きく、大通りに面してるしきっと一等地なんだろうな。


「ギルドの大きさは街の大きさに比例しますからね。教国も大きいでしょう?」


「そうね。教国は大きさもそうですけど、デザインがかなり違うので、ソーコさんも教国に来られた際にはぜひ寄ってみてくださいね」


「わかりました。楽しみにしてますね!」


 いつになるかわからないけど、ぜひアリシアさんの故郷のエイスフル教国にも行ってみたいところだ。

 ちなみに、AOLでは名前しか出てきたことのない国なので、まだ実装されていないため当然行ったことはない。

 ギルドの中は酒場が併設されているタイプで、中も広くてここも商人ギルドのように天井が高い。

 午後の時間帯だけど人も多く、夕方近くになってくればもっと増えてくるだろう。


「冒険者ギルドは初めてきたのです!」


「あ、そうなんだ。それじゃあギルド証も持ってないんだよね?」


「もってないのですぅ……ご主人様は持ってるのです?」


「うん。僕だけじゃなくてみんな持ってるよ。アンジェなんて失効しちゃったけど、僕に再会する前から持ってたし、ネオンなんてAランク冒険者だしね」


 それを聞いたセラフィは、口をあんぐりと開けてショックを受けた顔を浮かべた。


「ず、ずるいのです! セラフィも欲しいのです!」


「あー……でもあれって試験もあるから時間かかるしなぁ。また今度にしよ?」


「うぅ……チヨメは持ってるのですか?」


 セラフィは諦めきれなそうな顔でチヨメに聞くと、


「……持ってる」


「うきぃーっ!」


 無表情で答えるチヨメに、セラフィは猿のような声を上げた。

 チヨメが冒険者証を持ってるのは知らなかったな。

 きっと、潜入とかしてたからそういうので必要だったのかもしれないね。


「まぁまぁ、落ち着いて、セラフィ。また今度時間に余裕があるときにしましょうね?」


「むむむ、セラフィだけ仲間外れみたいで悔しいのですぅ……」


「セラフィ……」


 しょぼんとしたセラフィを見てると、非常に悪いことをしている気分になってくる。

 たしかに他のサポーターたちは持っているのに、自分だけ持っていないとなると少し仲間外れな気持ちになるのもしかたない気もする。


「あら? セラフィさんでしたらすぐに受かるでしょうし、ちょっとくらいの時間でしたら大丈夫ですわよ?」


 フランさんの言葉に、セラフィはパアッとわかりやすく笑顔になった。


「やったーなのです! フラン、ありがとうなのです!」


 抱きついて喜びを表すセラフィに、フランさんはにへらと相好を崩す。

 実に満足そうな顔だなぁ。


「これくらい全然問題ありませんわ! ぐへへ……」


「お嬢様」


「……んんっ、それでは受付に行きましょうか」


 僕たちは空いてる受付に行き、受付嬢に資格取得の意思を伝えた。


「それでは試験を受けられる方はどなたになりますか?」


「はいなのです!」


 受付嬢の問いかけに、セラフィが元気よく手を上げて返事をした。

 表情からわくわくが滲み出ているな。


「えっと、実戦形式なのですが……大丈夫ですか?」


「何がなのです?」


「いえ、その……とても幼く見えますし、女の子なので大丈夫なのかなと……」


 まぁたしかにここにいるのは女子だらけだし、セラフィは見た目もそうだけど、その言動からもより幼く見えるからなぁ。

 受付嬢が心配するのも無理はない。

 僕がハイドニアでギルド試験を受けたときも、エリーさんは心配してくれてたしね。


「大丈夫ですわ。こう見えてとても強いのですよ。ねぇ、ソーコさん?」


「ええ、戦いの実力は間違いなくあるので、安心していいかと」


 むしろ、やりすぎちゃわないか心配なくらいだ。


「そこまで言うのなら……わかりました。では、相手の方を決めるのでギルド内で少々お待ちいただけますか?」


「わーいわーいなのです!」


 受付嬢はそう言って奥に行った。


「そういえば、ソーコさんは依頼がどんなものあるか気にしてらしたわね」


「あ、そうですね。ちょっと見てきてもいいです?」


「ええ、いいですわ」


 僕は依頼が貼りだされている掲示板に行き、どんなのがあるか確認した。

 朝よりは少なくなってるだろうけど、それでも多くの依頼書が貼ってあった。

 内容は、討伐や護衛、採取に清掃などいろいろあったけど、そんなにボロン王国で見たものとかわるものはなかった。


「……お館様、試験の準備が整ったようです」


「お、早かったね。それじゃ、行こうか」


 チヨメが呼びに来てくれたのでみんなの元に戻ると、屈強そうな男の人がいた。

 Cランク冒険者の人で、試験の担当官を快く受けてくれたようだ。

 ダンのように嫌な奴じゃなくて少しほっとしたよ。

 試験を行うのはここもギルド裏手にある訓練場のようで、僕たちはそこに移動することにした。


「――とぉ!」


「ぐああぁッ!!!」


 セラフィに手加減するように伝えたため、相手が素手なので彼女も素手で戦ったが、勝負は始まって1秒でついてしまった。

 比喩じゃなく、1秒だ。


 ――たぶん、相手の人はセラフィの動きを見ることもできなかっただろうなぁ……。


 セラフィはあっさり終わった試験に少し不完全燃焼といった感じだったけど、ギルド証を受け取ったらすっかり機嫌をよくしていた。

 とりあえず、何事もなく無事に終えて、僕たちは冒険者ギルドを後にするのだった。

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