50.願ってもない誘い
「もうすぐ王都かなー」
僕たちがへリニアの町を出発して数日、いくつかの街を過ぎて 王都近くにまできていた。
「あと2日ほどの距離かと思います」
アンジェが教えてくれる。
この旅路のご飯は、アンジェとフェルが頑張ってくれてとても充実したものになっていた。
食事で満足できるっていうのは、本当にありがたいことだ。
「おー、そっかそっか。しかしあれだね、魔物にはたまに出くわしたけど、意外にも野盗の類とかはいないもんなんだね。思ったよりは安全な旅路で安心したよ」
「姐御、そうでもないようですぜ」
「ん?」
ネオンが遠くのほうを見ながら、不穏なことを言った。
どういうことかと思いつつその方向を見てみると、
「んー? なんか……襲われてる?」
「そのようですわ」
やっぱり、安全じゃないみたいだ。
「護衛の人は5人ほどですが……野盗はその倍以上いますね」
「フェルは目がいいね。さすがにこの距離だと僕にはわからないや。っていうか、早く助けに行ったほうがよさそうだね」
僕たちは急いで野盗に襲われている馬車に向かった。
「――なんだお前たちは!?」
「ただの冒険者だよ。あんたらこそ何やってるの? まあ、この状況見れば聞くまでもないけど……一応ね?」
見た目で判断するのはよくないかもしれないけど、もろに野盗っていう風貌と抜き身の剣を見れば、誰でも同じ結論にたどり着くだろう。
「へっ、お前の考えている通りだよ。おっ、女ばっかりじゃないか。ちょうどいい、お前たち――」
「――《
「ぐは――ッ!」
僕は威力を落とした《
「お、おお、お前っ! 卑怯だぞ!!」
「卑怯? そんなのあんたらが言えることじゃないでしょ。それに、これが初めてって感じでもなさそうだし……どうせこれまで何回もやって、上手くいってるからこんなことしてるんでしょ? であれば、そんな奴ら問答無用で倒すに決まってるじゃん」
「ふ、ふざけやがって……ッ」
野盗たちは武器を構え直し、ターゲットを僕たちに切り替えた。
「さ、殺さない程度に痛めつけちゃっていいよ」
僕がそう指示を出すと、
「――どこを見ているんですか。こっちですよ」
「ぐふ――ッ」
「オラオラオラ――ッ!」
「「ぐわ――っ!」」
「――《
「「「ぐへ――ッ!」」」
みんな速攻で野盗たちを制圧してしまった。
「ぇ……わ、すみません! で、出遅れちゃいました……」
フェルは、遅れを取ってしまったことを申しわけなさそうに謝った。
「いや、気にしなくていいよ。あの3人が相手なら、誰だって遅れを取っちゃうし。少しずつ強くなっていけばいいからね」
「はい!」
僕がフェルの頭をなでながら慰めてると、
「すまん、助かったよ。俺はこの商隊の護衛パーティーでリーダーをしているエドガーだ。改めてお礼を言わせてくれ。ありがとう」
ムキムキの髭面のエドガーさんと一緒にいた他のパーティーメンバーが、揃って僕たちに頭を下げた。
「いえ、気にしないでください。たまたま僕たちも通りがかっただけなので。とりあえず、大丈夫そうで良かったです」
「ああ、おかげで助かったよ。君たちが通りかからなかったら、あの人数相手はさすがに厳しいものがあったからな」
「ところで、コレどうします?」
僕は周りで完全にノビている野盗たちを見ながら尋ねた。
「コイツラ……生きてるんだよな?」
「はい。……たぶんですけど」
殺さないようにって伝えたし、たぶん生きてるはずだ……たぶん。
「それなら、ロープに繋いで連れて行こう。このまま捨て置くという選択もありだが、報奨金ももらえるだろうしそのほうがいいだろう」
「そうですね、そうしましょうか」
エドガーさんの提案で野盗たちをロープに繋いでいると、
「エドガーさん、もう大丈夫ですの?」
馬車の中から綺麗な女性が出てきた。
輝くような金髪を少しカールさせ、くりくりとしたグリーンサファイアの大きな瞳で僕たちを見ていた。
「ええ、もう大丈夫ですよ、フランさん。こちらの通りがかりの同業者の方たちが助けに入ってくれたんでね」
「まあ、そうだったんですの! 危ないところを助けていただき感謝いたしますわ。私はモーリブ商会のフラン・モーリブと申しますわ」
フランさんはそう言って、優雅にお辞儀した。
見た目も言葉遣いも、完全にいいとこのお嬢様って感じだ。
「気になさらないでください。たまたま王都に向かう途中に通りがかっただけなので。僕はソーコといいます。彼女たちは僕のパーティーメンバーで、フェル、アンジェ、リリス、ネオンです」
「この人数の野盗を倒してしまうだなんて、みなさんとてもお強いのですわね。私たちも王都に帰るところでしたの。エドガーさん、ソーコさんたちにも護衛をお願いしてもいいかしら? そのほうがより安全だと思いますわ」
「ええ、私たちは構いませんよ。彼女たちが実力者なのは、この目でしっかり見ましたからね。一緒に護衛してくれれば頼もしいですしね」
「ということで、ソーコさん、それとパーティーメンバーのみなさん、もしよろしかったら王都までの護衛任務を受けてくださらないかしら?」
それは僕たちにとって願ってもない誘いだった。
モーリブ商会がアルゴン帝国に取引があるような規模かはわからないけど、そこから知り合いとかで紹介してもらうこともできるかもしれない。
僕は――、
「もちろんいいですよ!」
と、満面の笑顔で応じるのだった。
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