21.吸血鬼

 僕が作った創作オリジン武器の『リーベンエンデ』――これはEXRエクストラレアの素材を使用し、様々な能力を付与した僕専用のオリジナル武器なのだ。

 この黒い片刃の剣は、通常の鍛冶師スキルで作る製作武器という決められた素材で作るものとは違い、創作オリジン魔法と同様に新たに素材から自分で選んで創り出すのだ。

 EXRエクストラレアの素材を使用しているので、武器ランクも当然EXRエクストラレア


 ――ソーコが持つ唯一のEXRエクストラレア装備なのだ。


 僕のメインクラスは双剣術なので、なんとこれがもう1本ある。

 でも、付与した能力がそれぞれ違うのだ。

 1つは自身の攻撃に関するステータスを上昇させるもので、もう1つは防御に関するステータスを上昇させる。


 ――そして、それらとは別にいくつかの『特殊能力』が付与されているのだ!


 なぜ攻撃と防御の2種類かというと、それはそもそも双剣術というクラスが他と違う点にある。

 1本持ちと違い、2本の剣を持つわけだから攻撃力が高くなるのは当然だけど、双剣術はそれだけじゃない。

 通常は剣と盾を持つ剣士がタンクのように戦うけど、双剣は2本の剣で防御することができるため、タンクのような役割もこなせるのだ。

 そういうわけで、それぞれに攻撃重視、防御重視と分けて能力を付与されているのだ。

 まったくもって、恐ろしく素晴らしい武器だ。

 ちなみに、今僕が持ってるのは防御重視のほうだけど、これを選んだ意味は特にない。

 別にどっちを持ってても、相手がマミーレベルなら倒すという結果に変わりはないからね。


「ほっ――」


 リーベンエンデを軽く振るい、僕に襲い掛かろうと伸ばしたマミーの腕を斬り落とす。


「よっと」


 次に頭、そこからもう1本の腕、足へと華麗に斬り刻む。

 特にスキルを使うでもなく普通に剣を振り、たったこれだけで1体のマミーを無力化した。

 隣を見ると、アンジェもグローブをはめた手で殴り倒していた。

 いくらレベルの低い僕でも、この剣があれば取るに足らない相手だ。


「どうでしょ。こんなんでいいです?」


 後ろを振り返ると、セシールは腕を組みながら口元を引く付かせ、その後ろの面々も口をあんぐりと開けていた。


「ほ、ほう、やるじゃないか……なな、中々速いな。うむ、それに武器もなかなかのものじゃないか? これなら君達に道中のサポートは任せてもいいだろう、うん」


 ――なんかめっちゃ吃ってるし。ま、少しは実力を示せたようだし、ちょっといい気分……若干上から目線なのが癪だけど。


 道中、古城の中で出会う魔物はそれなりに強いものが多かった。

 これでは、生半可な冒険者だと逃げ帰るのがやっとという意味もわかる。

 セシールは自信満々なだけあって、まあまあ無難にこなしていた……まあまあ、ね。

 お姉さん方は補助に徹しているので、セシールの脇を僕とアンジェでカバーして進む。

 フェルはというと、戦闘に参加することはなく、別の役目が主だった。


「こ、ここに罠がありますっ」


「フンッ、もっと早く言いたまえ」


「は、はい、すみません……」


 そう、フェルは罠を見つけたり宝箱を解錠していた。

 どうやらこのパーティーでの彼女は、そういうポジションらしい。

 セシールは『スキルが有用』ってことでパーティーに置いているようだ。


 ――《野生の嗅覚ワイルドセンス》:本能的に罠の位置がわかったり、鍵の解錠にも長けている。


 いわゆる『種族スキル』ってやつだ。

 彼女は獣人種だから、生まれ持ったスキルなのだろう。

 獣人だからといってみんながみんな持っているわけでもないし、ダンジョンにはかなり有用なスキルだから、普通ならもっと重宝されるはずなんだけどなぁ。


「ふぅ、ようやくここまで来たか。――恐らくこの先に、この古城の主がいるということだろう。ここまで大したことなかったし、思ったより簡単に終わりそうだな」


「セシール様の強さがあればこそです! 思わずその剣捌きに見惚れちゃいました――!」


「そうですわ。この先もセシール様の手に掛かればもう落ちたも同然、さっさと終わらせましょう。街に戻ってお身体お流ししますわ」


 くそぅ、なんて羨ましい……とはいっても、この先はそう簡単に終わらないと思うんだけどなー。

 ていうか、ここまでほとんどの魔物を僕とアンジェが倒してたと思うんだけど。

 まあそれは置いとくとして、1つ気掛かりなことがあるんだよね。

 ここまで順調に進んでるんだけど、むしろ順調気がする。

 普通なら、そろそろ強い敵が出てきてもおかしくないはず。

 そして、おあつらえ向きにも目の前には何かいそうな扉。


 ――ここが限界だなぁ。


「あのー」


「む? なんだい?」


「この先なんですけど、多分結構強い敵がいると思うんですよね。ここで引き返してもいいんじゃないかなー、と。僕達の依頼は調査が主ですし」


 僕の言葉に、一同きょとんとした顔をしている。

 もしこの先に待ち受けてるのがリリスレベルに強い敵なら、とても彼らを守り切れるとは言えない。

 まあ逆に言えば、それ以下なら大丈夫だろうけど。


「フッ……」


「ハァ」


「――がっかりね」


 イラッ。

 あからさまに小馬鹿にする態度に、さすがの僕もちょっとムカついたぞ。

 一時的とはいえ、パーティーを組んでるから警告してあげたのに!


「ちょっと強いっていっても、所詮はガキね。セシール様がいるのに戦う前から逃げるなんて……馬鹿じゃないの?」


「少しでも期待したのが間違いだったわ。あなたみたいな臆病者、『輝く星々シャイニングスターズ』に相応しくないわ」


 ぐぬぬぬぬ――っ!

 人が親切に教えてやったというのに!


「ソーコ様」


「ん?」


「少しわからせてあげましょう。ええ、そうしましょう」


 あわわわわっ……! 

 笑顔なのに怖ッ!

 怖いよアンジェ!


「お、落ち着いて――しょうがない、とりあえずやるだけやってみよう。やばそうなら無理やり外に放り出すから」


「ソーコ様がそう言うのなら……」


 ふぅ……まったく、彼らには感謝してほしいね!


「フッ、恐いのなら後ろで僕の勇姿を見ているがいい。ここまで来て敵を見ずに逃げるなんて、この僕にはありえないのだよ」


 アーソウデスカー。

 もう好きにしたらいいよ、フンだ。


「では――行くぞ!」


「「はい、セシール様!」」


 黒く大きな扉を、セシールはゆっくりと両手で押し開けた。

 中は薄暗く、奥まではっきりと見えない。

 だけど、すぐに部屋の中にある沢山の蝋燭の火が灯り始めた。


 ――結構……いや、かなり広い。


 これはもはや部屋というか大広間だな。

 まさに戦う場所にはな空間だ。

 部屋の中央を見ると、


 ――なにかいる。


 小さなシルエットのそれは、青白い肌、金髪に血のような赤い瞳――ああ、吸血鬼だ。


「また、侵入者かい? 最近、やけに多くて困るな」


 少年のような吸血鬼は僕達を一瞥すると、嘆息混じりにそう吐き捨てた。

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