19.ケモミミ少女

 僕に話し掛けてきた男は、金髪にオッドアイという、女の人なら一目惚れしそうなくらいイケメンだった。


 ――まあ、僕は女の人何とも思わないけどね。


 いや、なんなら嫉妬から嫌悪感のほうが大きいね。

 だってさ、後ろに女性を3人も引き連れてるんだもの。

 ラノベの主人公かっての。

 僕がイケメンの「依頼に興味があるのか?」という質問に、「はあ、そうですけど……」とそっけなく返すと、


「ふむ、君は実に運がいい! Bランクホーム『輝く星々シャイニングスターズ』のマスターであるこの僕――『流星』のセシールのパーティーに入れてあげよ――」


「嫌です」


「うぅん!? ま、まあ、落ち着きたまえ。君達のことは聞いているぞ。どうやら、Cランクの冒険者を倒したそうじゃないか! 中々に有望だ。僕達と一時的に組もうじゃな――」


「嫌です」


「だから早いッ!!」


 いきなりナンパされた。

 いったい何なんだコイツは。

 やたらキザったらしくて、ちょっとウザいし……冒険者ギルドへ来ると、毎回変なのに絡まれて困るなあ。


「いやそんなこと言われましても……。僕達は、今のところ誰かと組むつもりないんです」


「そうはいっても、君達は2人ともFランクだろう? それでは依頼を受けることは出来ないはずだ。いくらCランクを倒したといっても、始まりはFランクだからな。僕もそうだったからね。フッ」


 ――さり気なく自慢かい!


 まあでも、実際この男『セシール』の言う通りでもある。

 今の僕達2人だけじゃ依頼を受けれないから、どこか条件に合うパーティーに入れてもらうか、Cランク以上の冒険者を誰か1人入れなきゃいけない。

 正直どっちも嫌だけど、この依頼を受けたいなら方法はそれしかない。


「むむむ……」


「本来ならホーム内でパーティーを結成するべきだろうが、僕は実力さえあればメンバーでなくとも厭わない広い心を持ってるからね。それに――」


 む、なんだ?

 セシールが僕になんだか熱い視線を――、


「フッ……君は僕の隣に立つ資格を持っていそうだ」


「――ッ!!」


 うおぉ……背中がゾゾゾって来た! 

 なんだ、コイツ!?

 やばいやばいやばい、恐怖でしかないんだけど!! 

 コイツ、あわよくば僕のこと狙ってるの!?

 冗談じゃない、こんなヤツとはさっさと離れなきゃ――、


「ん?」


 そこで、セシールの後ろにいる1人の少女に目が留まる。


「む、どうかしたかい? ……ああ、のことか」


 セシールはさっきまでの軽薄そうな笑みを消し、コレと呼んだ少女を冷めた目で見た。

 少女は人とは違う大きな耳をぴくりとさせ、おどおどした目をしている。

 獣人だ。

 栗色の髪に犬っぽいモフモフとした耳がぴょこんと飛び出ていた。

 リアルのケモミミ……さ、触ってみたい。


「フンッ、勘違いしないでくれたまえ。コレはホームの一員ではない。だがスキルが有用でね……借金の返済代わりに荷物持ちとして使ってやってるのさ」


 なんでかわからないけど、セシールは敵視するかのようにケモミミ少女をコレ呼ばわりしてる。

 こんなに可愛いのに。


「そんなことより、僕と一緒に行ってみるかい? 言っとくけど、僕が誘うだなんて滅多にないことだよ?」


「そうよ! セシール様に声を掛けてもらえるなんて光栄な事なのに、それを断るだなんて……ッ」


「セシール様、こんな者どもよりも私達の方が役に立ちますわ。これ以上、人員を増やさなくても問題ありませんわ」


 セシールの後ろにいた取り巻きの女2人が、全力で僕達に敵意を向けてくる。

 こんな美人なのにこんな恐い顔するなんて――女の人って恐いなぁ、ほんと。


「もちろん2人のことは最も信頼しているさ。でも、彼女達にも興味があってね。さあ、どうだい? もちろん一緒に行くだろう? なんなら、働き次第ではホームに加入することも考えてあげよう」


 ほんと、いっそ清々しいくらい自信満々だなあ。

 こっちからすればホームに入る気なんてさらさらないし、口車に乗るみたいで少し癪だけど、依頼は受けてみたいのが本音。

 しかたない、嫌々だけどパーティーを組んで利用させてもらおう。

 それに――ケモミミ少女のことも気になるしね。


「ホームは別にいいです。でも確かにあなたの言う通り、僕達だけでは依頼を受けることは出来ないので、一時的にパーティーを組みましょう。あくまで一時的に」


「んなっ!? あんた、何様のつもりよ!?」


「……生意気ですわね。身の程を弁えなさい」


 やれやれ、むしろそっちが何様だというんだ。

 まったく、どこまでも上から来るタイプの人達だなあ。


「ミラ、カーラ、やめるんだ。フッ、まあいいだろう」


「セシール様がそう言うのなら……」


「……わかりましたわ」


 ミラとカーラと呼ばれた美人達は、僕のことを睨みつつも一先ずは引き下がってくれた。


「――では明日の朝、またここへ来てくれ」


 そう言って、セシール達はギルドを出て行った。

 ふう、面倒そうな相手だったけど、これでなんとか依頼は受けれる。

 別れ際、獣人の少女が何か言いたげにこっちをチラチラしてたのが少し気掛かりだけど。


「ソーコ様」


「ん?」


 アンジェを見ると、少し困った顔でちらりと受付カウンターの方に目を向けた。

 その目線を追うと、エリーさんが心配そうにこっちを見ていた。

 周りを見てみると、ちらちらとこっちを窺ってヒソヒソしてる人が何人かいる。


 ――はぁ……あぁもう、これも全部あのキザ男のせいだ!


「ソーコちゃん、アンジェちゃん……」


「エリーさん、こんにちは」


「『輝く星々シャイニングスターズ』のセシールさんに声を掛けられてたみたいだけど、大丈夫だった? 何か少し揉めてるようにも見えたけど――」


「いえ、大丈夫です。心配掛けちゃってすみません。一時的にですけど、彼らとパーティーを組んでこの依頼を受けることにしたんです」


 僕が古城の依頼を指差すと、エリーさんが驚いた顔をした。


「この依頼!? これはBランク以上が推奨だよ!? いくら『輝く星々シャイニングスターズ』とパーティーを組むって言ったって――でも、彼らも何でソーコちゃん達に声掛けたんだろ?」


 エリーさんの周りに『?』が飛んでるのが見えそうなくらい首を傾げてる。

 まあそうだよね、普通はBランクが最低ランクのFランクを誘うなんてありえないと僕も思う。

 とてもじゃないけど、『セシールに狙われてます!』だなんて、エリーさんに言いたくない。

 そんな事実、口に出すのも憚られるレベルだ。


「なんかセシールも試験のときに相手の試験管を倒したみたいで……それで親近感でも持たれたんですかねえ」


 適当に言って誤魔化す。

 アイツの考えなんてどうでもいいしね。


「ああ、そういえばそんな話聞いたことあるね。なるほどね~そういうことか。でもね、ソーコちゃん、アンジェちゃん」


「――っ」


 うぉ!?

 エリーさんが、ずずいと顔を近付け――というか近過ぎっ!

 が、眼前にエリーさんの顔が――!


「あの人すごい女ったらしって言われてて、まさか引っ掛からないとは思うけど……2人ともすっごい可愛いんだから、ちゃんと自分の身は守らなきゃだめだよ!」


「は、はい……」


 あわわわ……!

 こんな美人の顔を間近で見るなんて初めてだから、返事が上擦ってしまった。


「あれ? 顔がすごく赤くなってるけど大丈夫? もしかして熱でもあるの?」


「いい、いえ大丈夫です! とりあえず話もまとまったし、明日の準備もあるんで今日はこの辺で! 行こう、アンジェ!」


「……はい、ソーコ様」


 なぜかちょっと不満そうなアンジェを連れ、僕は飛び出る勢いで冒険者ギルドを後にしたのだった。

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