12 美少年のために

「希、おはよ!」

「莉央……」

 重い足を引きずるようにして教室に入ると、わたしの席に、莉央が我が物顔で座っていた。

 莉央はいつも誰かしらと一緒にいることが多い。特に、村上さんと佐藤さんとは常に一緒にいたような──でも、莉央は一人でわたしの席に座っていた。

 村上さんと佐藤さんは……と、教室を見渡す。

 教室にはいないのかな、とも思ったけれど、普通にいた。

 窓際のところで、莉央を睨みつけながら、二人でヒソヒソ話をしている。

 重々しい空気の元グループたちと、ニコニコとわたしを迎える莉央。

 ……そっか。

 莉央、頑張ったんだね……。

 わたしは目を細める。莉央は首をかしげた。

「ん? 寝不足? クマすごいよ?」

「あ、えへへ……。昨日ちょっと眠れなくて……」

 そういえば、莉央って朝陽くんのクマにも気づいていたことあったっけ……。

 さすがだなぁ。

「そっか。今日は眠れるといいね」

「え?」

 思わず聞き返してしまった。

 莉央はキョトンとして、「今日は眠れるといいね」ともう一度繰り返してくれた。聞き取れなかったと思ったみたい。

 莉央のセリフが聞き取れなかったわけじゃない。

 そんなこと言われると思ってなかったから、驚いたのだ。

 何かできなかったら「やりなさい」って言われるのが当たり前だったから。

 何の事情も話していない、「悩みがあって」とか「考え事してて」とか、眠れなかった理由を一ミリも口に出していないのに……。

 莉央って、気遣いの天才なの?

「ありがとう……」

「うん、ところでさ……」

 莉央はガタンと立ち上がって、肩を組んできた。

 口元を耳に寄せてくる──ナイショ話?

「希に、言いたいことがあって」

 い、言いたいこと……!?

 不穏な考えが脳内を駆け巡ったけれど、莉央のテンションを見る限り、悪い話ではなさそうだ。

 わたしは意を決して、「なに?」と聞き返した。

「朝陽はアンタのこと好きみたいだけど──ウチだって、まだ諦めてないから」

 莉央はパッと離れて、ひひっといたずらっ子みたいに笑った。

 彼女の笑顔に、心臓のあたりが、ギュウッと締め付けられる。

 ……全部白状してしまいたい。

 もう、魔法は解いたから、朝陽くんはわたしのこと好きじゃないよって。

 でも、そんなこと、言えるわけない。

 魔法なんて信じてもらえるかわからないし、なにより──わたしが朝陽くんに魔法をかけてもらって、ズルをしていたって莉央にバレるのが怖い。

 ──せっかくできた、友達なのに。

「いやいや、朝陽くんに告白されたわけじゃないから」

 わたしは誤魔化した。

「え〜? そうなの〜? じゃあ、ウチにも全然チャンスあるじゃん!」

 莉央はポジティブだ。

 魔法なんてズルなしで、わたしと莉央、どっちが魅力的かと問われれば、圧倒的に莉央だろう。

 でも、わたしも、朝陽くんを諦めるわけにはいかない。

 ──レンくんのために。

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