光る家

達見ゆう

第0話 ある“フィクション”を聞かされる

「あっつい、暑すぎる。東京より涼しいと期待していたのに」

 大翔ひろとは寝そべりながらスマホをいじりつつぼやいた。夏休みなので曾祖父の家に来ていたが、曾祖母が冷え性なのであまりエアコンを使いたがらない。エアコンの効いた部屋で涼んでいるが、それでもトイレなどで廊下に出ると蒸し暑さが攻めてくる。

「地球、どんだけ沸騰するんだよ……」

「まあ、そうぼやくな。東京はもっと暑いぞ。最高気温が三十七度だと。こっちは三十二度だぞ」

 父の大輝だいきが大翔をなだめるが大翔の不満は収まらない。

「そんなの大して変わらないよ。母ちゃんは友梨香おばさんと葉月さんと一緒にさっさと図書館へ行ったから僕もついていけば良かったかな」

「友梨佳おばさんについていくと鉱石採取で山に行かされるぞ」

「山のてっぺんの方が涼しい気がしてきた」

「てっぺんに目当ての石があるとは限らないからな。地味にあちこち地面を見たり、時にはハンマーを叩いて結構肉体労働だな」

「えーと、やっぱり図書館で良かった。怪談とか怖い本でも読んでさ。そういえば父ちゃんも子ども時代にここによく来ていたのでしょ? この辺に伝わる怪談とか無いの?」

「怖い話か……。父さんの話で良ければ聞くか? それに中学生のお前には少し早いが、ちゃんと話したかったことがある。母さんもいないから今のうちが良いかな」

「な、何? そんなに改まって。まさか、父ちゃん昔、何か悪いことしていたの?」

 父の態度に大翔は寝そべってはいけないようで慌てて起き上がった。スマホゲームのバトルは途中であったが、素材集めだから後回しでもいい。

「悪いことではないが、これから話すことは母さんには話していない。ひいじいちゃん達や陽太おじさん達も一部しか知らないことだ」

「な、なんだか怖い話なのか、家庭の重い話なのかどっちなんだろ?」

 大翔の疑問には答えずに父は淡々と話を続ける。

「父さんがまだ中学三年生の時の話だ。あの頃は高校受験や人生の転換期ともいえる年でもあった。その人生の岐路に立つきっかけの話だ」

「もったいぶらないで、早く教えてよ」

 父は真顔のまま、大翔に確認を取った。

「一つ約束してくれ。ひいじいちゃん達、友人に話さないでくれ。もちろんSNSにも書くな。ある人のために心にしまっておきたい。

 しかし、父さんがお前をじいちゃんとばあちゃんと会わせていない理由も含まれるからお前にだけは話しておきたい。そうだな、とあるフィクションということにするか」

 祖父母の話と聞いて、大翔は身構えた。生まれてからずっと会ったことのない父方の祖父母。聞こうとすると父は不機嫌になり、母は困ったような顔をして『お父さんに許可もらわないと話せないから』とはぐらされ続けた。これからの話にそれが含まれるのか。

「わ、わかった」

 思ったよりも重たい話のようだが、話し方からして父が悪いことをしたわけでは無さそうだ。姿勢を正して聞くことにした。

「いいか、これから話すことはあくまでフィクションだ。父さんの両親、つまりお前の祖父母は仲が悪くてずっと喧嘩ばかりしていた」


 父はゆっくりと語り始めた。

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