第44話 出現【妖刀・喰血斬】
何者かに持ち去られ行方知れずとなった妖刀喰血斬、その探索のために都市を書こう瘴気に満ちた伏魔の大自然【魑魅魍魎の山々】へと入ったレナ達。
そこで出迎えるように現れ、山の洗礼を与えんとシカの魔物に襲われるが風紀委員長朱鳳アマネによって、その首を跳ね落とされた。
レナは死にゆくシカの魔物を見下ろし、ため息をつきながら言う。
「ミスったなぁ、この程度ならわざわざ式神の名前呼ばんでもよかったわ」
「流石ですね、朱鳳風紀委員長」
「
「どうしたのレナ?」
レナは黙々とシカの死骸を観察しながら、凄まじ速筆でスケッチを取っていた。
「魔物の死骸の絵、どうしてそんな絵を?」
「あぁ、いや、目の前で生き物が殺される瞬間を初めて見たなぁって、そう思ったら、つい」
「殺される瞬間ですか、それを書いて、レナはどうするの?」
「どうするって漫画に活かすんですよ、要はネタ集めです」
「魔物の死を活かす? 漫画で?」
「漫画だからこそですよ! 私は生死に関するシーンには明確なリアリティを持たせたいんです」
すると、レナは何か火がついたように饒舌に自分の漫画に対する考え方をカレンに語る。
「私が好きな百合っていうジャンルは、ただ女子同士が好き合って結ばれる。そんな展開ばかりじゃないんですよ。不条理だったり、憎み合ったり、同性愛者が感じてる社会的な抑圧だったり、たとえ内容がファンタジーでも、人が題材な以上はそこに人間同士の複雑な関係っていう
「その時、死を目の当たりにしたキャラクターってどう思うでしょうか? 怖いのか、責任感じるとか、嬉しいとか、生き死にのシーンを描くには作家の私がそれらをハッキリと心で理解しないといけない」
「だから、私は書きます。私が見聞きした刺激を漫画を通して読者に伝えたいから」
スケッチを書き終えてスケッチブックを閉じるとレナはカレンの目を見て真っ直ぐ自ら肝に銘じている漫画の心得を口にする。
「
釘を刺すようだが、レナ達がいるのは危険な魔物がそこら中にいる危険地帯だ。
どう考えてもこの場で話す事ではないが、レナは止まらなかったようでその思いを発露させた。
「あっ」と言って気づいた時には空気の読めない態度をとってしまった事に少し気恥ずかしさを感じるレナ。
しかし、レナの長ったらしい話をカレンはしっかりと聞いていたようで、関心したように深く頷いて言う。
「……少し驚いたわ、漫画ってそんなに深く考えて書くものなのね」
少し間が開く、そしてカレンはこんな事を口にした。
「レナ、戻ったら貴方の漫画を読ませてちょうだい、少し興味が沸いたわ」
そう言ったカレン表情は、彼女は本当に自分の姉なのではないか、そう錯覚させられてしまいそうなほど優しく、暖かい微笑み。
「え、いいんすか? 自分で言うのもアレですけどメッチャ卑猥ですよ?」
「知ってる。アナタの事は調べたって前に言ったでしょ、それにイユリからも聞いてるんだから、それに……」
カレンはレナの頭の上にポンと手を置くと、毛並みに沿って優しく撫でながら言う。
「好きな物には真摯でいるそのスタンス、私はアナタのそういう所が好きよレナ」
「……ッ、はい、ありがとうございます!」
そんな姉妹の微笑ましい
「ところで、学園長先生、ウチらの方針はこのまま喰血斬の探索、でよろしいか?」
「いえ、少し予定を変更して、ひとまずは探索拠点となる知人の家を目指します」
「知人の家? こんな所に住んでる奴なんかいんのか?」
アトラは疑問をそのままシラユリにぶつける。
「はい、普段はこの森を管理役として用務員を勤めている妖怪がいます。彼女の住処なら余程の事でも襲われる事はないでしょう」
「ほぉ、そない強いんかその妖怪、いっぺんぶった斬ってみたいわぁ」
「お前、そう言うとこあるよな」
そして、シラユリの方針通り、予定を変更して拠点となる妖怪の住居を目指して移動を開始した。
◇
「うぅ、今度は湿っぽいの、汗ばむの」
「さっきは吹雪くは、次は大雨だわ、天気変わりすぎじゃありませんココ」
歩き続けて2時間ほど、一同はこの山の洗礼を受けて体力を徐々に削られていた。
少し進めばまるで気まぐれのように天気が変わる山、突然寒波が押し寄せたり、寒さでからが冷えた時には、突然真夏のような熱射に襲われ寒暖差責めに遭ったりしていた。
その予測不能な天気の変化は、明確な脅威としてレナ達に牙を剥いている。
未熟なレナやテルハはもうヘトヘト、しかし、三年生三人とシラユリは顔色ひとつ変えず黙々と進み続けている。
そして、今度は春先程度の暖かさに戻った時のこと、突然、森の底から地響きのような揺れを感じる。
「うぉビックリした。何、地震?」
「というより、足音っぽいなの、ドシンドシンって鳴ってるの」
「ッ……下がりなさい!」
そう言ってシラユリが生徒達を静止すると、森の奥から木々を薙ぎ倒しながら何かがものすごいスピードで接近して来た。
現れたのは日本国内でも度々騒がれる肉食の猛獣クマである。しかし。
「あれって、クマの魔物、ってかデカ!」
現れたクマの魔物、その体躯は余りにも大きく、目測だけでもその巨体はゾウにも迫るものだった。
巨体故に恐ろしく、そこから感じ取れる圧倒的なプレッシャーは、生物の本能から生命の危機を訴える。
シカの魔物とは一線を画す強さであると言う事は一目瞭然。
しかし、ここでアトラはクマの魔物に起きている異変に気づく。
「まて、様子が変だ」
クマの魔物は一見すると見境なく暴れているように見える。
しかし、クマの姿をよくよく見てみると体毛の色に隠れて見えずらいが、最近つけられたであろう傷が全身にいくつもついている。
そしてその動きは、何かにもがいているようにも見える。
「何かに苦しんでいるの?」
テルハがそう指摘した瞬間、クマの魔獣は突如として、ピタリ、と動きが止まる。
悶え苦しむクマ魔獣の背中から突如───
───ブシュッ!!
と音を立てながら、刀の刀身が
その刃は背中の肉をギコギコとノコギリのように切り裂いて行く。
「うおおおァァァァ!!!」
次の瞬間、肉の切り口ををこじ開けて雄叫びをあげて血飛沫と共に現れたのは、全身血にまみれの見るからに危ない男。
その男は高らかに笑い、天に刀を掲げながら言う。
「ギャーハッハッハッァ、熊の怪獣討ち取ったりぃぃぃぃ!!」
男の姿を目にした一同は電流でもほと走るような緊張に襲われる。
目に入ったのは、男から放たれるまるで火山が噴火したかのような荒れ狂う膨大な霊力。
シカよりも強いであろうクマ、しかしそのクマですら遠く及ばない強烈なプレッシャーを男から感じられた。
レナやテルハはその立ち姿を見ているだけで体が焼き尽くされたと錯覚してしまう。
男を危険と判断した一同は、すかさず臨戦体制に移行する。
さしもの三年生とその顔からは冷や汗が滲み出ている。
「なんですの、あのアホみたいな霊力、怪獣はそっちなんと違います?」
「テルハ、あいつの考えが読めるか?」
「ごめんなさいアトラお姉様、あの人、心の声が聞こえない、わかんないの……」
「ッ! ちょっと、もしかしてアレ!」
レナが指差した先、それは男の手に握られていた一振りの業物だった。
それをこの場にいる全員は知っていた。
その名を先に口に出したのはカレン。
「そんな、間違いない、アレは喰血斬!? では、まさかあの男が!」
シラユリは力強い歩みで前に出る。生徒達を守るように。
「何者ですか、ここは代々月之輪家が管理している土地、勝手に踏み入る事は許されませんよ!」
シラユリの臆することなく毅然とした態度で男にその正体を問いただした。
その声を聞いて気づいたのか、男は間が抜けたキョトンとした表情でシラユリの方を向く。
すると、男は敵意も感じられたないような
「お母様、カレンちゃん、何してるんですかこんな所で」
「私がお母様ですって、一体何を?」
シラユリは見覚えのないその男が突然自分を母と呼んだ事で警戒をより一層強める。
男は続けて言った。
「え? やだなぁ分からないんですか? 僕ですよ、僕」
男は足元から熊の毛皮を引きちぎるとタオル代わりに全身に浴びた血をぬぐった。
そうして現れたのは、さながら古代ギリシャやローマの戦士の彫刻を想起させるような見事な肉体美を持つ爽やかワイルドな青年。
その者が名乗るその名は───
「あなたの息子、月之輪リアムです!」
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