第40話 ファミレス(エマ)
結局、エマと健人のアニソン対決は実施されることはなく、ジャイ○ンリサイタルよろしく、遠藤のほぼ一人舞台で終了した。
一応、健人がソファーの背もたれに腕を回し、肩を組んでいるかのように見せかけたが、歌に集中していた遠藤に見せつけられたのかは謎だ。
で、何故か今はカラオケ後にファミレスに来ている。
まるで仲良しな友達みたいな流れだが、全くそんなことはない。
「健人はよ、キララのどこが良くて付き合ってんだよ」
エマが健人呼びするからか、いつの間にか皆が「健人」呼びになっていた。解せない。
そして、同様にキララのことも名前呼びになっていた。杏を除いてだが。
「え?内面だけど」
「アハハハ、キララってば彼氏にディスられてるよ」
美樹がテーブルをバンバン叩く。
「え?違うって。見た目も可愛くて好きだけど、やっぱり内面かなって」
「あー、俺はズバリ見た目だったけどな。化粧っけないのに、そこそこ可愛いって、絶対に化粧で盛ったら最強だろ。男に合わせていい女に変身してくとか、その伸び代にグッとこねえ?」
自分の彼女の目の前で、何を言ってくれちゃっているのか、杏のエマを見る目がさらに吊り上がっていく。
「いや、遠藤さんに言われたからって、化粧したり服装変えたりとかあり得ないし」
「だよな。おまえはそんな奴だったよ。好きな奴の為に綺麗になりたいとか、可愛いって思われたいとかねぇの?」
好きな奴……エドガーに良く思われたくて、確かに化粧したり、勘違いだったけどエドガーが好きそうなドレス着たりしたな。フリフリドレスなんか、普通なら絶対に着ないのに。
「いや、本当に好きな相手にならするな。うん、無茶苦茶する」
「ウワッ、まじムカつく。俺ん時は、自分のスタイル絶対変えなかった癖によ」
「ヒデヒデ、そういうの私には全然言わないじゃん」
「杏は自分磨きし過ぎで、伸び代ない感じなんじゃないの」
(友達というか、親友的な立ち位置じゃないのかな?美樹ちゃんの言葉尻に棘があるような)
馬鹿にするような美樹の口調に、杏はカッとして言い返す。
「何よ!美樹、ヒデヒデの話になると、いつもなんか突っかかる言い方するよね。そりゃ、ヒデヒデはかっこいいかもしれないけど、私の彼氏なんだからね」
「かっこいいかどうかは、個人の主観じゃん。ちなみに私は、遠藤先輩みたいなマッチョより、健人みたいにスッとしてる方がいいけど」
(なんか、こっちに飛び火してきたよ)
健人は聞こえないふりをしているし、遠藤はスマホをいじりだしてシラッとした雰囲気が流れる。
「だいたいね、美樹はいつも私の真似ばっかしてるじゃん。コスメも髪型も。ついでに私の彼氏も欲しくなったんじゃないの」
「はあ?私は私で研究してるんだけど。それ言うなら、そのバッグは私の真似したよね」
「そんな訳ないでしょ。それに、何?研究って?美樹って大学デビュー?コナレ感がないっていうか、無理してる感満載でなんか笑えるんだけど。ヒデヒデもそう思わない?」
遠藤はチラリと杏を見ると、興味なさげにまたスマホをいじる。
さっきまでのジャイ○ンリサイタルでは、ノリノリで場を仕切っていたのに、自分に興味がないことには一切無視だ。
エマは無性に腹が立ってきた。エマは仁王立ちになると、腕組みしてまず遠藤を睨みつけた。
「遠藤さん、あなた発言が無神経過ぎ。今の彼女の前でさっきみたいな会話は最低だよ。私の彼氏にも失礼だ。あなたの変なアプローチのせいで心底迷惑したし、意味わかんない理想押し付けられても迷惑この上ない」
「お……おう」
エマのきっぱりとした否定の言葉に、いつもは俺様な遠藤も毒気を抜かれたようにポカンとしている。
次に美樹に身体ごと視線を向ける。
「宝条さん、小鳥遊さんと喧嘩したいなら、二人の時にして。あなたが小鳥遊さんに対抗してんのか、または別の理由があるのかわかんないけど、今日は三人でカラオケが嫌だから私達巻き込んだだけでしょ。そういうの迷惑」
「あ、うん。いや、そんな理由じゃ……」
エマや杏には、エマに彼氏がいるところを遠藤に見せつけて……なんて話していたが、ただ単に元カレが杏とイチャついているところを、部外者として見たくなかった為、エマを巻き込んだに過ぎなかった。それを真っ向から指摘され、美樹は杏と言い合っていた時の勢いが急に萎んでしまう。
「小鳥遊さん……はいいや」
「いいのかよ!」
「だって、私がなんか言っても聞く耳持たないじゃん。私、聖女様みたいに優しくないからさ、聞く耳持たない人にお説教してあげるほど優しくないの。ただね、
「おま……相変わらず容赦ないな」
遠藤は、ズーンと沈み込んでしまう。
いつ向こうと入れ替わるかわからない(エマは予想の期日が過ぎても、いまだに戻れると信じていた)から、面倒臭い相手は叩いておかないと、もし聖女エマがこっちへ来ても対応できるとも思えなかったからだ。
「やだぁ、相良さんになんかヒデヒデを取られるとか思ってないし、マジ不愉快。ねぇ、ヒデヒデ帰ろ」
杏が甘えたように遠藤の袖を引っ張るが、遠藤は面倒くさそうに振り払う。
「まだコーヒー飲み終わってねぇし、今日はおまえの相手する気分じゃねぇよ。帰りたいなら勝手に帰れば」
「酷い……」
杏はショックを受けたフリをして、涙をポロリと溢す。あまりにもわざとらしい涙に、女優になれるのでは?と変な感心をしてしまう。
杏はバッグを掴み、席を立ちファミレスから出て行ってしまった。
「あ……、お会計してないよ、小鳥遊さん」
杏の夕飯分とドリンクバー代が未払いだった。
「はぁ、俺があいつの払う」
「まぁ妥当だよね。彼女なんだから」
「遠藤先輩は、なんで杏と付き合ってるの?それこそ、キララみたいなのがタイプなら真逆じゃん」
(だから!なぜそこに私を出すかな。健人が見るからに落ち込むから止めて欲しい)
「告ってきた中で一番可愛かったから」
「最低だな」
エマの冷ややかな視線に、遠藤はブスったれて反論する。
「そういうキララだってよ、俺と付き合ったのは、身体だけだろ。おまえ、会ってた時、俺の顔ほとんど見なかったよな」
「人を痴女扱いするな。入りが筋肉でも、中身が良ければもっと好きになるでしょ。それに、私は別に筋肉だけが好きな訳じゃないよ。タイプの顔だってあるし」
「どんなだよ」
「どちらかというと眉間に皺寄せてるような厳つい顔」
美樹がまじまじと健人を見る。
「健人って、キララの趣味の真逆行くんだね。そんだけ中身がいいってこと?」
「あー!そう!!そうなの」
(そうだ。彼氏は健人なのに、頭ではエドガーを思い浮かべて話していたよ)
「健人だけは、タイプとか関係なく(友達として)好きになった初めての人だから」
嘘ではない。恋愛感情はこれっぽっちもないが、友情はバリバリ育った。あっちの世界のことを唯一話せる相手だし、好きな人と離れ離れになったという境遇を共有できるということが、一番大きいかもしれない。
「惚気かよ……、ウゼー。別に好きな奴もいなきゃ、誰が相手でも一緒じゃん。そう思ったから色んな奴と付き合ったんだけどよ、何故か俺に告ってくる奴って杏タイプばっかなんだよな。したらさ、そん中でも一番胸がデカイとか、一番可愛い奴選ぶのが男だと思うだろ?!な、健人」
「いや、僕、告白されたことないからわからないよ。キララが初彼女だし。でも僕は、好きだって思える娘じゃなきゃ付き合わないかな」
「え?キララが初めて?!初めての彼女ってなんか特別感あるよね。……遠藤先輩は初カノ、覚えてます?」
(それって、自分だよね?もしかして、遠藤さんに未練があるとか?)
「初カノ……」
遠藤は遠い所を見るように目を細める。
「あんま覚えてねぇな。でも、キララと似てたぜ。今頃はすげー美人になってたりしてな」
あなたの斜め前に座ってますよとも言えず、曖昧に笑うしかない。美樹は覚えていないと言われ、ご機嫌斜め気味だ。
「なんだ、遠藤さんのタイプって、キララじゃなくて、その初めての彼女なんじゃないですか?」
健人のさり気ない一言に、遠藤はキョトンとし、美樹はブワッと赤くなった。
「……そう言われるとそうなのか?」
その後しばらくして、遠藤と杏は破局を迎えたが、遠藤がエマにウザ絡みしたのはあの日だけで、遠藤と別れた杏は次のマッチョをハントすることが忙しく、エマのことは徹底無視を決め込んだ。
杏と美樹の仲も最悪になったようだが、化粧はそのまま、髪の毛をバッサリ切った美樹は、「最近、遠藤先輩に纏わりつかれててウザイんだよね」と、何やら嬉しそうに報告してくれた。
そして年も変わり、大学生ならではの長い春休みに突入した頃、それは突然起こった。
★☆★第五章 完★☆★
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