「流架!」

「大丈夫か……?」

「ゴホゴホ……ッ。ああ、何とかな……」

咳き込みながらも立ち上がり、流架はラミアを睨みつけた。

「あらぁ~まだ立てるの? しぶといわね。でも、これでおしまいよ」

ラミアは海から巨大な水柱を出現させ流架達目掛け放ってきたその時───


『───手をかざせ』


ズクン


脳内に響く謎の声が聞こえたと同時に、右太ももから火傷を負ったかのような鋭い痛みが全身に走る。


「っつぅ……だ、誰だ?」


『いいから手をかざすんだ』


「えっと、こうか?」


この間聞こえた謎の声とはまた違う声に導かれるように流架は札をかかげ、ラミアに向かって手をかざすと、つむじ風が巻き上がると同時に銀色の光が辺りを包んだ。

「な、何よ! この光!」

ラミアは目を眩ませながら後ずさる。


『流架! その札に力を込めろ!』


「え、えっと……はぁあああ!」

流架は力一杯札に力を込めると、札から神々しい光が辺り一面に広がり、ラミアを包み込んだ。そして、ラミアは光に飲み込まれた瞬間───

「ギャアアア!!」

ラミアは光の中で塵となって空へと消えていき、その身を包み込んでいた邪悪な気配が消えていった。

「流架、すげぇじゃん! そんな技使えたのかよ!」

「えっと……実は俺自身わからないんだ……」

「わからない?」

「あぁ、この札に力を込めろって言われた気がして……」

「そうか。でも、助かったぜ」

流架は輝の笑顔を見て、安堵の息を吐く。

「あ、そうだ! 森!」

卜部達の無事を確認した後、流架と輝は急いで森が行方不明になった岩場まで走っていったら、静夜はひとり海岸をゆっくりと歩いていた。

「静夜……?」

「あれ? 流架兄……てか、ここどこ?」

静夜は流架と輝の顔を見て首を傾げる。

「それは……てか、そもそもなんでおまえが、ここに!?」

「それがわからないんだよ……気づいたら、あそこにいたんだ」

「わからない!? ……どういうことだ?」

「何かに呼ばれたような気がして……」

「それってもしかして……」

流架と輝はラミアの言葉を思い出した。


『手出だし出来なかったから印を付けただけにしたの。印はやがて獲物を引き寄せる』


もしかして、静夜のあの腕の痣がラミアが付けた印だというのか───そうだとしたら、全ての説明が一本の線に繋がる。

「タイミングが遅くって良かったな……」

「え、何が?」

「いや、こっちの話」

流架はいたずらっ子のような眩しい笑顔で笑った。

「えぇ! 流架兄、何それ! 輝兄!」

「ごめん、おいらわかりませ〜ん」

「もう、教えてよ〜」

「流架さ〜ん、輝さ〜ん! 無事ですよ〜」

静夜の言葉を遮るように、李がこちらに手を振りながら駆けてきた。見ると森は卜部と稲葉のふたりに支えられながら、何とか歩いていた。

「お、良かったな!」

「あれ? なぜ静夜さんがここに?」

「ま、細かいことは気にしな〜い」

「じゃ、帰ろうか!」

「あ、ちょっと待ってください!」

流架を先頭に輝は町に向かって歩き出した。

「えぇ〜! 置いてかないでよ〜!」

「ほら、静夜! 早く来ないと置いていかるぞ!」

「うぅ……」

輝に急かされ、静夜はトボトボと追いかけた。



◆◆◆



真夜中、ひとりの老人が岩場に立っていた。


「せっかく封印を解き、復活させたのに……」


老人がマントを翻すと、肩まで伸びた白銀色の髪を黒いリボンで縛った大柄な壮年の男性が姿を現し、血のように赤い瞳で海を見つめている。

「櫻木流架……あの子が持つ無限の可能性……実に興味深いねぇ」と、男性はクツクツと喉の奥で笑う。


「これから面白くなりそうだ……」


男性の呟きは、波の音と共に消えていった。

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